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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第四章 強敵たちの襲来編
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介入合戦の巻

 リング外での戦いが始まった。逃げるエーベルさん、追うミサン。放っておくとしばらく戻りそうにないので、審判が場外カウントを数え始めた。


「よし!元の姿になった今がチャンス!」


「……!戦う決心がついたか!」


 逃げていたエーベルさんが立ち止まり、ミサンを迎え撃つ態勢になった。



『周辺のお客様は安全な場所まで下がってください!巻き込まれても我々は責任を負えません!』


「よし、これで望みの物が手に入った!」


 観客たちが散り、エーベルさんは椅子を持つ。そして勢いよく向かってくるミサンに対し、


「ふんっ!」


「こいつ……ぶぐっ!!」


 投げつけて鼻に命中させた。ミサンも能力を使ってダメージを和らげようとしたけれど、間に合わずに鼻血を垂らして膝をついた。



『ミサンは動けないか!?エーベル突進!』


 目や口は防御のしようがない。あの距離では審判の目も届かないし、どんな攻撃でもできる。正々堂々とはとても言えないけど、相手はラームを強奪しようとする連中だ。これくらいはいいだろう……ってことにしておこうかな。


「あなたたちオードリー族の再興、その野望もここで打ち砕かれます!」


 オードリー族に恨みはない。でもラームを無理やり連れて行くのは許せない。先代大聖女による裁きを受けてもらおう。




「さあ覚悟………うっ」


 ところが突然、一気に攻める流れだったエーベルさんの動きが止まった。エーベルさんが膝をつき、逆にミサンがしっかりと立つ。何かが起きていた。


「ち、血だ!どうして!?」


「あれは……エーベルの腹に刃物が突き刺さっている!ナイフだ!」


 武器を持っていなかったはずだ。リングを下りてから今までの間にどこかで仕入れたとしても、ミサンの両手がずっと素手だったのはこの目ではっきり見ている。



「どんな仕掛けが………あっ!!」


「グフフ……」


 なんとナイフはミサンの胸から飛び出していた。そしてこれまでにない醜悪な笑い方。私たちがあれこれ考える前に、相手のほうから説明し始めた。



「この脂肪にナイフを隠しておくこともできたが、確実に大ダメージを与えるためにもっといいものを仕込ませてもらったぁ!」


 ミサンが能力を解除して、肉がなくなっていく。すると大きな塊がそこから出てきた。その正体は私もよく知っている。


「へへへ、大成功!」


「お前は……ロックス!」


 小さなロックスなら丸まっていればミサンの肉の中に入って姿を隠せる。皆に見られることなく一瞬でそうできるスピードがロックスの能力だ。そして持っていたナイフでエーベルさんを刺したということか。



「こら!卑怯だぞ!」


「卑怯!?関係ないやつを先に介入させたのはどっちだ!そいつが正々堂々リング上で戦っていればロックスを使う場面なんか来なかった!それくらいわかるだろ!」


 リングを下りた時にはすでに最後の一撃まで計画していたようだ。これだけ慣れた動きなのだから、今まで何度もやってきたことなのかもしれない。


「15!16!」


「おっといけない……リングに戻らなくては。この屑はもう動けないが私ものんびりしているわけにはいかない。急げ急げ!」


 エーベルさんをその場に放置してリングに走るミサン。全力で走らなくても20カウント以内には戻れるから、言葉とは裏腹に余裕の表情だった。



「エーベルさん!すぐに治療を!」


 すぐにエーベルさんのところに駆けつけた。すでにナイフは抜かれ、地面には小さな血の水溜まりができていた。


「いや………命に影響する傷ではありません。まだ試合中ですし、あと少し待ってください」


「もう勝敗はつきました。さあ、遠慮しないで……」


 リングアウトで敗北は確実だ。第三者の治癒魔法を受けての反則負けでも何も変わらない……はずなのに、エーベルさんは私の回復を拒み続けた。


「もう勝てませんが……負けない可能性はあります。ですから決着までは手出し無用です!」


「………?」



 ミサンがリングの真下に戻った時、カウントは18。ゆっくりと上がろうとしたところで信じられないことが起こった。


「これで私たちの3勝目………あがっ!?」


『な、なんと!ロープとマットの間からリングに入るかという瞬間、ミサンが転倒!自身の汗で滑ったか!?そしてなかなか起き上がれない!』


 今のミサンは普通の姿だ。転ぶのはまだわかるけど、立とうとしても立てないのはどういうことだろう。



「何をしている!遊んでいる場合か!」


「なぜ立てない!?リングは目と鼻の先なのに!」


 オードリー族たちも戸惑いながら叫ぶ。ミサンは必死にリングを目指しているのに中へ入れない。そうしている間にもカウントは進み………。


「19!」


「ま、待て!やめろ!カウントを止めろ!」


 止めろと言われてその通りにしたら審判失格だ。ミサンが何らかの異変に襲われているのは確かでも、決められた時間内に戻ってこなかったことが全てだった。




「………20!試合終了!」


『両者リングアウトで失格――――――っ!!今日初の引き分け決着!二人ともここで敗退となり、この先の戦いへの参加資格を失いました!』


 エーベルさんが頑張って道連れにしたのではなく、ミサンが自滅したように見えた。ところがそれは大きな間違いだった。



「ぐぐっ!誰だ!大人しく出てこい、下衆が!」


 マットと地面の間には僅かに空間があり、物を入れておくこともできた。今日は急遽この対抗戦が決まったから、何も入っていないはずだ。


「どうしたんだ、そんなところには誰も……」


「確かにいた!腕が伸びてきてリングに上がる私の足を掴み、邪魔してきた!殺してやる、出てこいっ!」


 怒り狂うミサンを兵士たちや味方のオードリー族が必死で止めている。こんな形で勝利を逃せば誰だってこうなる。



(………絶対トーゴーだな。さすがだよ)


 すでにどこかに消えているだろう。エーベルさんとトーゴーのチームワークは抜群で、勝ちに等しい引き分けだった。ただ、無法極まりない戦いを大きな声で褒めることはできない。全てが終わってからこっそりお礼を言っておこう。






「ファイゴーもミサンも情けないな!身体も態度も大きいくせに間抜けな負け方だよ」


 七人のオードリー族、最後の一人が立ち上がる。トゥーツヴァイやスーフォーと同じく青い髪、身長や年齢はロックスと同じか少し上に見えた。


「でも安心してよ。僕が止めてくるから。誰よりも強くて優秀なこの僕、『イチワン』がね!」

 思い出すなぁ。10年前、吹雪の夜だった。俺は親方に連れられて、青森駅から夜行列車に乗ったっけ……。もちろん、小説家になるためさ。その時俺は誓ったんだ。どんな苦しみにも耐えて、必ず総合ランキング1位になってみせるって!

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