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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第一章 大聖女マキナ・ビューティ編
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家族愛の巻

「あれ?ジャッキーさん、そのお守り……今日はつけていないものだと」


 サキーと別れて帰り道のこと、私のお守りを見たマユが不思議そうな顔をしていた。


「いや、朝からずっとあるよ」


「そうですか?おかしいですね」



 今日は魔物との戦闘は一度もなかった。もし襲われたとしてもサキーが一人で追い払うと事前に決めていた。


「おかしいって………あっ、確かに!シュリは私たちを見つけて助けを求めてきた!」


「自分より弱い魔物相手には姿も音も気配も匂いも完全に消すお守りですよね。私も最初はジャッキーさんとラームさんがすぐそばまで接近していてもまるでわかりませんでした」


 例外があるとすれば、このお守りをつける前から魔物に見られていることだ。でも家を出る時にはもうお守りはあった。シュリやゴブリンたちはどうして私たちが見えたのか、しばらく考えた。



「あの〜〜〜………とても言いづらいことなんですが」


 ここまでずっと黙っていたラームが気まずそうな声を出す。私の頭になかったもう一つの例外に気がついていたけど、教えるのを躊躇っていた。


「え?なになに、言ってよ」


「はい………最初に出てきたシュリ、それに村のゴブリンたち……みんなジャッキー様より強いのでお守りの効果がなかったのでは………」


「あぎゃっ!!」 「うっ!!」


 自分より強い魔物相手にこの魔法は通じない。その単純なルールを忘れていた。私よりもシュリのほうが戦闘力は上、衝撃の事実が明らかになった。



「………じゃあシュリより強い大人のゴブリンたちが束になっても勝てなかったカツって実はかなり………」


「ジャッキー様………危なかったですね」


 あっさり死んでもおかしくない戦いだった。サキーが助けに来てくれてほんとうによかった。


「家のみんなには今日のことは秘密にしよう」


「バレたら冒険者を強制引退させられちゃいますね」


 嘘はつかないとしても、全てを正直に言わなくていい。この件は三人の誰かが口を滑らせなければわからないし、明らかになる必要もない話だ。






「おお、無事で何より!どうだった?」


「ただいま。特に何もなかったよ」


 普段通りの一日だったと強調すると、誰もそれ以上何も聞いてこなかった。今日はお父さん、それにマキのほうが話したいことがあるからだった。



「こっちはいろいろあったぞ。またあいつらが来て、もう一度婚約してくれないか、ジャッキーに会わせてくれと……言うまでもなく断固拒否だがな」


「えっ、また来たの?しつこいな―――っ!」


 婚約という言葉を聞いてラームとマユの表情が変わった。二人にはまだ話していなかった。


「ジャ、ジャッキー様!婚約とは!?」


「もうとっくに終わったことだよ。私が12歳になった時に向こうから破棄した……と言えば理由はわかるよね」


「あ、そういうことでしたか」


 聖女としての私が欲しいだけで、私自身に興味はない。こういう話はこの世界ならよくある。



「スライム社会でも家同士が決める結婚はあります。でもそういう場合は妹のマキさんが代わりにその相手と……」


「ジャッキーを退けるような家にマキを嫁がせるなんてありえないわ。それに……マキはただの聖女ではなく大聖女。王様が放っておくはずがない」


 お母さんの短い説明で二人はすぐに理解した。何人もいる聖女と違って大聖女の血はとても貴重で、王国の繁栄が約束されるという。


「だから国は我がビューティ家に大量の金銀を提供したのだが、この金を目当てにジャッキーとの縁談を復活させようという連中だ、今日来たやつらはな」


 この動き自体は見苦しいところもあるけど、チャンスに縋りたい相手の気持ちもわかる。理解できないのは何度断られても頻繁に家まで来る諦めの悪さだ。そのたびにますます状況はどんどん悪化する、そんな簡単なこともわからないのかなと不思議に思う。



 そしてこの件で一番怒っているのはマキだった。私への愛情の量がそのまま、私をモノ扱いする人たちへの怒りになる。


「そう、あの連中はどうしようもない害悪だよ。自分たちが間違っていた、心からそう思っているのなら消えちゃえばいいのにね。誰も悲しまないし、そのほうがこの世のためになるんだから」


「い……妹様………」 (………怖っ!)


「あの惨めで情けない弱々しい姿……哀れすぎて殺す気にもならなかったよ。でも次会った時にまたふざけたことを言うようなら……どぉぉ〜しちゃおうかなぁぁぁ〜〜〜っ!」


 今にも奴隷商人グレンを攻撃した時に見せたどす黒い炎を放ちそうだ。大聖女はこんな黒い魔法や負の感情とは無縁だと言い伝えられている。ただ、前回は数百年前なんだからどこまで信用できるかわからない。


 もし伝承が正しいとしたら、マキは大聖女の力よりも私への家族愛のほうが大きいことになる。少し照れくさいけど、嬉しい気持ちが上だ。



「でもわたしの婚約者も同じくらいくだらないし、わたしはお姉ちゃんとずっといっしょにいたいな!」


 無邪気に抱きついてきた。これがほんとうのマキだ。今は少し怖がっているラームとマユもそのうちわかってくれると期待している。


(……妹様、確実に私たちを牽制している………)


(ライバル視されてるな………)


 ところがこの時の二人はマキに攻撃されたらどう逃げるかを考えていたという。ラームは小さくなって、マユはスライムボディを使って狭い場所に入ろうと。そこまでの最短ルートも探していたほどで、真の家族になるにはまだ時間がかかるようだ。

 かりんとう君とバケモノの決着はいつになるのでしょうか。(この二人が誰のことなのかわかるというプロレスファンは心の中で挙手してください。感想等を書かなくても大丈夫です)

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