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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第四章 強敵たちの襲来編
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史上最弱の男の巻

「魔王軍って時点で普通の人間じゃないのはわかってたけど……」


「お前ならどんな相手だろうが勝てる。考えてみろ、あの連中はただの虫けらどもだ。龍や巨人ではないんだぞ」


 カササさんに近づけないサキーに言われても説得力がない。ただでさえ強そうなのに不気味な能力を持っているのだから、とても虫けらだなんて思えない。



「さて、試合の場所とルールだが……」


「ちょっと待ったぁ!魔王軍なんかに好き勝手やらせてたまるか!」


 敵が説明を始めようとしたその時、遮る声が聞こえた。魔王軍の六人は私たちの前からその邪魔者のもとに移動した。


「勇気のある人だ。誰だろう………あっ」


 この場にいる皆がため息をついた。魔王軍に一人で立ち向かう勇敢な英雄の登場に喜んでいたのに、その正体を見たらがっかりするしかなかった。



「お前らがチャンピオンに挑戦だ!?調子に乗ってんじゃねーぞ!俺がぶっ潰してやるよ!」


「………何者だ?」 


「俺の名はストイチ!誰でもいい、リングに上がれ!」


 命知らず、史上最弱、大物との対戦経験だけはトップ(なお全敗)……戦力としては全く期待できないストイチさんだ。周りの人たちも魔王軍を止めてくれるとは思わず、どんなやられっぷりを披露するのか楽しみにしていた。



「それなら私がやろう。身体を動かしておきたいしな」


 魔王軍の一人が前に出てリングに向かう。カササさんやブーンさんと違い、外見は普通の人間と変わらなかった。


「弱そうなねーちゃんだな!お仕置きしてやるぜ……」


 笑いながら挑発を続けていたストイチさんの口と全身がぴたりと止まった。驚きのあまり固まったのは私たちも同じだった。



「ゲェ――――――ッ!!」 「なに!?」


「て、て、手が増えた――――――っ!?」


 腕が六本になった。二本の足も加えたら八本だ。


「私はモンスター人間、蜘蛛の『ジュン』!仲間たちより一足早く、ジェイピー王国の連中に力を見せてやろう!」


 私の所属する冒険者ギルドにいるハラさんもモンスター人間で、やはり腕が六本ある。だから見慣れているはずなのに、突然増える不意打ちにびっくりさせられた。




「試合開始!」


「何が蜘蛛だ!その腕全部折ってやる!」


 ストイチさんのキックがジュンの左腕三本を襲う。ジュンは防御せず攻撃が炸裂……したように見えても全然効いていなかった。


「………」


「ぶげぇっ!!」


 無表情でジュンが放った張り手。軽く放った様子見の一撃……のように見えてもストイチさんには大ダメージだ。マットに倒れたまま動かなくなった。



「ワン!ツー!スリー!」


『終わってしまった――――――っ!!これぞ秒殺、これぞストイチという男!魔王軍、虫組の一人ジュンが顔面への張り手一発で勝利!』


 わざわざ腕を増やさなくてもよかっただろうに。指一本しか使えなくても楽勝だったはずだ。


「ヴェ〜〜〜………」


「……弱すぎて殺す気にもならないな」



 ジュンは仲間たちのもとに戻った。虫組の六人は何事もなかったかのように再び私たちの前に立ち、怪しげな魔法を唱え始めた。


「さあ、本番だ!空を見ろ!」


「何が………あっ!!」


 爽やかな青空が一転、黒い雲に覆われた。太陽が見えなくなり、光が闇に支配されたかのようだ。



「フフフ……これを、こう!」

 

「雲が割れた……いや、穴が開いた!」


 その雲に五つの大きな穴が開くと、いまだに姿を見せない一人を除いた虫組たちがその穴を目がけて飛んでいった。


「この穴はそれぞれの決戦場に繋がっている!空を飛べなくても、戦いたいと強く願えば引き寄せてくれるから安心していい!」


 私に勝って堂々と王冠を手に入れるのが目的なのだから、試合以外の方法で命を奪いに来ることはないと考えていいはずだ。魔界や人の住めないような地に飛ばされたとしても、リングで戦えるのは助かる。



「五つも用意しなくても私は一人しかいないんだから、大闘技場のリングでやればいいんじゃない?」


「……おっと、説明を先にすればよかったな。ジャクリーン・ビューティ、いくら王者でも五連戦は厳しいだろう。そこで……代わりのやつをよこしてもいい!」


 私一人で全員を倒さなくてもいいのか。サキーやマーキュリーに魔王軍を追い払ってもらうチャンスだ。イメージと違って魔王軍はなかなか融通が利く。



「ただしそいつが私たちに負けた場合、お前の負けとみなす。その時点で王座は移動となる」


「……あらら、そうなっちゃうか………」


「当然だ。もし誰かに運命を託すのが嫌なら自分で出てこい。同時にリングをいくつも用意するが、お前が一人で戦う場合は順番を待つから遠慮はするな!」


 私の権利も持って代役はリングに立つ。大きな責任と重圧を背負わせることになってしまう。もちろん相手は魔王軍、これまで以上に死の危険が大きい戦いだというのも忘れてはいけない。私が真っ先に出て初戦で敗れる、それが最善なのかもしれない。




「戦う順番、もし仲間を連れてくるなら対戦相手も選ばせてやる!私たちはそれぞれの穴の先にあるリングで待っているぞ!」


「むむむ………」


「できれば私を真っ先に選んでもらいたいがな!」


 蜘蛛のジュンが最初に穴へと消えていった。



「期待外れにならないことを願っているぞ!私は蚊の『サリー』!熱い戦いをしようじゃないか!」


「苦しまずに死にたいなら蝉の『マヌー』の待つリングに上がるといい」


 この二人は普通の人間に見える。もちろん油断しているとまた驚かされることになるのは確実だ。



「私はマヌーと違い、極限まで苦痛を与えて敵を倒す。覚悟を決めて私、ハチの『トメ』のもとに来い」


「………カマキリの『ショー』………」


 こっちはどう見てもモンスター人間だ。しかも二人ともカササさんたちよりも魔物に近い外見で、それだけ戦闘力も上かもしれない。




「……………」


 虫組最後の一人はいまだに名乗らず、マントに隠れたままだ。しかし王冠は彼女が持っていた。


(六人のリーダー……一番強いのかもしれないな)


 他の五人を倒してようやく戦う権利が得られる大物なのか。敵の本拠地に一人で残るのだから、強敵であることは確実だ。

 ロビンマスク…ありがとう!

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