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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第四章 強敵たちの襲来編
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無防備になる瞬間!の巻

『サキーの投げ技が炸裂!しかし羽があるシロなら楽々と着地……いや!』


 回転が凄まじく、シロは何もできなかった。飛行も受け身も封じられ、背中からマットに落ちた。


「はぐっ!」


『頭か腰を強打したか!?悶絶して動けない!』


 シロの弱点がはっきりした。今のをあれだけ痛がっているのだから、打たれ弱すぎる。相手はこの脆さが明らかになる前に押し切りたかったはずだ。



「今だ!覚悟しろ!」


「まずい!戻れ、シロ!」


 サリーの声と同時にシロの姿が消えた。一瞬でサリーの左腕の中に戻っていったようだ。


「少し休んで回復するんだ。ここは私がやる!」



 うまく逃げられてしまい、体力とダメージを回復する時間まで与えてしまった。シロがいない間はサリーが戦うことで、最初と同じ形になった。


『再びサキーとサリーの剣術対決!どちらが有利に試合を進めるのか!?』


 その答えは考えるまでもない。サキーのほうが全てにおいて上だとすでにわかっている。シロが出てこない今が勝負を決める絶好のチャンスだと誰もが思った。




「……あれ?互角だ………」


『互いに譲らない!剣がぶつかり合う音が響く!』


 サキーが圧倒するはずなのにどうして……なんて思った私は間抜けだ。サキーの傷と疲労は深刻で、サリーとの実力差が埋まってしまうほどだった。


「まずいですね。あいつに時間をかけているうちに……」


「シロが復活してくる!」



 相手の作戦に穴がない。それでも絶対にギブアップしないサキーなら最後まで諦めずに戦うだろう。


(そのせいで危ない時もあるけど……)


 味方が一人もいない敵地で、審判が適切なタイミングで試合を止めてくれるだろうか。無事に帰ってきてくれたら、勝敗は二の次だ。





「よし……もういいだろう。交代だ、シロ!」


『完全に二対一の勝負!さすがの勇者もこれでは厳しいか……シロが飛び出してきたぞ!』


 今回のシロはスピード型だ。リングを所狭しと飛び回り、キックでサキーを追い詰める。


「ゼェ……ゼェ………」


 目の上が切れて痛々しい。目潰し攻撃で受けた血と合わせて、サキーの顔は真っ赤に染まっていた。



「この小さな身体、しかも今はまだ仮の命みたいなもの……防御が弱いのは仕方がありません」


「……よ…よくわかっているようだな。お前は一発……大きな攻撃を食らったら……死ぬぞ」


「だからその前に倒します!とぁっ!とぁっ!」


 サキーの足を狙った連続蹴り。今のサキーなら足から崩せばそのうち倒れるだろうと考えているようだ。



「あなたとチャンピオンの絆よりも私たちの絆のほうが強かった!勝敗を分けた理由はそれだけです!」


「………」


 シロはすでに勝ったつもりでいるのか、勝因まで語りだした。サキーの表情が変わった。


「ジャクリーン・ビューティは何人も女の人をそばに置いていると聞きます。ですからあなたもそのうちの一人に過ぎません。しかし私たちは全ての愛情を大事な人だけに注いでいます!何分の一かに薄まった愛とは比べるまでも………はっ!」


 調子に乗った代償は重そうだ。サキーが怒りの力に満たされ、熱く燃えているのがわかった。




「……私とジャッキーの愛がお前たちに劣っている……だと〜〜〜〜〜〜っ!?」


「このオーラ……!」 


 サキーの気迫に負けたシロは動けなくなった。今のサキーを目の前にすれば、誰でもこうなるはずだ。


「私たちの愛……どれほどのものか教えてやる。この技を受けてお前が生きていればの話だがな!」


「くっ!戻れ、シロ!戻れ――――――っ!」

 

 慌ててサリーがシロを体内に戻し、左腕が元通りになった。寸前のところで逃げられてしまった。



『勇者サキーとテイマーのサリー、三度目の対決!しかし時間を稼ぐだけでいいサリーのほうが気楽か!』


 サキーの勢いが復活しているとはいえ、真っ向からぶつかってこない相手をすぐに倒すのは難しい。そのうちまた疲れてしまい、全快したシロと戦わなくてはならないのだから、苦しい状況に変わりはない。


「………」


 それなのにサキーの目には光があった。怒りや激しさだけではなく、確かな勝利への希望がそこにはある。


(見えたぞ……最後の力を使い、やつらを倒す逆転の方法が!)




『引き気味に戦うサリー!サキーも無理には攻めない!こうなると試合を決めるのはやはりシロ!』


「一瞬危なかったがこれなら問題なさそうだ。私たち二人は勇者すら倒せる……ジャクリーン・ビューティがここに来ていたとしても同じだっただろう!」


「どうかな……あいつは優しいからお前たちに情が移ったかもしれない。二人で幸せに生きるなどと言われたら本気を出せなかっただろうな」


 私は負けても王座を失うだけだ。でも虫組の六人は魔王軍での立場どころか命が危うい。しかも相手の戦う理由がお金や野心ではないとなれば、どうしても私の勝ちたいという思いは薄れてしまう。



「しかし私はお前たちの夢を潰すことに躊躇いはない。死による永遠の別れで引き離す結果になってもな」


「そうか……それならこちらも遠慮はいらないな。命だけは助けてやろうと思っていたが……おい審判!最後のとどめを刺すまで試合を止めるなよ!」


 ここで初めてサリーが優勢になった。サキーはふらつき、腕が垂れている。


「殺せ!殺せ!」 「殺せ!殺せ!」


 観客の魔族たちも興奮していた。野蛮で血に飢えている連中だと思ったけど、私たちの闘技大会の観客も似たような感じだった。お酒を飲みながら、「絞め落とせ」だの「折っちまえ」だの叫んでいる。



『サキーは限界か!?サリーがとどめを……』


「いや、罠だな!調子に乗った私がこのままお前を倒そうとした瞬間、残った力を振り絞って私を斬るだろう!喜ばせておいて隙を作るとは策士だな」


 不自然な有利に騙されず、サリーは深追いしない。


「むむ………」


「私たちの形を貫く。お前を仕留めるのはシロだ!さあ、そいつを倒して終わらせよう!」



 サリーの左手が落ち、シロが出てこようとする……その時だった。サキーが剣を構え、今にも振り下ろそうとしていた。


「なにっ!ま、まさか!」


「そいつは絶対にそこから出てくる!ならばその出口で待ち伏せして叩けばいい!簡単な話だった!」


 体内にいる間はとても小さく、出た瞬間に大きくなる。その瞬間だけシロは無防備、サリーも動けない。隙がないように思えた二人の、唯一の穴だった。



「この一振りのために最後の力を残しておいた!勇者の剣の味、とくと味わえ――――――っ!!」


 渾身の一撃。真っ赤な血が大量に飛び散った。

 こんな小説を読んでいる暇があったら横浜DeNAベイスターズの試合を見てください。その圧倒的強さにひれ伏し、崇め、讃えるのです。

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