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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第四章 強敵たちの襲来編
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テンプターの脅威の巻

『カマキリのショーを操るのは寄生虫テンプター!強引に腕を回して鎌攻撃!』


 滅茶苦茶な動きでマキシーを襲う。自分の肩や腰を痛めてしまいそうだ。


「こいつの身体なんかどうでもいいんだよ〜ん!だからこんな攻撃だってできちゃう!」


「ちっ……動きが読めない!」


 普通ならありえない角度から鋭い鎌が飛んでくる。マキシーの右足、次に左手から血が流れ落ちた。



「こんなもんかすり傷……でもいつかはヤバいことになりそうだ。とりあえず眠れ!」


 魔法でショーの肉体を眠らせる。テンプターには効かないから無意味に思えたけど、ほんの少しだけ相手の動きが鈍った。


「ふ〜ん、やるじゃん。そうだよ、ちょっとは効果がある。だから頑張って抵抗してよ」


「ナメてるな……後悔するなよ、寄生虫!」



 

 テンプターがショーを操る仕組みがわかれば攻略のきっかけになりそうだ。催眠術で命令してショーを自在に操るのか、お人形遊びのようにして本来動かないものを動かすのか、似てはいても実はかなり違う。


「エーベルの二重人格のような戦い方とは違うからな。一人の身体に二人いるんだ」


「蚊のサリーとシロ……あの二人とも別物ですよね」


 ショーの人格や記憶が完全に失われていたらあれはただの死体で、勝つためなら身体ごと破壊していい。まだどこかに残っていて取り戻すチャンスがあるのなら、テンプターだけを駆除する勝ち方が理想だ。



「おい、魔王軍のダンゴムシ。仲間としてずっとあいつのそばにいたんだろう。正体に気がつかなかったのか?」


「は……はひっ。変な人だと思ってはいたんです。まさか中にもう一人いたなんて………」


 ダイもわからなかったくらいだ。今回のように人前で外に出てくるのは稀なことだったらしい。



「ジャッキー……ちょっといいか」


 サキーに呼ばれて席を立ち、部屋の隅に向かう。みんなもそこに集まっていた。


「あいつに心を許すなよ。弱そうで無害に見えるが、お前を騙そうとしているかもしれない」


「えっ?ダイが?いやいや……」


 私にそっくりなダイがそんな難しいことはできないと思う。ありえない話を笑い飛ばそうとしたら、みんなは全く笑っていなかった。



「ジャッキー様……今のところまだ被害はありませんが、もしあいつが嘘を教えて私たちを騙そうとしたら……それを見抜けますか?」


 ダイに嘘をつく気はなくても、勘違いや誤解はありえる。私に似ているのだから特に。


「もっと恐ろしいことに、ジャクリーン様を油断させてわたくしたちの情報を聞き出してくる危険もあります。それをすぐにリングの仲間に教える方法があるとすれば……」


 虫組がダイを一人だけ敵の本拠地に残した理由が、ルリさんの読み通りなら納得できる。私たちの会話が戦っている仲間に届けば、試合を有利に進められる。


「彼女自身は自分の役割をわかっていないかもしれない。虫組の他の者たちがこっそり魔具を仕掛けていることもある……それを覚えていてほしい」


「……わかった。気をつけるよ」


 ちょっとした世間話のつもりがマユとマキシーを危ない目に遭わせるかもしれないのか。慎重に言葉を選ぼう。



「……ジャッキーとダンゴムシがこれ以上距離を縮めることはなくなりそうだな。よかったよかった」


「あのまま放っておいたらどうなっていたか……」


 みんなの適切な助言……と思いきや、私とダイを遠ざけるための陰謀だった。もちろん私がみんなの真意を知ることはなかった。




「う〜ん………」


 テンプターが数十人しかいない観客を一人一人眺めている。人間ばかりで、魔物やモンスター人間はいなかった。


「これじゃあダメだ……アタシが寄生できそうな虫はいない。ショーの身体ごと爆発させてアンタを殺して、その前に脱出したアタシは他のやつに乗り移る。そんな作戦も考えたんだけどねぇ」


「や……やめとけって、そんな物騒な真似!」


 身体が使い捨てできる環境ならいきなり自爆、簡単に勝てるという。人間や虫以外の生物に寄生することはなさそうで、それは安心した。



「だから正攻法で戦うかな……でやっ!」


「がはっ!!」


 不意打ちに近い強烈なタックル。マキシーを捕まえて、そのまま勢いよくリングの外に飛び出した。


「おい!ここで場外戦なんかできないぞ!」


「できるんだな……特にこのアタシは!」


『二人が湖に落下した――――――っ!ショーを操るテンプターによって、まさかの水中戦に突入だ!』




 マキシーたちが水の中に消えてしまった。これで試合の様子がわからなくなったと思ったら、なんとすぐに水中が見えるようになった。


「どうなってるの、この石の板……すごすぎるよ」


「魔界ではこれが普通です。リングの外どころか会場の外まで選手たちが出ていって乱闘になっても、席に座ったまま観戦が楽しめるんです、はい」


 これを私たちの大闘技場にも置くことができたら楽しそうだ。会場内にはリングが見えにくい座席もあるし、一番上の席から見た選手たちは豆粒のようだ。だから値段が安いと言われたらそれまでだけど、選手の表情や細かい技の応酬をどこからでも見られる仕組みは素晴らしい。



「ところで、マキシーさんは泳げますか?水の中で戦うことになりますけど……」


「………!」


 サキーたちの忠告がなければ、私の知っていることをペラペラと話してしまうところだった。危ない危ない。


「いや、ちょっとわからないかな。マキシーと海や川に行ったことはないから……」


「そうですか……ショーさん、いや……テンプターさんは水の中が大好きだったのを思い出したので聞いてみたんです。自由な時間にはよく川で遊んでいました。だから一方的な戦いにならないか不安で………」



 ダイは心からマキシーを心配していた。そんなダイの優しさに私は胸が熱くなったから、マキシーの秘密を教えてあげることにした。それにもしダイの知らないところでこの会話がテンプターに聞かれていたとしても、マキシーの不利にはならない。


「マキシーなら大丈夫だよ。私も時々忘れちゃうけど、ただの魔術師じゃないからね」


「そうなんですか?」


「ダイやテンプターと同じで、実はマキシーもモンスター人間なんだよ。しかもピラニアという魚の!」


 マキシーが水の中でも戦えることは本人からすでに聞いている。だから湖のリングを選んだのだろう。


「実際に泳いでいるところを見たことはない。でも互角以上に戦えると思うよ」


 互いに水中戦が得意だとしたら、当然攻撃は激しくなる。リングに戻らないまま決着を迎えそうだ。

 カマキリのショー……ハリガネムシのモンスター人間『テンプター』に寄生されている。テンプターの意のままに動く操り人形。名前の元になったのはGSバンド『ザ・テンプターズ』の萩原健一。歌手、俳優として活躍したが、何回も警察の世話になった。

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