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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第四章 強敵たちの襲来編
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マユの覚醒の巻

 マユは魔王の誘いを蹴った。つまりそれは、とても強いジュンとの勝負を続けるということでもある。


「魔王様……こいつを生かしておく理由はもうありません。あなた様に直接反抗したのですから」


「ハハハ……ここまではっきりと余を拒絶する者はとても珍しく、面白いとすら感じてしまったが……」


 魔王の愉快そうな笑い声が響く。とはいえこのままマユを許すはずがなかった。



「愚かすぎて生きる資格がない。余に代わり処刑せよ。やはり気が変わった、助けてくれなどと命乞いしても決して聞く耳を持たぬように!」


「助けてくれ?いいえ、もう殺してくれと言うまで拷問しますよ。もちろんその頼みも聞きませんがね」


「素晴らしい!さすが蜘蛛のジュン、余の望みをわかっている!」


 残忍な本性を隠そうともしない。やっぱり魔王軍なんて入らないほうがいいとマユだけでなく皆がこれでわかったはずだ。魔王の部下になったら、いつ気まぐれや腹いせで殺されるかわかったものではない。


「さて……休憩時間は終わりだ」


「……………」


 ジュンが右側の三本の腕をぐるぐると回す。マユはゆっくりとジュンとの距離を詰めていった。




「マユ………さっきとは違う。やってくれそうな気配はあるけど……」


 相手も惨殺を宣言した。マユがどれだけ痛めつけられても試合は続けられる。私たちがここから叫んでも止まらないだろうし、不安だ。


「そんな顔をするな、ジャッキー。私たちは最初から無事に戻れないこともあると覚悟してお前の代わりにリングに上がったんだ」


「だから心配そうに見つめられるより、立ち上がって大きな声で応援してくれるほうが嬉しい」


 サキーとマーキュリーの言う通りなのはわかっている。みんなが勇敢に戦ってくれているのだから、私も強い気持ちで観戦しないと。



「………ジュンさんがもし負けちゃったら……はひ……」


 私が今心配してあげるべきなのはダイだ。マユの変化を見て、ジュンが敗れることで魔王の制裁を受ける未来もありえると怯えていた。


「どこか……このお城かジャクリーンさんのお家の近くに私が住めそうな場所はありませんか?」


「探せばいくらでもあると思うけど……そうだ!どうしても困ったら私の家に来れば安全だ。お金もかからないよ」


 ビューティ家は私が連れてきたチーム・ジャッキーの仲間たちでどんどん数が増えている。お父さんからはそろそろ独立も考えたらどうかと言われているし、簡単に誘わないほうがいいのかもしれない。それでも困っているダイを放ってはおけなかった。




「雑魚が少しやる気になったくらいで逆転できるわけがない!大人しく言うことを聞いていれば助かったものを―――っ!」


 ロープを使って勢いをつけたジュンが選んだ技は両足での飛び蹴り。自慢の腕で攻撃してくると思わせておいて、意表を突いてきた。


「……甘いっ!」


『マユが溶けた!攻撃を避けて……そのままジュンの身体に飛び乗った!』



 上半身だけ元の姿に戻り、ジュンに巻きつく。狙いは得意の関節技だ。


「簡単に破られたのにまたやるとは……むっ!」


「今度は違う!狙いを一点に絞った!」


 ジュンの左下の腕だけを極めていた。範囲が狭ければパワー不足は補える。そして今のマユはとても速く、残りの五本に邪魔をされる前に事を終えた。



「グア〜〜〜ッ!」


『お…おお!ジュンの腕が破壊された!一気にへし折ったか、そうでなくても大ダメージ!』


 私だったら関節技を完璧に極めても、最後のひと押しを躊躇ってしまう。これ以上我慢すると大変なことになるからギブアップしてねと心の中でお願いしながらやっている。


 しかしマユは思い切りがよかった。そうでなければ技は失敗、逆にピンチとなっていたからこれで正解だ。



「や…やはり強くなっているようだな。しかし私にはまだ五本の腕がある!」


『蜘蛛の巣攻撃だ!動けなくなれば最後、蜘蛛の餌になってしまうぞ!』


 またしても捕まってしまった。両手両足が糸で固定されて、逃げることはできない。


「さて……腕の恨みを晴らすとするか。まずはその無防備な腹に一発!」


 一番上の右腕がマユを襲った。ここからじっくりとマユをいたぶるつもりだろうけど、こんなパンチを受けたら一発で死んでもおかしくない。それなのにマユは自信に満ちた表情を崩さなかった。



「フンッ………あっ!?」


 ジュンのパンチはまさかの空振りだ。動けないマユがお腹への一撃を避けた方法は衝撃的なものだった。


『マユの腹が空洞になっている!?何もない穴だ!』



 技というよりも奇術と呼んだほうがよさそうな、とんでもない回避の方法だ。しかも防御だけでは終わらなかった。


「かかったな!むんっ!」


「う……腕が!うぐぐ………」


 マユはすぐに身体を元に戻し、ジュンの腕をスライムボディで固めて抜けないようにした。そのまま圧迫して、壊していく。



「これで二本目!てやぁっ!」


「ぐあっ!!」


『腰の動きだけでジュンを投げた!腕は抜けたが蜘蛛の巣も壊れてしまった!』


 倒れたジュンは右腕も一本痛めたようだ。形勢は完全に逆転した。



『虫組最強の戦士を圧倒するスライムのマユ!この覚醒は本物だ!』


「……スライム族の進化は人間と親しくなった時……言い伝えは正しかった」


 マユの里帰りに同行した時、スライムの女王たちから私も聞いている。長い歴史の中で極めて稀に人間と親密な仲になるスライムがいて、本人だけでなく一族全体に発展と進化をもたらすと。


「ジャクリーン・ビューティとの絆がお前を強くしたと……?それなら始めからこれぐらいやれてもよかったはずだ。なぜ今になって……」


「この言葉の意味を真剣に考えていなかった。でもお前との戦い、それに魔王が目の前に現れたことで命の危機を感じ……改めて理解した!」


 窮地が人を強くする。そのまま倒れてしまう危険もあるけど、乗り越えることで自信と経験を得る。伸び盛りのマユにとって、今日の試合は急成長のきっかけになった。



「そう、ジャッキーさんと私の子どもたちこそスライム族を高みに導く!魔王の手を借りなくてもジャッキーさんさえいれば私も一族も幸せになれる!」


「………ん?」


 ジュンだけでなく、お城にいる大多数の人たちがきょとんとしている。『そういう話なのか?』と疑問に思っている顔だ。


「私が生きて帰らないと全ての幸せや希望が消えてなくなる!私自身のため、スライム族のため……何よりジャッキーさんのために、この試合に勝つ!」


 女王やマユの両親も私とマユが結ばれることを望んでいる。残るは私の決断次第というところまできていた。



「フ……そうか。愛する者との将来、その夢が強さの秘訣か。単純だが確かに凄いパワーを引き出すようだ」


「………!」


「ならば私も真似してみるか。私にもできるはずだ、そのやり方が!」

『新日コレクション』、ついにサービス終了!短命だった新日SSに比べたらかなりの長寿でした。大往生と言えるでしょう。また似たようなゲームを始めるようですが、ブシロードが親会社のくせにそっち方面の展開が下手な新日本プロレスですからおそらくは………。

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