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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第四章 強敵たちの襲来編
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魔玉運びの巻

「魔玉運び……」 「レースだって?」


 それぞれが入場してきた門のところに魔玉をたくさん置き、10分間でどれだけリングに運べるかを競う。防衛戦がこんな内容で行われることは前代未聞で、大闘技場はどよめいた。


「魔界では珍しくありません。笑ったほうの負け、試合中に売店で武器を調達、相手陣営の誰から3カウントを奪っても勝ち……強さに加えて賢さや面白さが問われる戦いは、総合力が試されます」


 私もダイから聞いて驚いた。魔界の戦いは『死ぬまでやる』、『残虐に倒す』、『流血と反則』……そんな暗いイメージだった。


 魔族が好戦的なのは事実で、いろんな場所で常に試合が行われているようだ。だからこそ様々なルールや条件があり、種族や年齢、体重別に細かく王座が分けられている地区もあるという。



『しかしそれにしても魔玉を運ぶだけとは……戦いと呼べるのでしょうか?』


『いや……直接の勝敗は魔玉の数だが、最初に相手を倒してしまえばレースにはならないだろう』


 王様がいいところに気がついた。攻撃や妨害は認められていて、自分しか動けない状態になってからゆっくりと魔玉を一つ置けば勝ちだ。


「そうか、真面目に数を競う必要はないのか」


「リングから離れたところにある魔玉を取りに行けるくらいに敵を痛めつける戦いか……」



 観客たちが納得したところで試合開始だ。私とダイの最初の立ち位置は通常の試合と同じだった。


「正々堂々、いい勝負をしようね」


「はい!よろしくお願いします!」


『爽やかな握手だ!この二人なら反則や卑怯な手で試合が汚されることはないでしょう!』


 ダイの戦い方や得意技は一切わからない。それでもダイが信頼できる相手だというのは断言できる。まだ出会って間もないけど、これからもっと仲良くなれる。




「始めっ!!」


『試合開始の鐘が鳴った!どちらが先に仕掛けるか!』


 私が王者にふさわしい戦いをするのか、未知の強豪ダイの実力はどんなものか。この大歓声が観客たちの期待の証だった。



「……え?」 「あれ………」


『ジャッキーとダイ、すぐに自分の魔玉を取りにリングを下りた!』


 その期待を裏切るように、私たちは魔玉を目指して走った。戦う気は一切なかった。



「ふんっ!ふぬぬぬ……」


「よいしょ、よいしょっ……」


 重いけどゆっくり運べば問題ない。ただしダイのスピード次第では急ぐ必要がある。


(この感じなら今のままで……)


 私のほうが少しだけ速かった。このルールは先行すれば圧倒的有利になる。妨害して時間稼ぎをすればリードしたまま逃げ切れるからだ。



『まずはジャッキー、魔玉をリングに置いた!』


 あとはダイの邪魔をすれば1対0で終わる。でも私はあえて次の魔玉を取りに走った。地味でも堅実に積み重ねていくのが私もダイも好きだから、わざわざ自分で場を乱す気にはならなかった。


「ジャッキー様!あいつの動きを止めたほうが……」


「いや、このままレースを続ける。どっしりと受けて立つ、これが王者の余裕ってやつだよ」


「そ……そうですか?それなら……」


 ダイに追い越されそうになってから動けばいい。無駄な攻撃はいらない。



『両者黙々と魔玉を運ぶ!スピードは落ちない!』


「ふぅ、ふぅ……」


「よいしょっ……」


 私もダイも自分のペースを守り続けた。遅れているダイは無理をしたくなるところを我慢して、私のミスを待っている。しかし私は最後まで余力を残していたので、ダイの作戦は失敗だった。




「ジャクリーン・ビューティ……記録、11個!そしてダイ……記録、10個!よってジャクリーン・ビューティの勝ち!」


『とうとう最後まで戦うことなくジャッキーの勝利!接戦を制しました!』


 魔玉を運ぶためには体力や筋力に加えて魔力を使う。このまますぐに次の第2試合に入ると魔法が使えない……なんて心配はしていなかった。次の試合にそんなものは必要ないからだ。


『ジャッキーが王手!次はどんなルールなのか!?』


 次は私の考えたルールだ。ここで勝てば最終戦を待たずに私の2勝、防衛が決まる。



「ん………?」 「なんだ?」


『リングに運ばれてきたのは……肉の串焼きだ!』


 私の大好物が到着した。焼きたてを持ってきてくれたようで、いい匂いだ。


「第2試合は……串焼き早食い対決!先に10本完食したほうの勝ちです!」


「はぁ!?」 「なんじゃそりゃ!?」


 魔玉運び以上に大闘技場がどよめいた。しかも今回は食べるだけで、相手への攻撃や妨害は禁止だ。


『まさかの対決方法……もはや何でもありなのか!?』


 実はこの早食い勝負、全てはダイのためだった。いくら串焼きが大好きな私でも、自分が食べたいからという理由だけで大事な三本勝負の一つにはしない。




「せっかくジェイピー王国の中心に来たんだから、何かおいしいものでも食べていきなよ」


「そうですね………もしかしたら最後の食事になるかもしれませんし。魔王様の制裁で………」


「……そんな不吉なこと、冗談でも言わないほうがいいよ。私のおすすめはお城のすぐそばにある……そうだ!」




 ルールを決める打ち合わせの最中に思いついた。ぜひダイに絶品の串焼きを食べてもらいたい。あまりのおいしさに暗い気持ちが吹き飛んで、魔王に抗う活力も湧いてくるはずだ。


 それだけではない。魔玉運び、早食いで私が連勝できれば、ダイの身体を傷つけずに試合を終えられる。虫組の他の五人とはかなり能力に差があるというダイは、性格も戦いに向いていない。特殊ルールで倒してあげるべき相手だ。



『リング上に置かれたテーブルと椅子!串焼きが10本乗せられた皿がそれぞれ両者の前に置かれました!』


「神聖なリングで何をやってるんだ!」


「戦いを汚しやがって……解説のゲンキ王が悲しくて泣いているぞ!」


 一部の観客からヤジが飛んできた。しかし王様は泣いてなんかいないし、怒ってもいない。むしろ笑っているように見えた。


『ハハハ!面白いことを思いついたじゃないか。ジャクリーン・ビューティ……見直したぞ』


 革命を起こして王国を手に入れた人間だ。正統派の戦いだけでなく無茶苦茶なことも実は好んでいる。『ゲンキ・アントニオが泣いている』、その批判は的外れだ。

 昔のプロレスのほうが面白かったという懐古厨、アントニオ猪木が泣いているなどとイタコ遊びに励む連中は昔のVHSを飽きるまで観ていればいいでしょう。これはどのジャンルでも同じ話です。しかしVHSもそろそろ見れなくなりそうなので早めにデータ化しておくようにとOZAWAがありがたい忠告をしてくれました。


 今回の三番勝負の元ネタはオーカーン様が『KOPW』で提案した対戦形式です。タイヤ早積み、餃子対決で検索すれば、笑撃……いや、衝撃の光景を見ることができます。

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