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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第四章 強敵たちの襲来編
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敵陣からの脱出の巻

 マキの膨大な力を抑えきれず、ナナチーを戦闘不能にしてしまったトゥーツヴァイ。今度は全力で大聖女の能力を潰しにくる。


「………!ふ〜ん、やるじゃん」


 どうやら魔力だけでなく、マキの全てを封じたらしい。もうこの試合中はマキに頼れない。


「でも残念だったね。最初からこうしていれば仲間がやられることもなかったのにね!力を温存していたのかな?」


「………」


「オードリー族の未来のために負けられない戦いじゃなかったの?結局その決意も口だけ、薄っぺらいものだったんだね」


 そんなはずはないだろう。しかしトゥーツヴァイが本気でやればできたことを最初はやらなかった、もしくはできなかった理由がある。そのことにすぐ気がついたのは、私にしては珍しい好判断だった。



「ねえサキー、サキーの勇者の力は大丈夫?」


「ああ。どうやら私は無視されているようだ。同時に何人も力を封じるのは厳しいという単純なことかもしれないが」


 私もいつも通りだ。それならトゥーツヴァイが能力を使っているのはマキだけのはず………。


(いや!もう一人いた!大事なことを忘れてた!)


 もしトゥーツヴァイがマキに全力なら、こっちのほうは解除しているはず。もしかしたらこれまでも何度かチャンスはあったのかもしれない。ここでようやくわかった。




「ラーム!小さくなって走って!」


「………!!」


 私は叫んだ。トゥーツヴァイが『しまった』という顔をしたけど、もうこっちのものだ。



「えっ……あ、あれ!?小さくなれる!」


 ラームは身体を半分くらいにして、拘束から抜け出した。そして再び元の身長に戻ると、私たちの陣営を目指して走り出した。


「ジャッキー様!これは……!?」


「細かい説明は後でするから!こっちへ!」


 まだ能力が奪われたままだとラームは思い込んでいた。黙っていればラームだけでなく誰も気がつかないだろうというトゥーツヴァイの策略を、私が打ち砕いた。



「こ、こいつ!待て!」


「逃げるな!戻ってこい!」


 ラームがどうなるかはこの試合の結果によって決まるのだから、逃げてしまっても問題はないように思える。しかしそれでもオードリー族はラームを捕まえようと追ってきた。


「あいつら……劣勢になったら人質として使うつもりなのかもな。ジャッキーに降伏を迫ろうと……」


「約束を無視して連れ去ろうとしているのかもしれません!」


 七人のオードリー族全員が正々堂々の勝負をしてきたわけではない。大きな目的は同じでも、そこまでの過程をどれだけ重視するかはそれぞれ違う。ラームを私たちの側に置かないと、試合が成立しない危険があった。




「俺が捕まえてやる!この怪力で……むっ!?」


 スーフォーの大きな腕がラームを掴む……ことはなかった。いきなり動きがとても遅くなり、止まっているも同然だった。


「な………な………に………が………」


「速さを奪う魔法だよ。自慢の怪力もそれじゃあ宝の持ち腐れだな」


 マキシーが得意の魔法でスーフォーを文字通り止めてくれた。睡眠に幻覚、強力な魔法はまだまだあるから、スーフォーはマキシーに任せよう。



「炎の壁だ!先に行けない!」


「こっちは氷!大きいしぶ厚い!」


 フランシーヌとマーキュリーが残ったオードリー族の行く手を阻む。無理やり突破しようとすれば大ダメージは確実だ。



「遠回りするしか………ぐあっ!!」


「あっ!?ぐぼぼ………」


 エーベルさんが椅子で相手の頭を振り抜けば、トーゴーは得意の鞭を使った首絞め攻撃で意識を奪う。場外での乱闘は私たちの圧勝だった。



「ラーム!無事でよかった!」


「マユ!いや〜………二度と戻れないかと思ったよ」


 みんなの助けもあって、ラームは帰ってきた。マユとルリさんのもとに飛び込み、再会を喜んでいる。


「ジャクリーン様!外のことはわたくしたちに任せて、試合でも完璧な勝利を!」


 リング外のオードリー族たちをみんなが痛めつけてくれたことで、ラームの安全と介入者のない試合が保証された。あとは私とサキーで残った二人を倒すだけだ。力を封じられたマキには下がってもらおう。



『ここで大聖女マキナ様からスーパー闘技大会覇者のジャッキーに交代!試合を決めにいくのか!?』


 トゥーツヴァイは交代せずに私と戦う気だ。特別な能力を互いに使わず戦えばマーキュリーを圧倒する実力がある。慎重にいこう。


「あなたにも大聖女の力が僅かにあるようですが……あなたの真の強さはそこに依存していない。だからこそ面白い戦いになりそうです」


 技術や技の精度を競う戦いになる。地味な展開になるから観客のほとんどは退屈だろうけど、目の肥えた一部の人たちには喜ばれる攻防になりそうだ。




「くそ………な……なんて………こっ……た!」


 リングのそばでスーフォーが悔しがっている。しばらく魔法の効果が続くとわかっているからか、マキシーはすでに自分の席に戻っていた。


「あはは!間抜けだなぁ。そんなことだから雑魚相手にくだらないことで負けちゃうんだよ、このアホ!」


「ぬ……ぬうう!イ…イチワン……め!」


 スーフォーをからかうのは味方のイチワンだった。そのイチワンはリングを下りると、スーフォーの頭を軽く叩いた。何をしても反撃がこないのだからやりたい放題だ。


「くそ………お…覚え……てろよ!」


 トゥーツヴァイが危なくなれば助けに入れるのはイチワンだけなのに、仲間を馬鹿にして遊んでいる。トゥーツヴァイが劣勢になるわけがないという信頼の表れなのか、イチワンの悪い癖が出ているのか……。



「よ〜し、今のうちにラームを取り返して人質にしてやるか!普通に戦っても勝てるけど、このほうがずっと手っ取り早い!」


 イチワンが私たちの陣営を目指す。しかしいまだに氷と炎の壁があり、それを避けようとしてもエーベルさんたちがいる。簡単にはラームのところにたどり着けない。


「よし!あっちから行けば早そうだ!」 

 

 ある一つのルートだけ、一見何の邪魔もなく通れそうだった。しかしその途中にはわたしとスーフォーの戦いでできた穴があった。もともとかなり古くなっていたらしく、この機会に新しく直そうということになった。立ち入り禁止の看板がすでに置いてある。


「入っちゃいけないだって?スーフォーみたいなでかいのは落ちるだろうけど、小さくて速い僕なら!」

『○ードンみぞにはまる』、『あなにおちた○ーマス』の2作品を知っている方なら、イチワンがこの後どうなるかもうおわかりのはずです。

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