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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第四章 強敵たちの襲来編
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魔法剣士の裏の顔の巻

 試合終了を告げる鐘が鳴った。花畑リングの観客たちの拍手や歓声が響く中、トメが目を覚ました。


「……私の針が欠陥品だと………どこで気がついた?」


「針の先が丸くて刺さらない、そこまではわかりませんでした。毒があってもほとんど無害、もしくはかなり遅れて効果が現れるものだと考えただけです」


 針のダメージは覚悟で前に出たようだ。すでに足を火傷しているし、無傷で勝てるほど今回の敵は甘くない。結果は2連勝でも内容は紙一重だった。



「ハチとしてはこれ以上ない落ちこぼれ……だから必死で鍛えた。兄とは違い魔王軍に必要とされる有能な者になろうとした……しかし結果はこれだ」


「実力だけならあなたのほうが上です。私の作戦がうまくいっただけのことで、決着がついたとは思いません」


「それも含めて私の弱さだ。心身両方を鍛え直さないとな……その機会が与えられたら、の話だが………」



 トメが気になることを言いかけたところで花畑リングの様子が見えなくなった。それと同時にフランシーヌが私の目の前に現れた。二度目だからそんなに驚かなかった。


「フランシーヌ!まずは右足を治そう!」


 私の魔力でも治せるほどの火傷だった。きれいな肌に痛々しい傷が残らなくてよかった。


「ジャクリーンさんの王座を守れてよかったです。愛と平和の象徴であるジャクリーンさんを守ることが世界の幸せに繋がりますからね」


「それは大げさだよ。でも負けたら大変なことになるのは私よりもダイたちのほうじゃないのかな?」


 任務に失敗したら虫組の六人はどうなるのか。魔王が穏やかな顔で『惜しかった。でも頑張った』と労ってくれるとは思えない。



「もしそうだとしてもジャッキー様が気にすることはありません。こいつらは敵ですよ」


「一応聞いてみるだけだよ。どうなの?ダイ」


 ダイは残った試合の様子を見たまま、小さな声で返した。


「………万が一私たちが全敗したら……このお城から出たくありません。もしくはずっとあなたのそばに……」


 やはり何らかの制裁があるみたいだ。ダイだけでも助けられないか、今のうちにいい方法を探しておこう。





『ここまではチーム・ジャッキーの全勝!勇者サキー、魔女マキシー、そしてスライムのマユ!彼女たちもこのいい流れに乗れるか!?』


「サキーさんがまだ終わっていないのは意外ですね。今回のメンバーではおそらく一番強いはず……」


 サキーなら勝てるだろうと安心して送り出している。少し時間がかかっても勝利は揺らがないはずだ。



『互いの剣が激しくぶつかって、またしても互角!この二人の戦いは拮抗状態が続いています!』


 相手も剣士だった。長い髪を結んでいる黒髪のサリーは、どこが蚊なのかまだわからない。


「ふ―――っ………やはり勇者は手強いな……」


「ようやくわかったのか?遅すぎるだろう」


『目に見えて疲弊しているのはサリーだ!一方の勇者サキーはまだまだこれからといった感じ!』


 思っていた通り、サキーのほうが格上だ。息を切らす相手を見下ろして、ここからは一方的に攻める時間になるだろう。



「よし!サキーの勝ちは決まりだ!本気のサキーはもっと強いんだから、むこうはついていけない!」


 注意するべきなのは最後の悪あがきだけで、あとは勝ち方の問題だと余裕を持って眺めていた。ところが隣のダイが不穏なことを言い始めた。


「……本気を出していないのはサリーさんのほうです。あれはまだ相手の力を探っているだけで……」


「………えっ?」


「そろそろわかります。サリーさんの真の姿が」




 私たちの会話が聞こえていないサキー。肩を回しながらサリーがどう動くか様子を見ていた。


「私とお前……魔法剣士としての戦い方、それに名前も似ていた。しかし実力だけは遠く離れていたようだ」


 次の一撃で試合を終わらせる構えだ。サリーはリングの端に後退し、サキーから離れた。


「逃げても無駄だ。私の剣は直接触れなくてもお前を斬り裂くことができる。勝負はついた」


「……違うな。むしろここからが本番だ。私が蚊のサリーと呼ばれる理由を教えてやろう!」


「………!」



 仕掛けてくることは確かだった。その前にとどめを刺すか、何をしてくるかわからないうちは離れたままでいるか……サキーの選択は前者だった。


「無駄な抵抗はよせ!これで……」


「いけっ!『シロ』!」



 サキーが剣技を放とうとした瞬間、サリーの左手が落ちた。もちろんこれはサキーの攻撃によるものではない。


「……っ!お前の左手は………むっ!」


 いきなり落ちた手に意識が奪われた。しかしそれが敵の狙いで、何かがサキー目がけて飛んでくる。反応が遅れるのは仕方なかった。


「ぐあっ!」


『な、何が起こった!?サキーが攻撃を受けてマットに腰をついた!サリーは何もしていないように見えるが………あ!あれは!?』



 サキーを襲ったのは『蚊』だった。それもただの蚊ではなく、人の頭二つくらいの大きさだ。しかも他のモンスター人間と同じく、人間が蚊の格好をしているような姿をしていた。


「お、お前は……!?」


「はじめまして!私の名前はシロ。見ての通り、蚊です。普段はサリーさんの身体の中で生活しています」


 体内に虫を飼っているだけでも驚きなのに、なかなか大きくて知性もある生き物をどうやって仕込んでいたのだろう。正統派の剣士だと思ったのに、厄介で謎が多い敵だ。



「シロは私の愛する相棒……最初は外に出ても普通の蚊と同じ大きさ、こんなに言葉も話せなかった」


「私たちは文字通り『共に』過ごし、絆を強めてきました。それが私を成長させてくれる何よりのパワー!」


 シロの登場で勝敗はわからなくなってしまった。一対一の戦いだったのにいきなり二人目が現れたら、ここまでの試合の全てが無意味になる。




「………いや、反則でしょ。駄目だって、あれは」


「反則ではないです。サリーさんは『テイマー』ですから、シロさんを含めて一人とみなされます」


 人間以外の生物を飼いならし、自分の思いのままに動かせるのがテイマーだ。凄い人だと上級の魔物や巨大な龍を従える。


 介入やハンデ戦とほとんど変わらないはずなのに、テイマーが使役する動物や魔物は試合への参加が認められている。さすがに二人がかりでの攻撃は禁止とはいえ、この会場はおそらく魔界の闘技場。魔王軍に有利なら多少のことは見逃される敵地だ。




「ここからはテイマーとしての私、蚊のサリーがお前を倒す。シロと共にな」


「………面白い。あのまま終わってはつまらないと思っていた。勇者の剣で斬り刻んでやろう、虫けらどもめ!」


 圧倒的不利になってもサキーは少しも怯まない。二人まとめて倒してやろうという力強い目つきだ。

 蚊のサリー……身体の中に小さなモンスター人間『シロ』がいるテイマーの人間。シロを使わない時は剣術を中心に戦う。名前の元になったのはGSバンド『ザ・タイガース』の岸部修三(一徳)、岸部シロー兄弟から。兄はレベルの高いベースを披露、弟は音の出ないタンバリンを持たされる。

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