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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第四章 強敵たちの襲来編
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串焼き早食い対決の巻

『こんな勝負にも審判がつきます!試合開始の合図と勝者の腕を上げることぐらいしか仕事はありませんが……』


 反則や妨害を阻止する役目もあるけど、私とダイの勝負にそんなことは起こらない。確かに審判の出番は最初と最後だけだ。


「では……始め」


 早食い対決に呆れてやる気が出ないのか、審判の合図は普段よりも小声で適当だった。これでも最高位の王座を争う戦いなのだから、真剣にやってほしい。




「………お…おいしい!こんなにおいしいなんて!」


「ね?言った通りでしょ?」


 最初のひと口でダイは感動していた。使っている肉のレベルに加え、焼き具合や塩の質もこのお店のものは素晴らしい。それでいて誰でも買えるような値段なのだから、完璧と言うほかない。


「私……いつも残飯ばかり食べさせられていましたから……幸せですっ!あむっ!」


 これはよくないな。そんな状態でまともな料理を食べたら何でもおいしく感じてしまい、この串焼きである必要がない。また今度改めて食べさせてあげよう。



『試合は早くも終盤!ダイがリードしている!』


「えっ!?は、速っ!」


 もっとゆっくり食べるイメージがあった。急いでいる感じはないのに、差が広がっていく。お腹が減っていたのか、おいしすぎて止まらないのか……勢いは衰えない。


『ダイは最後の串だ!ジャッキーはまだ二本丸々残っている、これは大勢決したか!』


 余計なことを考えすぎた。いや、それ以上に味わって食べたのが敗因だ。緊張感が足りなかったのは審判ではなく私だった。



「はいっ!」


『ダイの口の中が空っぽになった!ここで試合終了の鐘が鳴り、魔王軍のダイが星を五分に戻しました!』


 魔玉運びは引き分ける可能性もあると思っていた。でもこれは勝てると確信していただけにショックだ。


「どうにか最終戦まで繋ぎました……勝負です!」


「………うん。次が本番だよ」


 ダイのやる気が伝わってくる。それなら私も全力で戦わないと失礼になる。かわいそうだから傷つけたくない、そんな思いは捨てよう。




『泣いても笑っても次で全てが決まります!ジャッキーの防衛か、新王者の誕生か……おや、兵士たちが高いはしごを持ってきて……』


 試合の邪魔にしか見えない道具をリングの端に置いた。皆がはしごに注目していると、それ以上に驚くことが起きた。


「あっ!み、見ろ!王冠だ!」


「しかも浮いているぞ!魔法でやってるのか!?」


 お城の魔術師たちの力で王冠が宙に浮いている。全く動かないから、魔力によるものだと皆がすぐにわかった。空を飛ぶ鳥や風で舞う軽いものとは違う。



「最後の試合は30分勝負。私の身長より三倍は高いところにある王冠を先に手に入れたほうが勝ちです!」


 そのためのはしごだ。魔法や飛び道具を使って地上に落とすことはできないようになっていて、直接取るしかない。


「3カウントやダウン、場外による決着はありません。しかし相手がしばらく立ち上がれないほどダメージを与えないと、王冠を掴むことはできないでしょう」


「なるほど……今度こそ戦いが見られそうだ」


 勝利条件は王冠を取ることだけ。でもその王冠はリングの中央にあって、相手を無視して取りに行くのは無理だ。私もダイも空を飛べないから、はしごを使う必要がある。



『虫組最後の一人、ダンゴムシのダイ!スピード勝負を苦にしそうですが、それはジャッキーも同じ!』


『パワー比べになるだろうが……虫組の連中はそれぞれ特殊な力を持っていた。こいつも何か隠し持っているのではないか?』


 ダイが何をしてくるか、戦いながら確かめよう。器用には見えないし、まずは鎧のような背中だけ注意していればいい。


「開始っ!!」


 私は正面からぶつかるだけだ。ダイの挑戦を受け止めて、それ以上の力で跳ね返す。




「ていっ!ていっ!」


『ダイの手刀攻撃!しかしジャッキーは避けない!』


(……全然効かないぞ?)


 回避、防御、反撃……今のところ、何もしなくていい。これで全力のようだ。


「これなら……ああっ!!」


『この至近距離でキックを空振り!転倒した!』


 威力がないのに失敗までする。あまりにも弱すぎて、ここからどうしようか……とても悩む。



「うう……まだまだ!」


 ダイはまだ立ち上がる。そのまま寝ていてほしかったけど、闘志があるのなら仕方がない。


「よし、次は私の番だ!」


「こいっ……うわあっ!」

 

 体当たり一発でダウンした。かわいそうすぎて、とても追撃する気になれない。


『力の差は明らか!しかしこの戦いはいくら相手を叩きのめしても王冠を取らなければ勝利とはなりません!』



 ダイはもう無視していい。はしごを取り、リングの中央に置いた。


『ジャッキー、勝利へ一直線!ゆっくりと……』


 慎重に王冠を目指す。ところが、はしごを上がろうとしてすぐに異変が起きた。



「うわっ!?」


『こ、これはなんだ!?ジャッキーの行く手を阻むように、黒い何かが壁になっています!』


 羽音がする。この塊は大量の虫だ。何千……いや、何万匹?とても先に進めない。


『思わぬ邪魔者にジャッキーも一度撤退だ!串焼きの匂いがまだ残っていたせいか、虫たちが……』



(いや……こんなにいっぱい、しかもきれいにまとまって飛んでくるはずがない!)


 犯人はすぐにわかった。最前列にいるモンスター人間たちだ。虫の大群を出した瞬間は見ていないから証拠はないけど、あの集団以外に誰がいるのか。


「死体の周りでもあんなに虫は群がらないぞ」


「ジャッキーがリングに戻ったらいなくなった!」


 怪しんでいるのは私だけではない。チーム・ジャッキーどころか観客たちまでモンスター人間を警戒し始めたから、もう変な真似はできないはず。


(早々に敵の奥の手を潰せたと思えば……)

 

 ダイの予想とは違い、魔王軍は私の邪魔をしてきた。でも驚かされるのはこれで終わりだ。




「ううっ……あれ?まだ負けてない………」


 ダイは妨害者たちに気がついていない。観客席のモンスター人間たちの独断で私を阻止したと考えるべきか。仕切り直しだ。

 WD対HOTの完全決着戦は何でもありの金網マッチが濃厚となりました。帝国との激闘を経験しているWDに対し、乱入や停電、パイプカットで遊んでいたHOTでは話にならないので、今からでも普通の試合にしたほうがよさそうです。


 ドラゴンゲートでも金網戦が決定!そろそろシュン・スカイウォーカーが痛い目に遭いそうな気がしますが、また味方を犠牲にして生き延びるかもしれません。

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