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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第四章 強敵たちの襲来編
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諦めたジャッキーの巻

『ジャッキーがマットに沈んだ――――――っ!!スーパー闘技大会の覇者がスーフォーの巨大な腕の餌食に……』


「いや………」


 スーフォーは険しい顔のままだ。手応えを感じなかったのだろう。倒れる私から目を背けない。



「げほっ、げほっ………」


『生きていた!しかも立ち上がる!』


 観客席からは大歓声だ。しかしサキーたちは冷静で、私のダメージが軽いことを最初からわかっていたようだ。


「防御魔法が寸前で間に合っていたな。衝撃もうまく逃がし、被害を最小限に食い止めた」


「ジャッキーさんは得意ですよね。ぎりぎりのところでガードするのが」


 何度も同じような光景を見ているから今回も大丈夫だろうとみんなは安心していた。しかし少しでも遅れるか位置がずれるかしたら死んでいる。今に限った話ではなく、毎回余裕なんかない。



「ふ―――っ………」


「そうか、大聖女ほどではないがお前も回復できるんだったな。不器用に見えて小細工が得意だな」


 別に得意ではないけど、弱いんだから色々やらないと勝てない。こんな怪力を相手に真正面からぶつかったら粉々だ。



「だが勝者は決まったも同然……早いか遅いか、それだけのことだ!」


「うっ!ぐぐっ………」


 両腕を全身と同じかそれ以上に巨大化させたスーフォーの猛攻が始まった。全く接近できず、私にできるのは逃げ続けることだけだった。


『風圧だけでも立っていられなくなるほどです!このままではいずれ……』


 私の魔力は少ない。治癒魔法の回数にも限界があるし、回復だけに魔力を割いていたらいよいよ勝ち目はない。追い詰められていた。



「うわああっ!」


「せいっ!」 

 

 リング下に逃げたところ、スーフォーの両腕がハンマーのように上から襲いかかってきた。石や金属で固められた地面に大穴を開けるほどの破壊力で、回避に失敗したら私はぺしゃんこになっていただろう。


「そろそろ自慢の強運と逃げ足も限界だろう?ギブアップは認めるルールなんだ、もう諦めろ」


 スーフォーはすでに落ち着いていた。しかし危険な状況であることに何一つ変わりはなく、逃げ回る以外は何もできない。



「腕ばかり警戒していると……こうなるぞ!」


「ぐうっ!」


 キックも強烈だ。恵まれた体格、鍛えられた筋肉を誇るスーフォーなのだから、能力の恩恵がない部位での攻撃も殺人技になる。


「いてて………ひとまず回復だ」


 これでまだ戦える。魔力が尽きる前にどうにかしたいところだけど、ここから逆転するには………。


(………思いついた。やってみよう)




「足が止まった………観念したか?魔力も残り僅かのようだしな!」


 私は両手を上げた。どうやってもあなたには勝てない、打つ手はないというポーズだ。


「降参か。ならばギブアップを宣言しろ」


「………いや、負けるならちゃんと倒されて負けたい。それにラームは私の大切な家族!こんな形で失って生き続けられるほど私は強くない………」



 つまり潔く死を選ぶ。勝利どころか命を諦めた私の言葉に場内は騒然とした。


「死ぬ気かよ!?なんて根性なしな女なんだ!」


「あいつがチャンピオンになったのはやっぱりまぐれだったんだ!」


 罵声や悲鳴が飛ぶ。驚きのあまり取り乱すのはサキーたちも同じだった。


「や、やめろっ!何を考えている、ジャッキー!」


「最後まで望みを捨てないでください!そうすれば奇跡の逆転がありますからっ!」


 私は耳を傾けない。視線すら向けなかった。



「ジャッキー様!ぼくのために戦ってくれただけで十分です!死ぬだなんて………」


 ラームが暴れながら叫んでいる。数人がかりで押さえられていた。


「……これでいいんだよ。ラームがトマス島に行ったら私たちは多分二度と会えない。だったらもう生きている意味なんてない」


「ジャッキー様………そこまでぼくのことを………!」


 

 スーフォーの目の前に立ち、静かに最後の魔法を唱える。自分ではなくスーフォー、それも自慢の両腕に強化魔法をかけた。


「おおっ!?俺の腕がますます大きく………今までにないほど力に満たされているぞ!?」


「持続時間は短いけどそのぶん効果はすごいよ。時間内ならどんなことがあってもその状態を維持できる。さあ、それで私を倒してほしい」


「なるほど、わかった。どうせ死ぬのなら苦しまずに一瞬で……そういうことか。ならば全力で葬る!」


 両腕を高く上げたスーフォーは、私を全力で潰そうとしていた。おそらく骨すら残らず、血や水が噴き出すだけだ。


「場外カウント!ワン!ツー!」


 私たちがリングに戻ろうとしないので、審判が場外カウントを数え始めた。カウントが20になるまでにリングに入らないと失格になる。ゆっくり数えているから20秒よりもずっと長く、その前にこの攻防は終わると確信していた。



「ではさらばだ!ふんっ!」


『ジャッキーの最期か―――――――――っ!?』


 スーフォーの腕はまだ大きくなり続けていた。大型のハンマー以上で、受け止めるのは絶対に不可能だ。


「……えいっ!」


 だから逃げた。横に転がって間一髪で躱した。



「なに……あっ!!」


 空振りした先には穴があった。スーフォーが自分で地面を割って作った穴だった。


「ぐおっ!!うがあっ!?」


 スーフォーの腕が肩のあたりまでその穴に吸い込まれ、すっぽりと収まった。抜け出そうとしても腕はまだ膨らみ、動けなくなった。



「16……17!」


「はっ!?カウントが………そうか、お前の狙いは!」


 諦めたように見せかけた私の狙いはリングアウトだった。穴に落とす作戦がうまくいったのは最高の結果で、これが失敗しても別の手を使ってスーフォーをリングに上げさせない用意はできていた。


 ラームやサキーたちが観客と同じように叫んでいたのも、実はスーフォーとオードリー族を騙すための演技だ。私が簡単に勝負を捨てるはずがないとわかっているから、これはおかしいと気がついて協力してくれた。私が死ぬと言っているのにみんなが平然としていたら相手は怪しむ。


「ハハハ……さすがジャッキー!大観衆の前で『馬鹿はこうやって倒せばいい』という手本を見せるとは!」


「いくら恵まれた身体と並外れたパワーを持っていても頭が弱ければ試合には勝てない……素晴らしい授業です」


 私がほんとうに危なくなればみんなは席から叫んだりしない。すぐにリングに走って試合を止め、私を助け出してくれただろう。




「こ、こいつ〜〜〜〜〜〜っ!!」


 罠に嵌まったスーフォーの怒りは凄まじく、血管が破裂しそうなほどだ。しかし両腕が動かせず、四つん這いで睨まれたところで怖くは………いや、やっぱり怖かった。

 俺が悪魔超人No.1、総合評価1000万ポイントのバッファローマンだ!キン肉マンやロビンマスクは精々100万ポイントってとこよ。ふっ、この俺様に正義超人が束になってかかってきてもかなうと思うか?


 1000万ポイントの俺とマジでやる気かい?

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