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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第四章 強敵たちの襲来編
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穴に落ちたイチワンの巻

 スーフォーが作った穴とその周りは、後々の工事のために立ち入り禁止になっている。全体的に緩くなっていた地面が、一つ大きな穴ができたことでかなり危ない状態になっていた。


「こんなもの、僕なら突破できる!」


 簡素な柵を蹴り壊し、イチワンが駆けていった。


「待ってろ、ラーム!人質として使ってやるからな……よし、今だっ!」


 近道を使いラームに迫ろうとした、その結末は………。




「うわ―――っ!落っこっちゃったよ――――――っ!!」


 軽いイチワンが速く通過しようとしても駄目だった。穴に落ち、瓦礫に挟まれ動けなくなった。



「あいつ……出られないな、あれじゃあ」


「こんな形で脱落するなんて………」


 調子に乗って戦いに関係のないところで離脱とは、これ以下を探すのが難しいほど最低だ。注意書きもあったのに無視して突っ走った結果がこれだ。



『おっと!?リングの外でイチワンが……穴に落ちて身動きが取れない模様!』 

 

 イチワンは試合中だから、兵士たちが助け出すことは許されない。助ける資格があるのはトゥーツヴァイとナナチーだけで、トゥーツヴァイはリング上、ナナチーはまだダウンしたままではどうしようもない。


 残りのオードリー族がルール無用で手出しするのも今は無理だ。全員場外戦でやられているし、回復してもマユやマーキュリーが目を光らせている。介入や反則は完全に封じた。


「あははははっ!!何がしたかったの!?ねーねー、コソコソ何を企んでいたの!?いや、ここから見てたからぜ〜んぶわかってるけどね、わたしは!」


「うう………」


「態度が大きいだけで弱すぎる、あまりにも弱いやつだってことは知ってたよ?それでもここまで情けないとは予想外だったよ!リングに上がっちゃいけないレベルでしょ、こんなの!」


 マキの罵倒に対し、イチワンは何も言い返せない。馬鹿にされても仕方がない立場だからだ。泣いているようだけど、泣きたいのはトゥーツヴァイだろう。




「さて……残る敵は一人、私たちは三人!」


「……………」


「どうやって始末しようか」


 サキー、続いてマキもリングに入ってきた。じりじりと後退するトゥーツヴァイをの腕を私が掴んだ。



「てやっ!」


「ぐっ………」


 ロープを支える柱に向かってトゥーツヴァイを走らせる。背中から柱にぶつかった相手を休ませる気はなく、獲物目がけて私たちも走った。



「くらえっ!」


「がっ………」


 まずはサキーが顔面蹴り。トゥーツヴァイは頭が揺れて回避能力を失った。


「えいっ!」


「あぐ!」


 マキは体当たりでトゥーツヴァイを悶絶させる。大聖女の力がなくても、勢いをつけた体当たりがお腹を襲えば苦しい。



「さあ、お姉ちゃん!」


「よーし、てやっ!」


 最後に私が突進。トゥーツヴァイの胸の上を肘で打った。


「………」 


「あ……ありゃ?あまり効いてない?」


 先の二人の攻撃に比べたら大したことはない、そんな顔をしていた。だから私を中心にした戦い方はだめなんだ。



「ぐ………」


『トゥーツヴァイが吐血しながら膝をつく!ここでサキーとマキナ様はリングから出ます!』


 私の技ではノーダメージでも、それまでの攻撃が効いている。しかしいつまでも三人で攻めるわけにもいかず、私はリングに残された。



「なるほど……短期間で強引に事を成し遂げようとすれば与えられる試練も大きくなる……楽な道など存在しませんね」


 当たり前のことだ。リングの外で転がっているオードリー族たちならともかく、賢いトゥーツヴァイがそれに気がつかないわけがない。最初からわかっていたはずだ。


「しかしそんな手段を使わなければ、強いオードリー族の復活はないのも事実………ラーム、自分の血に尋ねてみなさい。あなたがいるべき場所はどこなのかを」

 

「自分の血に………」


 心ではなく血に聞けというのは珍しい。頭は私といっしょにいたいと思っていても、純粋なオードリー族の血が流れる身体が自分の使命に従って生きようとしている、という話なのだろうか。



「あいつ……試合に勝つのが難しくなったと判断して、説得に切り替えたか?狡猾な女だな」


「いいんじゃないの?これであいつがむこうに行けば、お姉ちゃんへの愛もその程度だったってことで終わりだからね。でもまあ、わたしに比べたらそれ以外のやつらの愛なんて、天空と底辺くらいの差があるんだけどね!」


「……こいつ………」


 マキとサキーが不穏な感じになってきた。個々の実力は優秀でもチームワークはどうだろうと思っていたけど、仲間割れが近そうだ。せめて試合が終わるまでは何事もないように祈るしかない。


 

 しかし今は他の何よりもラームだ。本能が種の存続を求めたらこの試合を続ける意味はなくなる。


「私たちの真の希望となれるのはあなたしかいません。滅びようとしているオードリー族を救う……それがあなたの使命、生まれてきた理由ではありませんか?」


「………」


「あなたからオードリー族の新たな歴史が始まります。オードリー族が世界を支配する時、その中心人物たちには全員あなたの血が流れていることでしょう。あなたの名前は世界中で知られ、永久に語り継がれることになるのです!」


 偉大な女性として数百年、数千年後もラームは人々に称えられる。崇拝の対象にすらなるかもしれない。


「さあ、教えてください。あなたが真に望むものを」


「ぼくは………」

 

 ラームは迷っているようには見えない。言いたいことをまとめているだけで、すでに答えは出ていた。




「ぼくはそんなことに興味はない!オードリー族の復活も、自分の名前が有名になることも!」


「………!」


「ぼくが血を残すのはジャッキー様とだけだ!この人こそぼくの家族、ぼくのいる場所、ぼくの全てを捧げる存在なんだ!」



 

「ラーム………!」


 ラームは私を選んでくれた。この感動で身体がどんどん熱くなって、力に満たされていった。


「………まさか……パワーアップしている?」


「大聖女は愛によって強くなる。愛するだけでなく、愛されることでも。ほんの少しではあるがジャッキーにも大聖女の加護はある。いや、愛の力に限れば妹よりも上かもしれないぞ」


 サキーの説明を受けても、私がどれくらい強くなったのかトゥーツヴァイにはわからない。マキへの封印を解除して標的を変えるべきなのか、考えている。


「……………」


「せめてもう一人仲間がいればどちらかを抑えることはできたかもしれないが、この姉妹二人をお前だけでどうにかするのは無理だ。それに勇者である私もいる。賢いお前ならどうすべきか、わかるな?」


 もはや勝ち目はないだろうと棄権を促す。しかしトゥーツヴァイは首を横に振り、


「やめられるわけがないでしょう。続行ですよ」


 即答で拒否して完全決着を求めた。

デブ「そして君は悪戯者だ、見ていたぞ」


 その後のやり取りも、出てくる連中みんな畜生かお調子者という有様。それでもハッピーエンドなので必見の回です。

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