新たな家族、新たなライバルの巻
「ジャッキー様とぼくの子どもが……」
「ええ。オードリー族で最も力に満たされることになるあなたが大聖女と一つになれば、神や魔王以上の存在になるでしょう」
トゥーツヴァイは断言する。「さすがにそれはないでしょ」と口を挟める空気ではなかった。
「もちろん彼らがそれを許すはずがない。神々はともかく、魔王はすでに動いているらしいですから。その時は私たちオードリー族も加勢します」
「魔王との戦いか。面白くなってきた!俺たちの真の強さを見せてやるぜ!今日は実力の半分も出しきれなかったからな」
好戦的なオードリー族たちは魔王軍との戦争を楽しみにしている。私はできれば後方も後方、一番後ろにいたい。
「大聖女とオードリー族が一つになれば最強?あははははっ!いやいやいやいや、ありえないから!」
突然マキが大きな声で笑った。ラームとトゥーツヴァイだけでなく、残りのオードリー族にも言い聞かせるようにして話し始めた。
「お姉ちゃんが最も強くて最も尊い、最も正しい人間なのは今さら言うまでもないよ。でもそこに不純物を混ぜちゃ困るね。オードリー族なんてカスが入ったら汚染されちゃうよ」
「………」
「お姉ちゃんとわたし、大聖女姉妹の娘こそが至高の存在になる。それ以外はいらないから」
オードリー族だけでなくみんなを敵に回す発言だ。それでも私といつまでも共にいると誓ったラームはマキを恐れず、一歩も引かなかった。
「ぼくの血が入ったら汚染される?やってみなきゃわかんないでしょうが!」
「どうかな……成功が約束されてるのはわたしたちだけだよ。お姉ちゃんが汚い血を浄化してくれるとしてもどれだけ被害を食い止められるかな……」
頑張って噛みついても見下されたままだ。ところが今日のラームは違う。マキの言葉すら自分の武器にした。
「それなら試してみましょう!ぼくとジャッキー様の子を、妹様より先に!」
「………は?」
「絶対に成功するなら後回しでいい。魔法の完成のためにも、どうなるかわからないぼくが先にやるべきだと思いませんか?」
確かにそうだと皆を納得させる理論だ。ラームがマキの上をいくとは驚いた。
「……たまには面白いことを言うんだね。だったらどっちが先か、試合で決めようか?」
「いいえ、ジャッキー様に決めてもらいましょう!」
確かに私が順番を決めれば誰も文句は言えないはず。でも私に誰か一人を選べるか……それが問題だ。
「きょ、今日はもう遅いし、みんな疲れたよね。ひとまず帰って休もう。オードリー族の皆さんも一晩泊まってから帰るのをお勧めします!」
(逃げた……) (逃げたな、コイツ)
この場はひとまずこれで締めよう。ラームを含めたみんなといつまでもいっしょにいたい気持ちは確かだけど、その先の関係になるのは慎重に考えるべきことだ。その時の感情や熱に任せて突っ走れば、あとで後悔するはめになる。だからこれでいいはずだ。
「あの女……大丈夫か?ラームのためにもやはり連れて帰ったほうがいいような……」
「……優柔不断があまりにも酷ければ不合格と判断し、私が然るべき対応をします」
オードリー族たちが小声で私について話し合っている。不安や疑いがあるようで、しばらくはトゥーツヴァイの監視の目が厳しいだろう。
「しかし彼女がここにいるとよくわかったな。どうやって調べた?」
「自分たちだけでなく大勢の人間を雇って探しました。あらゆる身分、種族、場所を調べなければ見つからないと思っていましたからね」
現にラームは奴隷として売られそうになっていた。もしそこで脱走に失敗していたり、ビューティ家に来てもずっと屋敷の中にいたらオードリー族は諦めるしかなかったかもしれない。私といっしょにいろんなところに行ったことが発見に繋がったのだろう。
「おそらくこいつだろうと情報を提供してきた者はたくさんいましたが、最も正確で詳細まで教えてくれたのは魔族、それも魔王軍の精鋭でした」
「………!」
「魔王の命令でジェイピー王国に潜入し、大聖女や王の息子たちについて調べていた最中に見つけたと言っていましたね」
魔王軍の動きが活発になっている証拠がまた一つ出てきた。大聖女や勇者がいない時代を待っているなら私たちは安全だけど、どうやらそうもいかないらしい。
オードリー族以上に戦いを愛し、自信家なのが魔族の王だとすれば、あえて人間界の戦力が充実している時に戦争を仕掛けてきてもおかしくない。
「まあ……その時はその時だ。私たちはお前たちをルリ・タイガーの魔法で助け、お前たちは魔王軍との戦いで私たちに加勢して助ける……」
「それはいいね!」
「よーしよし!これでよし!素晴らしい日だ!」
ラームが無事に戻ってきて、誰も命を落とさず回復魔法ですぐに全快する程度の傷しか負わなかった。オードリー族たちの処罰を私とラームが望まなかったので、今日の騒動はこれで終わった。互いに協力関係を結ぶことも決まって、結果的にはスーフォーの言う通り素晴らしい一日になった。
夜になった。トゥーツヴァイは一人で静かな場所に行き、星空を眺めていた。
(ラーム……元気でよかった。辛い時期もあったにせよ、今はとても幸せそう。母としてこれ以上の喜びはない)
ラームはトゥーツヴァイの姉夫婦の娘だったはずだ。それでも彼女が母というのも間違いではなく、複雑な事情がそこにはあった。
(子を産めない姉のために『代理の母』として特別な方法で出産し、あの子を渡した。すぐに姉たちは島を出ていったけれど、むしろ幸運だった。もしずっとそばにいたなら、私はラームを自分のものにしようとよくないことをしていたに違いない)
最初はただの代わりのつもりで、自分でもそれでよかった。ところが時間が経つうちに『あれは私がお腹を痛めて産んだ子だ』と思うようになった。トゥーツヴァイがラームを優しく扱おうとした理由は母親の愛情によるものだった。
もちろん私たちがこの真実を知ることはない。オードリー族の仲間たちにすら隠されている、トゥーツヴァイが墓まで持っていくと決めていた秘密だ。
そしてもう一つ、トゥーツヴァイには心に秘めた思いがあった。しかもそれは今日、新たにできた秘密だった。
(ラームが自らの血と使命に逆らってまで選んだ人間……二人を祝福し、応援するつもりでいた。でも……)
トゥーツヴァイは妖しい笑みを浮かべた。もしみんながそれを目にしたなら、超危険人物として警戒していただろう。
(ジャクリーンさんと戦い、あの方がなぜラームを、そして大勢の方々を夢中にさせるかわかった。ラーム、もしあなたがぐずぐずしているようなら私が……)
ラームにとっては頼りになる家族に加え、ライバルが増えることになった。
プロ野球のキャンプ開幕のため、更新を休止します。忘れた頃に超人墓場から戻ってきます。




