二種類の吸血の巻
「サリーにシロ……中途半端な魔法剣士と虫けらが組んだところで私の敵ではない。突然出てきて驚かす、それ以上のことが蚊にできるとは思えないが……」
「できるとしたらどうしますか!?タァッ!!」
サキー目がけて真っ直ぐに飛んできた。
「フン、これだけ的が大きければ潰しやすい。お前たち蚊にはいつもイライラさせられているからな……」
正面から叩き落とそうとサキーは身構えた。いくら大きな蚊でも人間の赤ちゃんと同じくらいなら強い打撃を一発食らわせたらそれで終わりだ。普通の蚊よりも仕留めやすいかもしれない。
「うふふ………」
「何っ!」
身体が大きくても身軽さはそのままだった。サキーを嘲笑うかのようにぎりぎりで攻撃を避けたシロは、くるくるとサキーの頭上を飛び回る。
「背後が隙だらけです!それ!」
「ぐあっ!」
そして後頭部へキック。シロはとても素早く、しかも自在に飛行できる。一撃の威力は低くても、スピードで翻弄するタイプだ。
「がら空きのわき腹にもう一発!」
「グッ……調子に乗るな!」
捕まえようと手を伸ばしたら、ぎりぎりで逃げられて苛立つ。私たちがよく知っている蚊との戦いそのものだった。
「不快感を与える点では超一流、それは認めてやろう。さすがは蚊……誰にも好かれず、誰の役にも立たない害虫だ」
サキーはまだ元気だ。挑発したら相手はどう反応するかを確かめる余裕がある。どちらか一人でも怒ってくれたら一気にサキーのペースだ。
「大聖女の次に特別な存在だという勇者だが……大したことはなさそうだ」
「………?」
「少なくとも私はシロを愛している。そしてシロはとても役に立っている。早くもお前の間違いが証明されてしまった」
サリーが手招きすると、シロはすぐにその胸に飛び込んだ。そして嬉しそうに頬ずりする。
「フフ……かわいいやつだ」
すでにわかってはいたけど、この二人はただの主従関係を超えている。簡単に崩せる仲ではない。
「サリーさん……お願いします」
「大事な試合だからな、どんどん飲め!」
試合中に水を飲むのかと思ったら、全く違った。サリーが鎧を脱いで上着をずらすと、肩や鎖骨が露わになった。そこに口を小さく開けたシロが近づいて……。
「はむっ………」
ごくごくとサリーの血を飲み始めた。確かにこれ以上なく蚊らしい行動だけど、それでもいきなりの吸血に私たちは目を疑った。
『し……信じられない行為です!しかし会場の観客たちは平然としています!魔族の間では珍しい光景ではないということでしょうか!?』
サリーとシロの試合ではおなじみの儀式なのか。だとすると、体力回復やパワーアップの効果があると考えたほうがいい。
「……蚊といえば血を吸うイメージが強いが、実は産卵を控えたメスに限られるそうだ。やはりそいつは普通の蚊とは違うな」
私と違ってサキーが冷静なのが救いだ。私だったらびっくりしたまま立て直せずにやられていた。
「メスなのは疑いようもないが、人間のようなその身体では卵を産むはずもない。ほんとうにお前は歪で気持ちが悪い生物………はっ!」
サキーがまだ話している間にシロが襲ってきた。ただし飛行スピードは明らかに落ちていて、これでは奇襲攻撃の意味がない。
「そこはそのままなんだな。血を吸った直後の蚊は動きが鈍くなる。身体が重くなりすぎて!」
捕まえる絶好のチャンスが来た。シロは飛びながら左足でキックを放つ。この速さなら私でも避けられるけど、それで終わらせないのがサキーだ。
「せっかく吸った血……全て吐き出してもらうぞ!」
『サキーが左手だけで足を掴もうとする!』
シロの動きを止めて、右手の剣で斬る構えだ。これは致命傷になるだろう。サキーの勝利が決まる……はずだった。
「たぁっ!」
「こんな非力な蹴り………ぐおっ!?」
速い代わりに威力は控えめ、それがシロの攻撃の特徴だ。ところが今、サキーが吹っ飛ばされた。
『強烈――――――っ!!勇者サキー、ダウ―――ン!』
「このパワー………!隠していたのか!」
さすがのサキーも余裕が消えた。
「サリーさんの血は力の源!スピードダウンなんか補って余りあるパワーファイトを見せてあげます!」
「ぐっ!こ、こいつ!」
小さな身体から繰り出される強力なパンチの連打。吸血の前後で全く違うタイプの敵になって、サキーはとてもやりにくそうだ。
「おっと、こんなこともできますよ!」
「がっ!?」
『ああっ!シロの下唇あたりから長い針が飛び出した!そしてサキーの肩に突き刺す!こうなるとやることは一つだけ!』
サキーの血も吸うつもりか。サリーからは直接吸って、今回は長い針を使っているのが気になる。
「……私の血もパワーアップに使う気か?それとも失血死させるつもりか………」
「サリーさん以外の血は不味すぎて、とても飲めたものではありません!だから………こう!」
吸ったはずの血を飲み込まずに溜めていたシロは、サキーの顔に向かって全て吐き出した。
「ぐわっ!!」
『まさかの目潰し攻撃だ!自分の血で視界を奪われたサキーは悶絶!』
吸血を得意とする種族はいくつかあっても、こんな使い方をするのはシロだけだ。速攻も重い打撃もラフファイトもできる、この世で最も恐ろしい蚊だ。
「らぁ!らぁ!らぁ!」
「ぐぐ〜〜〜〜〜〜っ………」
『倒れるサキーにストンピングの嵐!このまま試合を決めてしまうのか!?』
「よし!いいぞ、シロ!一気に攻めろ!」
観客も審判も魔王軍寄りなのだから、サリーもいっしょになって踏みつけに加わっても誰も文句は言わないはずだ。それなのにルールをしっかり守り、シロが戦っている間はその場から動かない。正々堂々を貫いていた。
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