二人で一つの巻
『二人が湖の深くに……おっと、再びショーの口からテンプターが出てきた!しかも今度は腕まで出した!』
ハリガネムシは水中で生きる寄生虫で、地上の虫に寄生したら身体を操って川に飛び込ませる。本来いる場所に帰るために、他者を利用して捨てるのが特徴だとサキーが教えてくれた。
モンスター人間になってもそれは変わらないようで、水の中なら自分で戦ったほうが強いということで姿を現した。
「キシャシャ……やっぱり水中はいい!それ!」
鋭いパンチの連打。しかしマキシーには当たらず、空振りを繰り返す。
「おっ!?まさかアンタも……」
「その通りだよ!ふんっ!」
マキシーもやり返した。テンプターは身体を左右にくねらせたり、ショーの体内に戻ったりしながら避けていく。両者一歩も譲らない攻防が続いた。
「水中で無力なアンタを嬲り殺してやるつもりだった……でもこれはこれで面白いからいいか!アタシが本気で戦えばどの道相手は死ぬんだから……」
「違うな!喜んで外に出てきたのはお前の失敗だ!」
試合が始まった時は、水中での戦いになれば自分のものだと互いに確信していただろう。相手の正体を知らず、自分だけが上手く泳げて息が続くと思ったはずだ。
その期待が外れても、二人とも勝つのは自分だと疑わなかった。どちらが正しく、どちらが間違っていたか……もうすぐ明らかになる。
「ギャ――――――ッ!!」
『マキシーの噛みつきが決まった!テンプターの頭に噛みつき、歯を食い込ませる――――――っ!!』
勝ったのはマキシーだ。刃物も同然の鋭い歯でテンプターの動きを止めると、
「フガ――――――!!」
噛みちぎらずにくわえたまま上昇した。一気に湖から出てリングまで戻ると、テンプターの身体が腰の下あたりまで露わになっていた。
「うげげ………お、お願い!やめて!」
マキシーはテンプターの嘆願を無視して、全身を引きずり出した。テンプターの下半身は人間とほとんど変わらず、こんなものがよく人の身体に入っていたなと驚かされた。ショーは気を失っているのか、リングの隅で倒れていた。
『ようやくマキシーが解放した!しかしテンプターの頭部からは大量出血!』
「ぐああ……も……戻らないと」
テンプターにとって出血よりも深刻なのは、陸上で全身がむき出しになっていたことだ。誰かの体内に入るか水中でなければ長くは生きられない不思議な体質だった。
「おっと……そうはいくか!」
「うげっ!」
踏みつけて動きを止め、テンプターの希望を断ち切った。だんだん身体が乾いていくと、抵抗も鈍くなった。
「調子に乗ったお前が出てきてくれてよかった。リングの上では厳しいと思っていただけに、湖での戦いは願ってもなかった……あまりニヤニヤしてると警戒されるから隠すのが大変だったな」
「ぐ……ぐやじ〜っ………」
テンプターが動かなくなった。マキシーが足をどけてもそのままで、審判もすぐに両手を広げた。
『ここで試合終了!勝ったのはマキシー!幻術が思うように通用しない寄生虫相手に勝機を逃さず最後は完全勝利!チーム・ジャッキーの4連勝となりました!』
「やった―――っ!どうなるかと思ったけどマキシーも強かった!しかもショーを寄生虫から解放できた!」
寄生虫だけをやっつけた。素晴らしい勝ち方だ。
「あいつ、生きてるのか?ハリガネムシに寄生された虫は内臓がボロボロになって死んでしまうらしいが……」
「……う〜ん………」
身体がバラバラになるような動きを繰り返したり、湖に飛び込んで水中で戦ったりした。何度も口から出たり入ったりしていることを考えても、ショーの状態はかなり厳しそうだ。命が助かればよしとすべきか。
「………!」
「おっ……目覚めたか。自分の名前やこの場所はわかるか?あんたはそこの寄生虫に操られていた。その時の感覚や意識がどの程度残っているか……」
とりあえず生きていてよかった。しかし立ち上がることはできないようで、横になったまま死にかけのテンプターを見つめていた。
「そいつはそのうち干からびて死ぬ。クズにふさわしい最期だが……とどめを刺したければ好きにしな」
自分の身体を好き勝手された恨みを晴らす時が来た。ショーはゆっくりと這ってテンプターのそばに行き、両腕を伸ばした。
「首を絞めて殺すのか?まあ好きに……ん?」
ショーの手が触れたのは、首ではなく背中だった。しかもそのまま優しく抱き寄せた。
「……ど、どういうつもりだ………?」
「あなたにとって私は都合のいい寄生相手だったかもしれない。でも私はあなたに感謝している」
感謝という言葉が出たことに、テンプターが一番驚いていた。心当たりが全くないからだろう。憎まれ恨まれるのが当たり前なのに、まさか感謝とは。
「私は子供のころに足を怪我して……実は治っていたのに、歩くのを怖がっていた。他の人や道具に助けられないと歩けなかった」
「………な…なるほど。だから足が重かったのか。アタシも誰かに寄生するのはこれが初めてだから……こんなモンなのかなって受け入れていたよ」
もう何度も寄生を繰り返しているような振る舞いだっただけに、これは意外だった。実は初心者なのに経験豊富なふりをする人はどこにもいる。
「でもあなたのおかげでリングを走り回れた。魔王軍の一員として戦うことができた。私一人だったら味わえなかった刺激と興奮……とても楽しかった」
「ア……アンタ!」
「これからもこの身体、二人で使おうよ。身体の中にシロさんが住んでいるサリーさんとは違う、本物の二人で一人だからもっと強く、もっと楽しくなれる!」
もし私がショーだったら、ここまで爽やかになれただろうか。この先の寄生まで受け入れてしまうのだから、いい人すぎる。
「……が、害悪でしかないアタシと……いっしょに生きようと言ってくれるなんて………そんな優しいアンタの身体を乱暴に扱ったこと、ゆ、許して………」
涙を流すテンプターがショーの身体に入っていった。口から侵入しなくても、抱きあいながら吸い込まれるようにして一つになった。それと同時にマキシーの身体が光り、私たちのところに帰ってきた。
「やったね!強かったよ、マキシー!」
「オードリー族との戦いではいいところがなかったからな……やっと初勝利だよ。ヤバい相手だったが……」
自慢の歯を見せながらマキシーが笑った。ところがすぐにその笑顔は消え、勝利の喜びもどこかへいなくなってしまったかのようだ。
「………いや、もっとヤバいやつがいるようだ」
「えっ……?」
最後まで残った試合、マユ対蜘蛛のジュン。ダイが予告していた通りの光景がそこにはあった。
『さあダウンカウントが入る!マユ、立ち上がれるか!?』
「マユ――――――!!」
傷ついたマユが倒れていた。見下ろすジュンは全くの無傷で、息も上がっていなかった。
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