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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第四章 強敵たちの襲来編
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三本勝負の防衛戦の巻

 ダイは震えていた。それでも王冠を手に、まだ自分が残っていると言う。確かにダイが倒れなければ全滅ではない。


「こいつ……虫組では一番の雑魚なんでしょう?」


「私がもう一戦するか。軽く捻ってやる」


 帰ってきたマユとサキーがダイの前に立つ。しかしダイは勇気を振り絞り、二人を押しのけて私の前に立った。



「わ、私が戦いたいのは……ジャクリーン・ビューティさん……あなたです!お…お願いしましゅ!」


(噛んだ……) 


 緊張と恐怖に負けず、私に宣戦布告してきた。自分の夢や仲間のために立ち上がったその決意に応えるのも優しさだ。私はダイの手を取った。


「いいよ、やろう。私の記念すべき初防衛戦の相手は……ダイで決まりだ!」


「……ありがとうございます!正々堂々戦いましょう!」


 試合会場はすぐそばの大闘技場で、試合をやると知った人たちがあっという間に集まってきた。



「ジャッキーの楽勝だな。相手が弱すぎて盛り上がらないだろう」


「それならまだいいでしょう。弱い者いじめの光景になり、ジャッキーさんが悪者にならないか……」


 勝ち負けの心配は誰もしていない。ダイを一方的に痛めつけて、私のイメージが悪くなることだけが気がかりのようだ。


「………だったら私にいい案がある。熱戦になるよ」


 ただ強いだけでは、王者として皆の支持を得られない。面白い、どきどきさせるような試合を見せる必要がある。ダイを無事に帰すためにも私の考えたルールはちょうどよかった。




「……三本勝負……ですか?」


「先に2勝したほうが勝者だよ。一度は負けられるから少しは気楽に戦えるはず。どうかな?」


 一本勝負だとダイは危うい。重圧に潰されて本来の実力を全く出せないまま終わりそうだ。


「ありがとうございます!それでお願いします!」


 ダイが断れば無理強いをするつもりはなかった。三本勝負を受け入れてくれたから、次の提案に移れる。



「そして試合形式も普通とは違う……特殊なルールでやろうと思うんだ。そのほうが見ている側も飽きないと思ってね」


「特殊なルール……例えば?」


「それは今から二人で考えよう。互いに納得する、観客たちを楽しませることができる試合を!」


 おそらく史上初、前例のない試みだろう。私が王者、ダイが挑戦者だからこそだ。


「……面白そうですね!それに……これなら私にも勝つチャンスがあるかも!やりましょう!」 

 

「よし、じゃあ早速ルールを決めようか」


 私たち二人は小さな個室で短い打ち合わせをした。互いに力を出し切り、観客たちも喜んでくれるはずのルールが三つ、すぐに決まった。



「……大丈夫か?相手に有利な条件の試合ばかりになっていないだろうな?」


「ジャッキーさんは優しいですからね」


 みんなは不安そうだ。でも大丈夫だ。


「まあ見ていてよ。いい試合をした上で私が勝つから。みんなが守ってくれたこの王座……簡単には渡さない」


 ダイに勝利を譲る気なんか全くない。私にしては珍しく自信に満ち溢れていた。






『チーム・ジャッキー対魔王軍虫組の戦いもついに最終戦!王者ジャッキーがダンゴムシのダイの挑戦を受けます!そして解説はなんと国王様です!』


『この防衛戦は三本勝負、しかも毎回違ったルールで行われるらしいが……どうなることやら』


 3カウントではなく2カウント制、場外カウントなし、打撃や魔法の禁止……いろんな予想の声が聞こえる。リングでの戦いは使える武器に制限があり、魔法の威力も抑えられる。それらを全て撤廃して、何でもありで死ぬまでやるという物騒な展開を望んでいる人たちもいた。


(今回の試合……特に最初の二つは………)


 誰も当てられないだろう。私とダイが考えた、好勝負間違いなしの戦いは。



『東側からジャッキー、西側からダイが出てきました!王者はたくさんの仲間を連れての入場ですが、挑戦者は一人!虫組の残る五人はここにはいません!』


 ダイは完全に一人ぼっち……というわけでもなかった。観客席の最前列には魔族が何人もいて、しかも全員ダイと同じく虫型のモンスター人間だ。


「ダイ……あの人たちは?」


「はっ、はい。虫組の正式なメンバーではありませんが、私たちの仲間です。王冠を盗んだ実行犯は…実はあの人たちです」


 王冠を守っていた奴隷の人たちから、その時は虫がたくさん飛んでいたと聞いている。しかしこれまでに登場した虫組は誰も大量の虫を飛ばしていない。


「ゴキブリのカササやハエのブーンみたいな能力を持つのはあいつらか……」


「左からシデムシの『オック』さん、カナブンの『ヒサ』さん、イナゴの『カガ』さん、ゴミムシの……」


「いや……紹介はいらない。私たちが気になっているのは、あの連中が試合の邪魔をするんじゃないのかってことだ!」


 リングの外からダイの援護をする気か。小さな虫を目や口に向けて飛ばされたら確かに厄介だ。



「………邪魔をするとしたら……私に、です。そちらは平気……だと思います」


「………?」 「味方じゃないのか?」


「あの人たちは私たち六人より格下の位置にいます。ですが欠員が出たらすぐに昇格できる立場でもあるので……私が負けていなくなれば喜ぶはずです」

 

 ダイが勝ってご褒美のおこぼれをもらうよりも、今の虫組が全滅して自分たちが新たな虫組となるほうが得るものが大きいのだろう。そうだとしても仲間の敗北を願うのはどうかと思う。


「まあ……こっちはたくさん戦力がいるから、何かあったら止められるよ。それに2試合目までは……」


「あっ、そうでした。邪魔はできませんね」


 特殊な試合だ。妨害や乱入はできないというより、やりようがない。




『三本勝負の初戦……その試合形式が発表されます!王者であるジャッキー自ら大観衆に説明するようです!』


 リング上は私とダイだけになった。場内が静かになり、私の言葉を待った。私が説明するけど、これはダイの考えたルールだ。


「最初の試合は……『魔玉運びレース』!離れた場所にある重い魔玉をそれぞれリングに運んで、10分でたくさん置いたほうの勝ちです!」


 闘技大会の予選でも使った魔玉。パワーと体力を競う勝負になる。 

 あの状況から逆転できるのは横浜DeNAベイスターズだけ!あの流れで追いつかれた挙句サヨナラ負けするのも横浜DeNAベイスターズだけ!流石日本一のお笑い球団です。


 こんな負け方をした時、諦めない戦いぶりに感動したと拍手を贈ることもできれば、あのまま負けていたほうがよかったと唾を吐くこともできます。一つだけ言えることは、4つもエラーした上に新守護神と旧守護神が共に打たれて敗戦するチームにリーグ優勝の資格などないということです。

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