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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第一章 大聖女マキナ・ビューティ編
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偽りの闘魂の巻

 私たちが去って一人残されたサキー。しばらくその場に立ち止まっていたという。


(愛してもらいたいならまずは自分から………)


 私の言葉の意味を考えているうちに、家出する前のことを思い始めていた。



(私は特別な人間、剣聖なのだから愛されて当然だと思っていた。そして皆が私に媚を売り、機嫌を取ろうとした……)


 自分が何もしなくても勝手に友人が増える。順風満帆な時はそんなものだ。そこでいい気になっているとその後が怖い。


(あの連中が剣聖ではないとわかった途端に私を捨てたのも、私がそれまでそういう態度で接していたからなのか?)


 真の友情ではなかったとわかった時、自分の落ち度を認めるのか、相手が悪いとしか思わないのか。どんな人間か試されるのはここだ。



(常に自分だけが大事だった私だ。突然剣聖だと言われた弟の不安も両親の戸惑いも考えず荒れた。だからますます離れていったんだ。自分のほうから愛せ………か)


 これまでの失敗に気がつき後悔する。しかしサキーは一流だ。ここからの立ち直りが早かった。



「ふふふ……ジャクリーンめ。私なら楽勝だろうがお前ではどうなることやら。勢いだけで突っ走って今ごろ困っているところだろうな」


 サキーは駆け出した。私たちの足跡を追って全速力で。


「助けに行くぞっ!生きていてくれよっ!」






 ゴブリンの村、そして少し前にスライムの集落を襲った男との戦いはすぐに終わった。私が苦戦しているところにサキーが援軍に来てくれると、あとは一方的に攻めて圧勝だった。私はほとんど何もしなかった。


「こんな雑魚相手じゃ訓練にもならなかったな」


「そ……そうかな?結構な強敵だったよ」



 男の名前は『カツ』、王国の騎士団に入るための試験に何度も落第していた。勝手に騎士団の愛称である闘魂軍を名乗ったのは自分もその一員になった気でいたいからというくだらない理由だった。


 スライムやゴブリンを狩ればその功績が認められて特例で闘魂軍に入れてもらえるかもと思ったらしいけど、そんなことをしたら騎士団ではなく囚人たちの仲間入りだ。


「人間と仲よくやってる魔物を大した意味もなく襲ったり、報復や戦争のきっかけになるような行為は厳禁だからな。この『偽・闘魂』男は重罪かもな」


 ここにいるゴブリンたちに反撃する力はなくても、一つの村が滅ぼされたと知ったもっと強力で数の多いゴブリンたちが人間への復讐に動くとしたら恐ろしい。そうなる前に止めたとはいえ、カツはしっかり裁かれるべきだ。




「それにしてもサキーが来てくれて助かったよ。相手の攻撃が激しくてなかなかこっちから攻められなくて」


「……昔に約束したからな。将来は平和のために共に戦う、どちらかが危機に陥った時は自分の命を代わりにしてでも救うと誓い合った仲だ。当然のことをしたまで……」


 てっきり「あんな攻撃も見切れないのか」とか、「どうせ負けると思ったから来た」なんてことを言われると思ったから驚いた。でもこれが本来のサキーだから、嬉しくなった。



「あ……でもこれで魔鳥の卵は……」


「もういい。親がいたらどうしようもないのは依頼主もサンシーロもわかっているから報酬が高く、期限も数日後になっている。また明日出直せばいい」


 親鳥がずっと巣から離れなかったことにして今日は撤退する。この感じだと明日もチームを組んでもらえるようだ。そしてカツを撃退したことへのお礼は何も受け取らず、シュリの作った木の人形だけをもらった。


「今日は報酬なしですが、夜の食事と宿泊代は大丈夫ですか?やはりサキーさんだけでも好意に甘えてこの村に泊めてもらうのは?」


「だったら私たちの家に来てもらえばいいよ。久々に会えてお父さんたちも喜ぶよ!」


 柔らかくなった今のサキーなら私の誘いに応じてくれそうだ。もちろん本人がゴブリンたちとの交友を楽しみたいならその気持ちを尊重するけど、せっかくの機会を逃したくない。



「いや、宿は昨日のうちに決めている。私はS級だ、その日暮らしはしていない。お前たちが彼らの世話になるのはどうだ?」


 耳が長く尖っていて身体の色が濃い緑である以外は人間に近い姿をしたゴブリンたちで、生活習慣や食べている物もほとんど同じだ。だから快適に泊まることができる。


 ただしそれはこの村のゴブリンたちの話だ。人間と全く関わりを持たないゴブリンの群れは顔も暮らしも魔物らしさが濃く、当然人の言葉も使わない。人間を敵視している集団もあり、要注意だ。


「帰らないとみんなが心配するからなぁ……」

 

 事前に言っておかないと外泊はできない。ビューティ家が大捜索を始めて騒ぎになる。これまでの仕事も全て日帰りできるものを選んでいた。



「なるほど……ジャクリーン、今や私たちの実力は天と地ほど離れている。しかしお前は愛する家族が家で待っていて、信頼できる親友もいる。もしこれでお前のほうが強かったとしたら……いや、互角だとしても私には何もなかったな」


「そんなことは……」


「いや、慰めはいい。お前が弱いのは悲運故にだが、私が家族を失ったのは自業自得。それを理解できただけでもチームを組めてよかった。ギルドに帰ろう」


 失意と後悔を噛みしめるような言葉だ。ところがサキーの表情から悲しみや絶望は感じられず、むしろ明るかった。



「そう、自分のせいで起きたことなら自分が変わればやり直せる見込みがある。どうにもならない現実に抗おうとするお前を見て、私もその気になったよ。もう手に入らないと諦めていたものを再び追い求める決心がついた」


 その目は輝いていた。サキーが求めているのは家族との仲直りか、剣聖を超える剣士になることか……何を第一にしているとしても、きっとうまくいくだろう。

 ☓☓スタイルの彼はどこへ行ってしまったのでしょう。新日本には来ないでください。

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