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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第四章 強敵たちの襲来編
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ダイの真の力の巻

『勝利を逃したジャッキー、しかし何事もなければ楽勝の相手!試合が長引いただけの話でしょう!』


 サキーたちが移動して、最前列のモンスター人間たちの動きを見張り始めた。少しでも怪しい動きをしたら排除の構えだ。


「お前ら……やはりダンゴムシを勝たせるために来たんだな。しかし残念だったな。ジャッキーとあのクズでは勝負にならない」


「………」 「………」 「………」


「大人しく座っていろ。あいつが負けて失脚、もしくは処刑されたら、お前らが代わりに虫組のメンバーになれるんだろう?それで満足しておけ」


 返事をしたら反則を認めたことになるからか、全員黙っている。しかしその目は敵意に満ちていて、どこかで何かをやってきそうな気配だった。



「すごい根性だね……まだ続けるの?」


「諦めない限り……試合は終わりません!」


 ダイの対戦相手が私でよかった。もはや勇気を通り越して無謀な挑戦だ。相手を間違えたらあっさり死ぬ。


「私が勝てば虫組の皆さんは助かります。制裁ではなく祝福をいただくためには……私がやるしか!」


 残飯しか食べさせてもらえないような扱いだったのに、仲間たちを救うために戦っている。だからダイを責めることはできない。


(………私もそうだったからね………)


 絶対に勝てない大聖女の妹マキ、相手を徹底的に痛めつけるマーキュリーとの戦いに挑んだ。これ以上は危険だ、早く棄権しろと言われたけど私は最後まで戦い抜いた。


 マキの未来のため、マーキュリーに愛を教えるために私も命を張った。たまたまうまくいっただけで、演技をしていたマキはともかくマーキュリーとの戦いはよく生き残れたと我ながら思う。



「それならもう一度!今度は邪魔も入らない!」


「邪魔?何のことを………わっ!」


 大量の虫が現れたことを倒れていたダイは知らない。私の言葉を不思議に思い、そのせいで反応が遅れた。


『再び体当たりだ!ダイは万事休すか!?』


 肩慣らしは終わった。今度は場外まで飛ばす威力だ。

 

『ダイ、背中を向けて丸まるだけ!』


 一撃で終わらせてあげたほうがダイのためだ。ここは手加減せずに……。



「うわっ!!」


「うわっ………え?」


 

 吹っ飛んだのは私のほうだった。ダイも驚いている。


『ジャッキーがダウンしている!何が起きた!?』


「ジャッキーさん!」 「ジャクリーン様!」


 ダイの背中だ。あの鎧に跳ね返された。



『ダンゴムシのダイ、その背中は飾りではなかった!本人もわからないうちに完璧な防御!』


 お城で触った時は硬かったのに、いきなり軟らかくなった。硬度を自在に変えることができるようだ。


「私の背中が……勝手に?」


 しかも本人の意思を無視して変化している。ダイ自身の判断力や戦闘センスが悪くても関係ない、強力な背中だ。



「もう一回試してやる!てやっ!」

 

 ダイの背中にパンチを食らわせる。不思議な鎧の力を確認したいだけだから、あえて身体は狙わなかった。


「うあっ!やっぱり硬いままか!」


「……や、やった!」


 まさに『防御こそ最大の攻撃』だ。これ以上背中を攻撃するのは無意味だからやらないとして、ダイが自分の強みを理解してしまったのが痛い。


「私………チャンピオンになれちゃうかも!」


 弱気はどこかへと消えて、自信に満ちた目になった。どうしてダイが今日までこの最大の武器兼防具に気がつかないまま生きてきたのか、大きな謎だ。



「むむむ………」


『ジャッキーが前に出られなくなった!一方のダイも自分から攻めるタイプではないだけに……』


 このままだと決着はつかず時間切れだ。ここまで互いに一勝、この試合で引き分けると三番勝負そのものも引き分けとなる。その場合は私の防衛で、魔王軍にとっては負けと同じだ。そんな甘い話は……やはりない。



『いや!ダイの姿を見ろ!あれは!?』


 きっかけ一つで急成長というのは、マユの試合で見たばかりの光景だ。ダイも新たな段階に入った。



『黒光りする鎧の中に腕も足も全て収納!ほんの僅かな隙間から両目が確認できるだけ!』


「これから出す技は練習でもやったことがありません。でもどう動けばいいか、感覚でわかります!」


『その目も隠れてしまった!これでは前が見えないが、ダイはどうするつもりなのか!』


 ここからどんな攻撃ができるのやら。手足が使えないどころか私がどこにいるのかもわからないのだから。




「技の名前もすぐに思いつきました!いきますよ!『アルマジリジウム・ローリング・アタック』――――――ッ!!」


「まさか……うわっ!」


 猛スピードで転がってきた。どうにか間一髪で避けたけど、ロープを使ってすぐにまた突進してくる。


「……っ!はしごが!」


『リング中央のはしごを豪快に吹っ飛ばす!柱にぶつかり、再び一直線に転がる!』



 速さと力強さ、どちらも文句のつけようがない技だ。ただし大きな欠点がある。前が見えていないせいで、無駄な動きが多い。どうやっても私に当たらないような突進を数回続けることがある。


「ダンゴムシは適当にぐるぐる回っているだけだ!リングは狭い、いつかは命中するだろうと!」


 そういうことか。確かにそのうち絶対に避けられない距離や角度からの攻撃が来るだろう。


「ジャッキー様!こいつが疲れるまでいったん外に出ましょう!」


 ダイの挑戦を受けて立つとはいったけど、この技は止められない。勝つために最善を尽くすことこそダイへの敬意で、それならここは脱出だ。



「よし、今のうちに!」


 この軌道ならあと10秒は私のところに来ない。ダイに背中を向けてリングから逃走を試みた。




「ぐあっ!」


「えっ!?その声は審判さん!?」


 ところがここで事件が起きた。ダイの攻撃が審判に誤爆し、動揺したダイの動きが乱れた。急に止まることはできないアルマジリジウム・ローリング・アタックは向きを変えて………。



「あがっ!!」


「ええっ!?今度は……ジャクリーンさん!?」


 油断していた私は背後からやられた。リングから突き落とされ、情けない姿でダウンした。

 ダンゴムシのダイ……虫組最弱と思われていたモンスター人間。無意識のうちにジャッキーとの距離を詰める。背中の鎧は完璧な防御を誇り、攻撃にも使える。名前の元になったのはGSバンド『ジャッキー吉川とブルー・コメッツ』の井上大輔。『ジャッキー』の名前が入ったものが元ネタということは……。

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