ジャッキーの代役たちの巻
魔王軍の六人組のうち五人は黒雲の中に消えていった。誰と最初に戦うか考えていると、サキーが私の前に出た。
「ジャッキー!お前がよければだが、あいつらとの試合は私たちに任せてほしい」
「う〜ん………その気持ちはうれしいけど、これは私の問題だし、危険な目に遭わせるのは……」
「私とあなたは他人ではない。親友以上の関係になっている。もし逆の立場だったら、あなたも私のために戦いに向かうはず」
サキーに続きマーキュリーも参戦を表明した。私が何を言っても気持ちは変わりそうにない。
「オードリー族との戦いでは試合前に止められてしまいましたからね。今度こそジャクリーンさんのために戦わせてもらいます!」
「私もたまにはいいところを見せないとまずい!」
マーキュリーの次はフランシーヌとマキシーだ。マキやエーベルさん、それにユミさんたちが不在なのだから、この二人の手を借りないと苦しいのは確かだ。
「これで私も含めて五人、人数は揃った!次は誰が誰と戦うかを……」
相性はもちろん、どんな戦い方をするのかもわからない相手ばかりだ。楽に倒せる敵は一人もいないだろうし、それぞれ自分の閃きに任せて選ぶしかないか。
「よし……私はあいつと戦う!あの穴だな」
「それなら私はあれにする」
サキーとマーキュリーはすぐに決めた。そして窓から身を乗り出すと、
「おおっ!身体が勝手に!」
「戦いたいと願えば引き寄せられる……彼女たちの言った通りだ」
空高く導かれて雲に吸い込まれていった。二人の姿が見えなくなると、入口は閉じられた。
「では私も……ジャクリーンさん、行ってきます」
「うん……無理はしないでね、フランシーヌ」
フランシーヌも時間をかけずに自分の対戦相手を決め、戦いのリングに向かった。私はみんなと比べて直感や閃きが鈍いのか、それともただの臆病なのか……いまだに動けずにいた。
「あと二つしかないけど……いいのか、私が選んで?」
「えっ……ああ、いいよ」
「余裕だな。誰と戦っても楽勝だから私たちに譲ってくれたのか?それならお先に!」
ついにマキシーも行ってしまった。これで残ったのは最後の一つ、他に選択肢がないから強制的に連れて行かれるだろうと待っていたけど、なかなか私は招待されなかった。
「……おかしいな。このまま待ってたら迎えに来てくれるかな?」
「………」
戦いへの熱意が薄いと反応しないことも考えられる。どうしようかと思っていたら、後ろから誰かが私の肩に手を置いた。このぷるんとした感じは間違いなくマユだ。
「ジャッキーさん、ここは私にやらせてください!」
「えっ……マユが?」
「虫の相手なら私以上にうまくやれる人はいないとこの間証明したばかりです。今の私はやる気に満ちていますから、きっと最後の穴に入れるはずです」
実力は私よりも上かもしれないマユだけど、まだ子どもだしこんな危険な戦いに……いや、その子供扱いをマユはやめてほしいからアピールを続けている。ハウス・オブ・ホーリーとの試合にも参加させたし、そろそろ一対一の試合の経験を積ませるべき時が来たということか。
「それに……ジャッキーさんが戦うべき相手はそこにいます。そいつの強さは他の五人とは別格、だからそれ以外とはあまり戦う気がしなかったのではないですか?」
「………」
王冠を持ったまま無言を貫く姿はとにかく不気味だ。私たちや闘魂軍の精鋭に囲まれているのに一切動じない振る舞い、大物の風格がある。
「私たちは必ず全勝します!そしてジャッキーさんが虫組のボスを倒して王冠を取り戻す、最高の結末はすでに見えています!」
「そこまで言うなら止める理由はないよ。任せたよ!」
マユの背中を叩くようにして押すと、そのまま窓から外に出て黒雲に向かい飛んでいった。
「ありがとうございます!行ってきます!」
「絶対に帰ってきてね!約束だよ!」
マユの姿が見えなくなり、私は椅子に座る。ラームとルリさんがそばにいてくれるから私は寂しくないけど、みんなはこれから孤独な戦いの始まりだ。
「……………」
虫組のボスが何もないところから箱を出し、すぐに開けた。すると突然王様が座っていた玉座が揺れ、そこだけ地震が起こった。
「おい!何をした………あっ!?」
お城の外でも同じような現象が起き、街は混乱していた。地面が割れ、そこから大きな壁のようなものが出現すると、街の人たちは怖くなって逃げた。
「なんだこれは……石の塊か?私の玉座も街も壊しやがって………」
「お待ちください、国王様!これは!」
壁の中に五つのリングが見える。そこには魔王軍の五人がそれぞれ立っていて、五つの穴の中での出来事が同時に見れるようだ。どういう仕組みなのかわからないけど、すごいことだ。
「魔族の技術、それとも魔法なのか!?こんな真似ができるなんて……ああっ!恐ろしい!」
「でもこれでみんなの応援ができる。しかも全員の試合をいっしょに………敵ではあるけどお礼が言いたいな、ありがとう!」
黒雲に消えたままどこに行ったのか、試合はどうなったのかわからないまま待つなんて不安で仕方ない。だからこの仕掛けを用意してくれた虫組のボスには感謝の気持ちでいっぱいだった。
しかし私はどこかずれていたようで、周りの人たちは魔族のレベルの高さに震えていた。誰も喜んでいなかった。
「……………」
「………?」
私のありがとうという言葉に、マントの中で僅かに反応があった。虫組のボスは返事をしたかもしれないけど、小声すぎて聞き取れなかった。私の気のせいということもある。
「ジャッキー様!各地のリングで動きが!」
「サキーたちが来た!」
今回の敵は試合前に襲ったり、不戦勝を狙って罠を仕掛けたりするようなタイプではない。自分の力に絶対の自信を持っているなら卑怯な小細工は無用だ。それでも空を飛んで空間を移動するのだから予想外の事故もある。まずはみんな無事に到着できてよかった。
強すぎるが故に強さを捨てた男、オオワダサン……いや、それじゃダメじゃん!




