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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第四章 強敵たちの襲来編
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求む、挑戦者!の巻

 またしばらくよろしくお願いします。

「ここで休まず肘打ちです!一気に攻めて!」


「クロスフェイスロックはこうやるんだ!」


 トゥーツヴァイとトーゴーの二人が先生なら、私たちのレベルもどんどん上がる。リングでの戦いのマスターたちが、自分の技術を惜しげもなく教えてくれる。


「ジャクリーンさんはスーパー闘技大会の覇者!しかも私たちオードリー族を三人も倒してみせたのですから、挑戦者も相当の実力者ばかりでしょう」


「少し前までは「あいつが王者なら簡単に王座を奪える」と挑戦希望者が殺到することもありえたが……今はもう腕に自信のあるやつしか来ないだろうな」


 自分はマーキュリーやトゥーツヴァイより強いと確信している人間しか名乗りを上げないということか。つまり、私が王者でいられるのは一度目の防衛戦の日までだ。



「リング上で正々堂々の試合ならジャッキー様が負けることはありえないとしても……」


「ジャクリーン様に勝つことではなく、王者の証である王冠が欲しいだけ……警戒すべきはその者たちです。試合すらせずに王冠を奪おうとするでしょうから」


「大事に保管しておかないとね。でもずっとそうするわけにはいかないし……」


 防衛戦の時は絶対に持っていく必要がある。王冠を被って出席してほしいと頼まれる式典やお祭りもあるはずだ。


「ジャッキーを一人にしなければ問題ない。常に私たちがそばにいるのだから、敵は隙を見つけられないだろう」


 わざわざ兵士たちに護衛を頼まなくても、もっと強いサキーたちがいる。ただでさえ防衛戦に敗れるまでの短い期間の話なのだから、王冠を盗まれたり奪われたりする心配はなさそうだ。



「……で、今のところどんな挑戦者候補が?」


「挑戦を表明しているのは……シューター王子、肉弾戦が得意ながら技巧派でもある『アラムシャー』、経験豊富なベテラン『タツ・ヨシ』……」


「実力はあるが超一流には程遠いやつらばっかりだな!ジャッキーの楽勝は目に見えている。そんな連中とやっても盛り上がらないだろ」


 私はマキと違って、絶対的な強さを誇る無敵の存在ではない。この三人にあっさり負けることだってありえる。楽に勝てる相手なんかほとんどいない。




「……そのメンバーなら私が挑戦してもいい気がしてきました。どうです?」


「カササさん!」


 カササさんとブーンさんの二人も私たちの練習に参加していた。二人はゴキブリ、そしてハエのモンスター人間だ。純粋な強さに加え、いつゴキブリやハエを飛ばしてくるかわからない恐ろしさがある。


「その前哨戦というわけではないですが……実戦に近い練習をしませんか?私とブンちゃん、ジャクリーンさんとサキーさんで……」


 これは私にとってもいい提案だった。この二人には以前に完敗している。王者として、負けたままの相手がいるのはよくない。ここでリベンジさせてもらおう。



「………」


 ところがサキーの足が動かない。ずっと下を向いていた。


「いや………やらなくていいだろう。そいつらに負けたのはお前がまだ弱かったころのこと。再戦なんかしなくても問題あるまい……」


「……あっ………」


 カササさんのゴキブリ飛ばし攻撃にかわいらしい悲鳴を上げて腰が抜けてしまったサキーだ。ただの訓練ならまだしも、試合は二度とやりたくないようだ。




「それなら私にやらせてもらえませんか?強い人と戦いたいんです!」


「……マユ!」


 サキーの代わりに前に出てきたのはマユだ。あの洞窟で唯一ゴキブリとハエの群れを見ても平然としていたマユなら力強いパートナーだ。


「オードリー族との戦いではメンバーに入れませんでしたが、私もジャッキーさんと肩を並べて戦えるところをお見せします!」


「熱いね……いいよ、いっしょにやろう」


 スライムボディが真っ赤になるほど燃えていて、これは楽しみだ。先鋒は任せよう。




「始めっ!」


 マユとブーンさんがリング内に残り試合が始まった。カササさんが王座に挑戦する道を作るために、ブーンさんも張り切っていた。



「むっ……ぐぐっ!」


 ハエらしい軽快で鮮やかな動きにマユは苦しめられる。捕まえようと思っても寸前で逃げられ、深追いが災いして攻撃を食らってしまう。


「マユ、ここは一度代わったほうが……」


「いいえ!せめて一撃当てるまでは!」


 これは練習試合で、不運な事故でもない限り重傷を負うことはない。熱くなりすぎたせいで負けるとしてもいい経験になるから、マユの希望通りタッチはしなかった。



「交代すればいいのに……あれっ!?」


「捕まえた!これで最大の武器は封じたぞ!」


 マユの身体なら、普通ではありえない角度に腕を伸ばしたり、ある程度伸びたり縮んだりできる。相手の関節技は無効化して、自分は複雑な技を仕掛けられるのだから強い。



「あ……足が………ぬんっ!」


「抜けられた!ギブアップまでもう少しだったのに!」


 パワー不足で脱出されてしまった。これが無敵に思えるスライムボディを持つマユの弱点で、これから重点的に鍛えていくべきだろう。


「カササ!タッチだ!」


 ブーンさんは逃げてカササさんに交代、一方私たちはそのタイミングを逸し、マユがリングに残り続けた。



 マユとカササさんの攻防は、地味だけど互いの実力の高さを感じさせるものだった。


「ふんっ!」


「これしき!てやっ!」


 派手な技、それに武器や魔法を使わなくても、基礎がしっかりしていれば面白い試合になる。しかし特殊な能力を持つ者同士、このまま終わるはずはない。


「スライムとゴキブリでこんな正統派の戦いになるとは……そろそろどちらかが仕掛けそうだな」


 これはただの練習ではなく、結果次第でカササさんが私の王座に挑戦するかもしれないタッグ戦だ。動くとしたらカササさんだろう。




「自分の持つ全てを使う……それこそ真剣勝負!食らいなさい!」


「ああっ!?」 「うげっ!!」


 カササさんの指から大きなゴキブリが何匹も出てきた。もちろん本物のゴキブリで、必死に避けようとしたら隙が生まれる。それならまだいいほうで、もし間に合わずに顔についてしまったら……。


(視界が奪われ……いや、それだけでギブアップかも)


 繋ぎの技のはずが超必殺技になる。マユがどうにか回避することを願っていたら、誰もが全く想像していなかった展開になった。



「な……何――――――っ!?」


 マユは飛んでくるゴキブリの群れを避けず、大きく口を開けて待っていた。このままでは食べられてしまうとゴキブリたちのほうが逃げて、カササさんの中に戻っていった。


「あ……あなた!どういうつもりですか!?」


「スライム族は雑食だからゴキブリだっておいしく食べられる。生きているのをそのまま食べたことだって何度もある!」


 恐怖のゴキブリを食べ物扱いか。この勝負、決まったな。

 この話は1月中に執筆していましたが、まさか『アラムシャー』の元になった選手が悲願のIWGPヘビーのベルトを巻くとは……。ザックに負けてまたしても散る展開を予想していただけにびっくりしました。


『タツ・ヨシ』のほうは全然試合が組まれていませんが、介入役として暗躍を続けています。ブーイングをおねだりしているので、遠慮なくやりましょう。残念だったな俺だよ!

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