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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第四章 強敵たちの襲来編
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究極の関節技の巻

 マユに逆転されつつあるジュンは、マユの真似をすると言った。自分も愛の力でパワーアップできると自信を見せている。


「私のように……私がジャッキーさんならそっちは魔王への思いで?」


「フッ、あの方に忠誠を誓ってはいるが、恋愛の相手ではない。それに魔王様のために戦ったがこの劣勢、そうなれば………」


 ジュンの六本の腕が戦う構えを見せた。痛めている二本も同じポーズをしていて、ここで勝負をかけてくるのは確実だ。



『ジュンが先に仕掛けた!マユは受けて立つ!』


「私は勝たなくてはならない!出世すればあいつ……トメは戦いの前線に立つ必要がなくなる。魔王軍の本拠地、つまり安全な場所で働けるんだ!」


 どうやらジュンにとってトメは大切な存在で、危険な環境から遠ざけるために今回の任務に励んでいたらしい。魔王と共にマユを勧誘していた時にトメを特別に扱っていた理由がわかった。


「……今日はどうにか死ななかったが、これ以上こんなことはさせたくない。お前を倒してジャクリーン・ビューティの王冠を奪取し、魔王様に献上する!」


 トメはハチなのに針に欠陥があった。フランシーヌとの頭脳戦にも敗れているし、もう戦わせたくないとジュンが思うのも納得だ。



「……ぐっ!」

 

『強烈なタックル!そして六本の腕で抱き込んで締め上げていく――――――っ!!』 



 みんなで訓練していた時にトーゴーから教わった技だ。トーゴーの先祖がいた異世界では『ベアハッグ』と呼ばれていて、力任せに敵の背骨をへし折る。


 怪力自慢が使えば身体を真っ二つにしてしまうこともできそうで、単純な技なのにとても恐ろしい。しかもジュンは六本の腕の持ち主、威力は三倍だ。


「かはっ………」


「ウオオ――――――!!」


 マユのスライムボディでも抜け出せない。密着されているから逃げる隙間がなく、苦しんでいた。



「審判がそばにいればここで止めてくれただろう!しかし今、お前を助けてくれる者は誰もいない!」


『必死に抵抗するマユの動きがだんだん小さくなっていく!これ以上は危険だ!』


 戦いの舞台を用意したのは魔王軍、当然審判も魔王軍の関係者だろう。マユが危なくなっても試合は続行される。


「私たちの夢のための犠牲となってもらう!そして魔王様を軽く扱った罪も償え!」


「……………」


 絶望的な状況でも、マユの目はまだ死んでいなかった。これなら私も心配せずに応援できる。



(反撃のチャンスは一度きり……そこに全ての力を!)


 失敗したら命を落とす……そこまで追い詰められてもマユに焦りはなかった。


「ジャッキーさんと結ばれないまま死ぬなんてことはありえない!タァ――――――ッ!!」



 マユが全身に力を入れると、僅かにジュンの締めつけが緩んだ。左右一本ずつ、すでに痛めていた腕が悲鳴を上げたようだ。


「ここだ!」


「ぐああっ……!!」


 特にダメージが大きかった右上の腕に頭突きで攻撃。ジュンの動きを止めることに成功した。



「お前はもう私の関節技を振りほどけない!すでに力は半分以下になっている――――――っ!」


 右上と左下が使えなくなり、バランスが悪くなっている。しかも右上は六本の腕の中でも一番破壊力のある攻撃を繰り出していた。これならマユのパワーでも押し切れる。


「これで終わりだ――――――っ!!」


『おおっ!これはとても複雑で難解な立ち関節技!全身を使って腕を、足を、股関節を完全に極めている!マユにしかできない芸当だ!』


 ちゃんと見ていても何がどうなっているのか説明できないほどだ。わかっているのは、ジュンに逃げ道はもうないということだ。


「ぐぐっ……こんなもの………!」


「はあ―――――――――っ!!」


 マユのダメージもかなり蓄積されていて、これを返されたらもう打つ手はない。そんなぎりぎりの状態であることが、技の威力を上げていた。勝つため、生きるため……そしてマユが言うところによれば、私と結婚してたくさんの子どもたちに囲まれる未来のために。

 



「グァガ―――――――――!!」


『き、決まった―――!!ジュンの右腕全て、それに左足をつけ根から完全に破壊した――――――っ!!』


 マユの成長スピードは私の予想を遥かに上回っていた。どこまで強くなるのか、楽しみで仕方がない。


 ただしその一方で怖さもあった。もし私がマユを怒らせた時、マユには私を簡単に壊す力がある。そしてやると決めたら猶予を与えずすぐにやる思い切りのよさもある。女王や他のスライムたちではなく、マユ自ら私を………。


(………裏切らなければいいだけなんだけどね………)




 私が変なことを考えている間に、もはや立っていられないはずのジュンがマユとの距離を詰めていた。その執念は魔王への忠誠心ではなく、愛する者との夢を叶えるためだ。


「ま……まだ私には二本の腕がある………お前と同じ本数だが、実力差を考えればこれくらいでちょうどいい……」


「………」


「私は虫組最強、蜘蛛のジュンだ。スライムごとき相手に負けるわけには………」


 しかし身体がついていかなかった。ふらふらとロープに向かうと跳ね返った衝撃に耐えきれず、マットに沈んだ。



「しょ…勝負ありだ!勝者はマユ!」


『ここで試合終了!ダウンカウントの必要はなく、スライムのマユが勝利を決めた!チーム・ジャッキーが全勝、王座を守り抜きました――――――っ!!』


 結果的には魔王が登場したことでマユの覚醒に繋がり、ジュンに勝てた。あのまま試合が続いていたらどうなっていたか、考えるまでもない。


「……お前のジャクリーン・ビューティへの愛………底知れないな。ま……まだまだ強くなれそうじゃないか」


「そっちが最初から全力なら私に勝ち目はなかった。それに魔王が現れなければ……あれ?いなくなっている………」


「負けた私を見限って魔王城に戻られたのだろう。夢は叶わなかった上にこれから待っているのは厳しい罰だろうが………お前に負けたのなら悔いはない」



 ジュンは潔く敗北を認めた。この先のことは魔王と虫組の問題だから、私はどうすることもできない。


「まあ……どうしても怖いから魔王の前に出たくない、そんな人がいたらビューティ家が助けてあげられるけど」


 ダイだけはここにいるし、魔王とその配下から守れる。魔王はダイのことをどうでもいいと思っていて、どこかに逃げても追ってこないというのもありえる。


「とにかくこれでチーム・ジャッキーの全勝!ジャッキー様の王座は守られて終了ですね!」


「ああ。敵は全員倒した。完全勝利だ……」


 今回の戦いは終了、私は何もしないまま王座防衛。王冠も戻ってきて大団円……とはならなかった。



「………終わってません!私がまだ……残っています!」


「え?ダイ!?」

 蜘蛛のジュン……虫組のリーダー。六本の腕による激しい攻撃に加え、蜘蛛の糸を使った技もある。名前の元になったのはGSバンド『ザ・スパイダース』の井上順。スパイダースは解散後もそれぞれの分野で活躍する優秀な人材をたくさん輩出した。

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