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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第四章 強敵たちの襲来編
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全力のロックスの巻

『ジャッキーもロックスを追ってリングを下りた!捕まえさえすればパワーと体格の差は歴然、すぐに決着となるでしょうが……』


「そうだ、行け!ジャッキー!」


「逃げるしか能のないチビを潰せ!」


 大観衆の声援を背に距離を詰めていく。私が近づいてもロックスは動かず、どこへ逃げようか迷っている風にも見えた。



(よし……むこうは今日初めてここに来たんだ。これなら捕まえられる………ん?)


 もう少しでロックスに手が届く……ところで私の足は止まった。ロックスはわざとその場から離れずに、逃げられないふりをしている。


『ジャッキーが止まった……いや、それどころかリングに戻る!敵を目の前にしてどうしたんだ!?』


「危なかった。さっき私が使った手だよ、これは」


 私は試合を諦めたように見せかけてスーフォーを穴に落とした。きっとロックスは全く同じことを企んでいて、落とし穴か魔法を仕込んでいるはずだ。この無抵抗は自分だけ20カウント以内に戻るための罠だと考えていい。



「ちぇっ、頭が悪そうなのに引っかかんなかったか。つまんないの」


 悪態をつきながらロックスがカウント18でリングに戻ってきた。いたずら好きなところを見ても、足が異常に速いだけの子どもだ。


「そろそろリングで………あっ!」


「あははっ!急げ急げ!」


 また逃げていった。私が隙を見せたら何かを仕掛けるだけで、基本は時間切れを目指して逃げることを徹底している。これをロックスは楽しそうにやっているから、リング内の戦いに誘うのは難しい。 



「ま、待って!」


「捕まんないよ!もっと頑張りなって!」


 あまり深追いすると私がリングアウトで負ける。ロックスは闘技場のどこにいても数秒でリングに帰れる足がある。


『試合時間は残り5分!あと半分!』


 追うのは無駄に思える。それでも毎回ある程度まで距離を詰めることにしたのは、ロックスのミス待ちが大きな理由だ。経験の浅いロックスがどこかで変なことをしてくれるのを期待していた。



(……今のところ………ノーチャンス!)


 ロックスは仲間の指示に忠実で、熱心に自分の仕事を果たそうとしている。命令無視も怠慢も無縁だ。こうなると私の敗退はもはや決定的だ。


「身体が大きすぎるから鈍いのかな!?」


「どうかな……私が遅いだけだよ」


 力、技術、体力、速さ……全てが人並み以下の私だけど、特に足りないのは速さだ。私がいくら頑張ったって追いつけないんだから、少しくらい手加減してほしい。



「18………19っ!」


『やはりロックスは戻ってきました!リングからかなり離れた位置にいましたが、間に合わせてきました!』


 まるで瞬間移動だ。能力も身体も未完成でこんなに凄いのだから、成長したらどのくらい強くなるのかわからない。とはいってもロックスが全盛期を迎えるのは数十年から100年後のことで、私には関係のない話だ。


「あと少し!頑張るぞっ!」


 全力で走っていく。常に最高速度で駆け抜け、一切の手抜きがない。それが試合の行方を大きく左右するとは、誰も考えていなかった。




「ふぅ……ふぅ………」


(………ん?)


『残り2分!遠くに逃げてはリングに一瞬戻るを繰り返しているロックスですが、ややスピードが落ちたか?リングから離れる距離も短くなっています』


 急に動きが鈍くなった。もう2分しかないのだから、私を煽って罠にかけるよりも逃げることに専念すべきだ。


「へへへ………はぁ、はぁ、はぁ……」


 私でも捕まえられるスピードまで落ちることはなさそうだ。しかしリングを下りる時にやけにもたついていたり、普通に走るだけで転びかけたのを見ると、明らかに様子がおかしい。



「何をやっている、ロックス!遊んでないで最後まで全力でやれ!」


「………いや、彼女は最初からずっと全力です。まさかそれがこの最終盤で裏目に出るとは……」


 ロックスはまだ幼く、未完成だ。オードリー族として厳しい修行を重ねてはいても、訓練と実戦は別物だ。


「まさか!スタミナがもう………」


「見ろ!全然遠くへ行けなくなった!あまり離れると戻れなくなるからだ!」 


 体力や足への負担が限界に達したようだ。リングアウト寸前で戻ってきて、カウントが止まったらすぐにまた逃げるというのは無敵の作戦に思えた。ところが全く休まずに走り続け、たまに止まっていてもそれは私を騙すための演技。気を抜くことはできないからどんどん疲れが溜まっていった。




「ゼェ……ゼェ………」


『カウント19!どうにか戻ってきたがロックスはもうフラフラ!しかし残り時間はあと1分!』


 最後の最後にチャンスが来た。リングを出ようとするロックスの背中を掴んで倒そうと私は腕を伸ばす。


「捕まえ……あっ!?」


「そ…それっ!」


 なんとロックスは逃げずに私の足にタックル、そのまま丸め込んできた。



「ワン!ツー!」


「……軽いっ!」


『ジャッキー返した!今度はジャッキーが丸める!』


「ワン!ツー!ス……」


「ていっ!」


『ロックスの腕が上がった!丸め込み合戦なら小さなロックスにも勝機があるか……いや、やはりきつい!』



 もう走るのは無理だと判断したのか、3カウントでの勝ちを拾いにきた。ただし今のロックスは疲労困憊、技の鋭さも押さえ込む力も貧弱だった。


「ふん!」


「うあっ………」


 軽々とロックスを持ち上げて、背中からマットに叩きつける。本来ならここからどうやって攻めるか考えるところだけど、今のロックスにこれ以上の攻撃は不要だった。



『ジャッキー、そのままロックスの両肩を地面につけた!ロックスは……丸め込みで最後の力を振り絞っていたようだ!返す気配なし!』


「ワン!ツー!スリー!!」


 残りは20秒。ぎりぎりのところでどうにか勝った。ほとんど攻防のない試合だったのに、焦りのせいで精神的にかなり追い詰められた。



「勝者、ジャクリーン・ビューティ!」


「ど、どうも………」


 とにかくこれで対抗戦の初勝利、私個人ではスーフォー戦に続く連勝となった。

 ブックマーク、いいね、そして評価ポイント!ヘッヘッヘ、三つの顔を持つのがこの俺、アシュラマンよ!

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