疲れ知らずのイチワンの巻
「3対3の戦い……それでもリングで戦うのは一人ずつか?」
「ああ。交代したければタッチして試合の権利を移す必要がある。権利があるやつ同士でしか勝ち負けは発生しない」
いくらマキが強くてもずっと一人で戦わせるわけにはいかない。厳密には禁止だけど、二人以上で合体技を使うのも大体の場合は審判が見逃してくれる。チームワークが大事になる戦いだ。
「時間は当然無制限、決着は戦闘不能もしくはギブアップのみですがリングアウトや反則での負けもあり。試合をする権利のある者を倒せば控えが何人残っていてもそこで試合終了……このルールでよろしいですね?」
相手は三人とも強く、穴はない。しかし私たちはチームリーダーのはずの私が明らかに劣っていて、オードリー族は私がリングに上がっている時に仕掛けてくるだろう。
(あまり前に出ないでサポートに徹したほうがいいかな?)
試合を決めるのはマキとサキーに任せて、二人が実力を出し切れるようにするのが私の役目だと思った。ところがそうはいかないようで………。
「最後はお前が締めろよ、ジャッキー。ラームだってお前の勝利で救われたいと思っているだろう」
「お姉ちゃんがカッコよく勝つところが見たいな!」
頼みの二人が私を軸に戦おうとしていた。負けるとしたら敗因は作戦ミス、これしかない。
「大聖女と戦うことになったが……大丈夫か?」
「問題ありません。私の能力で大聖女を祝福する神々の力も封じることができます。彼女の魔力や腕力は全てそこに依存しているのですから……」
「訓練とか努力とは無縁そうに見えるもんな、あいつ。大聖女の力さえ没収しちゃえば、ただのザコが一匹いるだけさ!」
オードリー族の三人はマキを恐れていない。貰った力に頼って暴れているだけだと甘く見ていた。
「一つの種族がこの世からなくなっちゃうことになるかもしれないけど、いいのかな?」
「そんな未来は起こらない!お前らを倒してラームを連れて帰れば!」
「……でもまあ、たった七人しかまともな戦力がいない一族なんか滅んで当たり前か!その七人もこんな弱そうなんだから、いずれ消え失せる運命だけどね!」
マキの暴言にとうとう相手は我慢できなくなった。
「何が大聖女だ!もう許さん!」
「お前ら全員皆殺しだっ!」
鐘が鳴る前に三人揃って突進してきた。トゥーツヴァイはマキを、ナナチーはサキーを襲ってリング下に落とした。
「うわっ!」 「くっ……」
「二人はそいつらを止めるんだ!こっちは僕に任せて!」
イチワンは私をリング上で倒す気だ。マキとサキーが助けに入れない状況を作り上げた。
「これは……し、試合開始だっ!」
『オードリー族が奇襲!すでに激しい戦いが繰り広げられていますが、ようやく鐘が鳴りました!』
先制を許し、いきなり窮地に陥った。イチワンの流れるような連続攻撃に全く手が出ない。
「どうだ!どうだ!僕たちの苦しみを分けてやる!」
「ぐわぁ〜〜〜〜〜〜っ!」
張り手やキックで攻めてくる。反撃できないままだけど、しばらく受けていると冷静になれた。
(……あれ?全然痛くないや)
イチワンの攻撃は速いけど軽かった。見た目や勢いほどの威力はない。ロックスと同じでまだ子どもだから、スピードはどうにかなってもパワーが足りないようだ。
『リング全体を使ったイチワンの動き!一方のジャッキーは棒立ち、早くも大ピンチだ!』
とはいえ警戒を怠ってはいけない。元々の身体つきは幼くても相手はオードリー族、いきなり大きくなったり筋骨隆々になったりするかもしれない。イチワンの能力がわからないうちは守りを固めながらの戦いになる。
「くらえっ!!」
「ふんっ!」
飛び蹴りを掴んで止めた。もしイチワンがオードリー族が持つ力を使うならここだ。
『イチワンの動きが止まる!ジャッキーはここからどう攻める!?』
「てや――――――っ!!」
足を掴んだまま、マットに叩きつけた。もしミサンやナナチーのような能力ならノーダメージで受けてくる。それを試すためにあえて単純な攻撃でいった。
「うあっ!!」
(普通に決まった!防御には使えない能力なのかな?)
イチワンは痛みで顔を歪めた。しかしすぐに私から離れると、すぐに攻撃を再開した。
「お返しだ!ふんっ!ふんっ!」
「ははは……いきなりこんなペースで頑張ったら息切れしちゃうよ?」
体力の配分をまるで考えずに攻めてくる。そのせいで仲間のロックスが負けたというのに、そこから学んでいないようだ。しかも今回は時間無制限の勝負だ。
(仲間が二人いるし、やれるところまで全力でやって疲れたら交代して休む作戦かな?)
うまく交代できるとは限らない。へとへとになって助けを求めて手を伸ばしても、自分の陣営に誰もいないなんてこともありえる。場外での戦いが長引けばリングではずっと一人だ。
「僕が息切れだって?ありえないねっ!」
イチワンが自信過剰な子どもなのはフランシーヌとの会話の時から明らかだった。大人の怖さを教えてあげよう。
「なぜなら僕の能力は、無限の体力だからだ!休みなく攻撃し続けても絶対に疲れない、最強の戦士なのさっ!」
「………え?」
怖くなったのは私のほうだった。絶対に疲れない体力の持ち主なら何でもできる。様子見や休憩を挟まずにずっと全力が出せて、何時間でも戦えるとしたら確かに最強だ。
「僕の攻撃……一発一発は確かに弱い。でもそれが何百何千と積み重なったら、お前もいつかは死ぬだろ!」
「………!!」
イチワンは攻め疲れることがない。長い戦いになればなるほど、私の勝率は落ちていく。
(確かに……この七人の能力が一つに集まれば……)
トゥーツヴァイの能力だけはオードリー族のものではないと話していたから除くとしても、尽きないスタミナ、圧倒的な筋力とスピード、身体を硬くするのも柔らかくするのも自在、フェロモンを操ることまでできるとなればまさに怪物だ。
「ラームは将来とんでもない大物に……」
「そうだ。そしてそのラームがたくさん子どもを産んで、力を受け継いだやつが増えていく。そのうち一人くらいは戦闘のセンスがよくて頭の回転が速い天才が出てくるだろうってことさ」
完全無欠の能力に加え、元々の身体能力や賢さも完璧なオードリー族が産まれたら、人間、それに魔族も勝てない存在になる。オードリー族が世界を支配するという野望は実現不可能な夢物語なんかではなかった。
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