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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第一章 大聖女マキナ・ビューティ編
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サキーの異変の巻

 私たちが住む『ジェイピー王国』の歴史は古い。ただし今の王族の歴史はまだ始まったばかりだ。なぜなら、国王『ゲンキ・アントニオ』はクーデターを起こして前国王やその一族から地位を奪ったからだ。私が生まれる前の話だ。


 アントニオ家の前の支配者の評判は悪く、お父さんとお母さんからもいい話を聞いたことがない。ゲンキに影響を受けた兵士や重臣、貴族たちも改革を望むようになって、何年もかけて仲間を増やしクーデターを成功させたという。


「アントニオ王が支配を始めて数年も経てば国は落ち着いて、以前より豊かで穏やかになった。もちろん全ての問題が解決したわけではないが」


「そのうち今の王のやり方にも不満が出る。追い散らされたかつて王家だった連中とその仲間がいつ復讐しに戻ってくるかわからない。どこかに潜んでちょうどいい時を待っていると噂されている」



 いつ平和が脅かされるかわからない。マキという大聖女が誕生したことで悪人たちが大人しくなればいいけど、マキの命を奪えば無法の世の中になるとやる気に満ちていることも考えられる。そんな脅威からマキを守るために私は強くなろうとしている。


「妹様ならどんな敵がどう攻めてきても難なく撃退しそうですけどね。正直ジャッキー様がいなくても……」


「わからないよ。初対面では対処できない相手、道連れなら確実に成功させる能力の持ち主……そういうのが現れた時に私が身代わりになる」


 ある程度強くないと敵の攻撃を代わりに受けることすらできない。弱い盾は邪魔なだけだ。



「身代わり………」


「そんな暗い顔しないでよ。今の実力じゃずっと先の話だからね。せっかく楽しい食事の席なんだから、ほら」


 ゴブリンの村を救った翌日、魔鳥の卵は簡単に手に入った。お守りの効果で魔物たちは私たちに気がつかず、親鳥はずっと留守だったから戦闘はなかった。お昼にはもうギルドに着いて、のんびり食べて飲んでいた。


 私たち三人とサキー、それにテンゲンさんとハラさんがいる。テンゲンさんたちが王国の歴史をラームとマユに教えてくれた。


「大聖女を守るか。ならば闘魂軍の精鋭と同じレベルくらいには強くならないとな。大聖女のそばに立つ特権、志願者も多いぞ」


 今の護衛たちより力があることを証明して、その席を奪うのが目標だ。マキは私といっしょにいたい、でも私に危険なことはさせたくないという考えでいる。だからマキの姉だという理由だけでその隣に立つことはできない。




「ふん、お前が誰かを守る?無理だろ。守られる側の人間だろう、ジャクリーン」


「サキー………」


「仮にお前が聖女だったとしてもだ。何年も前のことだから忘れたか?私がお前を守ると誓った時を」


 剣聖のサキーが前衛で敵を打ち倒し、壁になる。私は後方から肉体強化の魔法や回復で支える。私たち二人ならどんな大軍にも勝てると豪語していた。まだ子どものころの話だ。



「しかし今のお前には婚約者がいる。私が守ると言っても結局はそいつが………」


「あれ?サキーは知らなかったっけ?それならとっくになかったことになってるよ」


 ちょうど同じ時期にサキーも剣聖ではないと明らかになり、私の婚約破棄のニュースを聞いてもそれどころじゃないと頭に入らなかったのかもしれない。


「………な、なんだと!?」


「新しい相手もいないよ。マキが王子と婚約してるからアントニオ家に入るのはほぼ確実、私たちの家はもう安泰だから私は自由にしていいんだってさ」


 私はどこの誰と結婚してもいいと言われている。ただし変な人間に騙されて私が悲しまないために『試験』をするという。お父さん、お母さん、マキの三人が合格を出さないと結婚を認めないそうで、国境やお城の門より突破は難しそうだ。



「そ……そうか………誰もいないのか………」


 サキーの様子が明らかに変わった。何を思っているのか、どういう感情なのか読み取れなくなった。


「……諦めずに追い求めると決意してすぐにこれだ。私のための流れが来ているぞ、うふふ………」


「………?」


 しかも突然うつむきながら小声でぶつぶつひとり言だ。よくわからないから放っておこうと思いパンに手を伸ばすと、その手をサキーに掴まれた。



「えっ?」


「ジャクリーン……いや、ジャッキー!昨日私を誘ってくれたことを覚えているか?家に来いと」


「え?ああ、そうだったね。でも宿はもう決めてるからってサキーは断ったでしょ」


 今度は息が荒く興奮している。強いお酒でも飲んだのかとテーブルを確認したけど、サキーのそばには水しかなかった。


「今日これから行かせてもらう!こうしてチームを組んでいるんだ、ご両親にも挨拶しないと!」


 広い家だし国から派遣された奴隷もたくさんいる。サキーが来ることに問題はないけど、いきなりの変化に少し戸惑う。



「……ジャッキー様、やめたほうがいいですよ」


「そいつ怪しいですって。息が荒いし獲物を狙う目をしています。断りましょう」


 なぜかラームとマユは反対してきた。私の家に来たがっているサキーが獲物を狙うということは、泥棒目的だと疑っているのかもしれない。


「こらっ!サキーに失礼でしょ。誇り高いS級冒険者、私たちのギルドのエースが変なことはしないよ」


「ああ。お前たちが心配するようなことは何もない。チームの大事な仲間だ、これから長い付き合いになる。仲よくやろう」


「…………」 「…………」 


 食事が終わって家に帰る間もサキはずっと上機嫌で、逆にラームとマユは渋い顔をしていた。




 


「あ!?サキー様があの馬鹿どもの家へ!?我がギルドのエースにやつらの無能と負け犬根性が伝染したらどうするんだ!だから俺はチームを組むのも反対だったんだ!今すぐ呼び戻せ!」


「まあまあ……そう怒ることもないじゃないか、サンシーロ。好きなようにやらせておけ」


「ハラさん!しかしですね……テンゲンさん、どうにかしてくださいよ!」


「ジャッキーにサキー、あの二人は同じような挫折をしている。互いの苦しみがわかるぶん、いいコンビになると思わないか?俺とハラのようにな」

 ゲンキ・アントニオ王の元ネタは誰なのか、説明は不要でしょう。

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