179/273

査定の結末の巻

　試合を続けると宣言したトゥーツヴァイ。私の力が失われている感覚はなく、依然としてマキの能力を封じていた。

「私がちょっと強くなってもマキのほうが上……その読み、正解だよ」

　トゥーツヴァイの判断を褒めた。ところがこの選択の理由は全く違っていた。

「……いいえ。そんなことは全く考えていません。仮に今のあなたが妹を大きく上回っていたとしても、あなたにはそのまま戦っていただきたい」

「……え？」

「ラームが選んだ人間がどれほどのものなのか、ぜひ確かめたい！使命や運命に逆らって一生を共にする価値のある者か、査定させてもらいます！」

　距離を詰めてくるトゥーツヴァイに対し、私はその場から動かなかった。どっしりと迎え撃つ。

「ヌン！」

「てや！」

『がっちり組み合った！本来ならトゥーツヴァイが圧倒しそうなものですが、蓄積されたダメージの影響か互角の戦い……いや、ジャッキーが押している！』

　ラームの愛が私を強くする。もちろんみんなの応援も私に力をくれている。トゥーツヴァイの高い戦闘力と一族復活への執念を上回る勢いが今の私にはあった。

「ぐぐ……うっ！」

『マットに膝をついたトゥーツヴァイ、そこにジャッキーが強烈な膝蹴り！』

　強敵を仰向けに倒しても、３カウントルールはないから攻め続ける必要がある。ギブアップを奪うために関節技でいくことにした。

「よしっ！決まった！」

『腕ひしぎ十字固め！これは抜けられないか！？』

　リングの中央で技をかけている。トゥーツヴァイに逃げ場はない。助けに来る仲間もいない。

「そのまま折ってしまえ！終わらせろ！」

「腕をやったら次は首だ！徹底的に痛めつけろ！」

　過激な声援も飛んできた。でもトゥーツヴァイがいつまでも諦めず、審判も試合を止めなければこうするしかない。その前にギブアップしてくれることを願おう。

「どうだ！これで……」

「ははは……こんなものですか？あなたの十倍以上は生きている私を倒せると思ったら……甘いっ！」

「うわっ！？」

　腕を固められながらトゥーツヴァイが立ち上がった。見かけによらず、とんでもないパワーだ。

『ジャッキーはいまだしがみついている！しかしトゥーツヴァイがそのまま鉄柱に突進し……』

「………！！」

　私を叩きつけて引き剥がす気だ。目の前に柱が迫り、つい技を解いてしまった。

『逃げた！ジャッキー、柱が怖くて逃亡！』

「はぁ！？」　「弱気すぎる！精神が雑魚！」

　ブーイングの嵐が起こった。背中を痛めようが相手の腕を奪う、そんな強い気持ちはないのかと罵声が飛んだ。

「ふむ……慎重ですね。観客たちは臆病だと非難していますが、私は評価しますよ」

　そうそう、あくまで勝利のために一度離れたんだ。敵ながら見る目があるよと少し上機嫌になった。調子に乗る場面ではないのに、浮かれていた。

「勝利を焦って転がり落ちるような軽い人間ではラームを任せることはできません。そうなれば残りは実力ですが………ふんっ！！」

「……えっ！？」

　私の心に一瞬だけ隙が生まれたのをトゥーツヴァイは見逃してくれなかった。まだ話し続けるだろうと思っていたら、急に突進してきた。

「あぐっ！」

『タックル炸裂！トゥーツヴァイ、ここからどうするのか……おっと！ジャッキーの身体を高々と放り投げた！』

　空中に投げられ、ようやく止まったと思ったら逆さまに落下だ。これだけなら魔法でいくらでも対策はできる。当然トゥーツヴァイもそれはわかっていて、高いところから落としてダメージ、そんな甘い技ではなかった。

「………よし」

『ロープに足をかけ、落ちてくるジャッキーに狙いを定めた！無防備なところに勢いをつけて人間砲弾で突撃する気か！？』

　これがトゥーツヴァイの真の必殺技か。身体能力が高い彼女が、自らの身体そのものを武器にしてきた。

「オードリー族に栄光をもたらす一撃を受けてみなさい！あなたがこれを凌げるかどうかで、オードリー族とラームの未来が決まる！」

　マキとサキーはトゥーツヴァイの技を邪魔せず、じっと見ているだけだった。この程度なら阻止する必要はないということで、私を信頼してくれている。

「『富と幸運(エドワード)・アロー』！！」

　トゥーツヴァイが青い矢となって飛んできた。これが決まって私が動かなくなれば、オードリー族に富と幸せがもたらされる。エドワード・アローとはよくできた技名だ。

「お姉ちゃん！」　「ジャッキー！」

「ジャッキーさま――――――っ！」

　みんながわたしを呼ぶ声が聞こえる。その中でも特にラームの叫びが心に響いた。ラームとの幸せな未来のために、負けるわけにはいかない！

「おおおおお―――――――――っ！！」

「こ、この光は！？」

　見えないほどの速さだったはずのエドワード・アローがとても遅く感じるようになった。余裕を持って避けるだけでなく、腕を伸ばして捕まえることができた。

『我々には何が起きたか……この目ではわかりませんでした！レベルが高すぎる、まさに超人の攻防！』

　エドワード・アローをまともに食らっていたら命はなかったかもしれない。通り過ぎようとするトゥーツヴァイを止めただけで手と腕が燃えるように熱い。

「……想像以上の強さですね。スーフォーとロックスが敗れたのも納得です」

「マキとサキーはもっと強いよ」

「誰が警戒すべきで誰が穴なのか……勝負がほぼ決まった今、もはやどうでもいいことです。いや、実のところ私は最初からあなた以外……」

　気になる言葉だけど、終わってからじっくり聞けばいい。この絶好のチャンスで試合を決めないと逆転されることもありえる。皆の評価よりも私は弱い。

『空中にいた二人がさらに上昇！そしてこの形は！』

「スーパー闘技大会決勝戦、ジャッキーがマーキュリーとの死闘を制した……！」

　トゥーツヴァイは他のオードリー族たちとは違う。もし彼女がいなければ、オードリー族はもっと強引なやり方でラームを奪おうとしたはずだ。互いに多くの血が流れ、死人が出ただろう。

『後ろからトゥーツヴァイの動きを封じて落下、そして抱きしめる！炸裂すれば戦いは決着、しかし威力は弱まるので死ぬことはない！愛に満ちた大聖女にふさわしい技！』

　正式な試合で決着をつけることに合意して、最後はラーム自身に気持ちをはっきり語らせたトゥーツヴァイ。心からの感謝を伝えたい……その思いが身体を必殺技の発動に導いた。　

「てや―――――――――っ！！」

「……………」

　逃げられないと観念したのか、トゥーツヴァイは抵抗してこなかった。迫る敗北を受け入れているかのようだった。

『決まった―――――――――っ！！』

　今年のセ・リーグ順位予想

　優勝　横浜DeNAベイスターズ

　２位〜６位　残りの雑魚

　強い者が順当にペナントレースを制する、それだけです。オールスター前にはマジックが点灯しているかもしれません。