マーキュリーの成長の巻
「うげっ!」
『マーキュリーの巨大な闇の手がマヌーを捕らえた!そのまま上空に高く持ち上げる!』
マヌーは動けない。私は鎧を脱いでぎりぎり脱出できたけど、元々薄着のマヌーにその手は使えない。鉄柱が迫っていた。
「うわあああ!う、動けないっ!」
「……『ダークハンド・クラッシュ』!」
激しい音と共に、マヌーの頭を鉄柱に叩きつけた。この技の完成形を見るのはこれが初めてで、もし私もまともに食らっていたら………今ここにはいない。
「ぐげっ………」
魔王軍の一員、ただし人間のマヌーは耐久力も普通だ。いや、いつも速攻で勝負を決めているとダイは言っていた。ダメージを受けることに慣れていないぶん、私たちより打たれ弱いかもしれない。
『マヌーがリング下に落下!起き上がる気配なし!』
頑丈だったとしてもこれには耐えられないか。場外カウントは必要なかった。
『試合終了――――――っ!!チーム・ジャッキー対魔王軍虫組の戦い、最初の勝者はチーム・ジャッキーのマーキュリー!防戦一方でしたが確殺技一撃で蝉のマヌーを粉砕しました!』
「マーキュリー!マーキュリー!」
「マーキュリー!マーキュリー!」
鮮やかな逆転劇に観客たちも大興奮だ。魔族たちもマーキュリーに歓声を送っていた。
「ああっ……マヌーさんが負けるなんて………」
「ごめんね。まずは私たちの勝ち………ん?」
マーキュリーがリングを下り、倒れるマヌーのもとに向かう。死んだと思われていたマヌーは生きていた。
「……なぜ殺さなかった!手加減しやがって………」
「愛するジャクリーンの真似をしただけのこと。好きな人と同じことをしたい……それは自然な欲求のはず」
うれしいことを言ってくれる。マーキュリーは私と出会ったことでもっと強くなったと、これで誰もがわかってくれるだろう。
「そうか……お前も生かされた側の人間だったな。あの敗北で真の強さを得たというのは嘘ではなかったか」
「あなたも愛人がたくさんいるのだから、彼女たちが成長のきっかけになることも……」
「……いや、それはない。私がそうだと思っていた連中が観客席にいるが、媚びた声でお前の名前を呼んでいる。あんなもの、本物の愛ではなかった」
戦い方と同じように、時間や労力をかけずに築いた関係だったらしい。マヌーもあまり悲しんでいないところを見ると、その程度の仲だったようだ。
「せっかく助かったことだし、生き急ぐ必要もないか……今の私はたっぷり寿命がある人間だからな。じっくりと鍛え直し、心から愛する相手を探すとしよう………ゲホッ!」
気を失っただけのようだ。その場にいた治癒魔法が使える人たちによって応急処置がされてから、マヌーは運ばれていった。
「私もジャクリーンのもとに帰ろう……でもここはどこなのか全くわからない………ん?」
どうやってお城に戻ればいいかわからず、マーキュリーは困っていた。しかしその心配はいらなかった。
「………ん?ジャクリーン!?」
「うわっ!!」 「なんだっ!?」
私たちの目の前に突然マーキュリーが現れた。数秒でここまで移動してきた。
「……戦いが終わればすぐにここへ戻れるようになっています。魔王軍の技術……です。はい」
マーキュリーの勝利を称えることも忘れ、椅子から転げ落ちて驚いていた。魔王軍と全面戦争なんて事態になったら、私たちに勝ち目はなさそうだ。
「フッ……私が最初に勝って城に帰るつもりだったが……あいつめ!私も急いで戻らないとな!」
「ウグッ!」
サキーの稲妻斬りが決まり、サリーがダウンした。
「次に勝つのは私だ――――――っ!」
「………っ!」
『マユのキックが蜘蛛のジュンの後頭部に炸裂!マーキュリーの勝利がチーム・ジャッキーに勢いをつけている―――っ!』
いい流れだ。全勝しか許されない中で、みんなの動きが一気に鋭くなった。
『さあ、こちらは花畑の中央に設置されたリング!フランシーヌとハチのトメが戦っています!』
トメはハチのモンスター人間だ。最大の武器はおそらく毒針だろうけど、他にも危険な技を持っている雰囲気があった。
「マヌーめ、負けたのか。しかしそこまで驚くこともないか。あいつは私たち虫組の中では一番弱いからな……論外のダイは抜きにしてだが」
「………」
「そしてフランシーヌ。チーム・ジャッキーの最弱はおそらくお前だ。オードリー族との戦いではすぐに棄権させられたそうじゃないか……」
あれは私の失態だ。持っていた布が風で飛ばされて試合放棄と勘違いされただけで、フランシーヌの実力を疑ったわけではない。
「なるほど、確かに私は最弱かもしれません。ですが私は闘技大会でハチのモンスター人間、ムサシをこの世から消しました」
「………」
「同じ種族のあなたも似たような能力なのでしょう?それなら簡単な勝負です。火葬してあげますよ」
ハチのムサシは魔物以上に凶悪で暴力的だった。全力で殺さなければフランシーヌが危なかった。
「………同じ種族……か。まあ正解だ。ただしそれ以上の間柄だったと補足しておこう」
「ふむ……」
トメがこれから話す内容を、フランシーヌは最初からわかっているように見えた。だからこのリングを選んだのだろう。
「ムサシは私の実の兄!兄を殺したお前とこうして戦う機会を待ちわびていた!」
知り合いや同僚なんかよりずっと特別な関係、家族だった。フランシーヌへの恨みは言葉で言い表せないほどだろうと思っていた。
「……だが安心しろ。仇を取ろうだなんて気持ちはない。やつは私たちの中でも腫れ物のように扱われ、追放された。死んでくれてよかったと皆が喜ぶほどのどうしようもない男だった」
「あれ?そうですか……」
野心に満ちた乱暴者は魔界でも嫌われていた。復讐に燃えているどころか、フランシーヌにお礼を言いそうな感じすらあった。
「もし私が仇討ちに燃えていたら、お前は罪滅ぼしのためにわざと負けて死んでくれたのか?違うだろう!」
「もちろん。愛するジャクリーンさんと甘い毎日を過ごしているのにわざわざ命を捨てるなど……ありえませんね!」
同じタイミングでキックを放ち、どちらも倒れず。今のところ勝負は互角だ。
SSWQUESTの開催が迫っているというのにZ-Bratsは内紛状態……無事に試合は行われるのでしょうか?




