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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第四章 強敵たちの襲来編
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スーフォーの怒りの巻

 スーフォー……④

『大変なことになってしまいました!オードリー族と名乗る七人組が楽しいひと時に突如乱入、ジャッキーの仲間であるラームを連れ去ろうとしたためリングで決着をつけることになりました!』


 大聖女の戦闘服も完全防御の鎧もなく、ただ動きやすいだけの服で戦う。私が強運と防具の力だけで勝利を重ねたのだとしたら、何もできずに負ける。真価が問われていた。



「おい、これは互いにとって大事な試合だ!まさか3カウントなんてルールはないよな、審判!」


「は、はいっ!」


 審判がスーフォーの脅しに屈した。試合開始直後に足払いで倒し、一瞬のうちに3カウントを取ることを狙っていたのに、作戦を潰された。


「俺たちの邪魔をするんだ、お前もそれくらいの覚悟はあるよな?どちらかが動けなくなるか、自ら負けを認める……決着はこの二つだけだ」


「……わかった。でも反則と場外カウントは残してほしい。これがないとやりたい放題になっちゃうからね」


「お前ごときに反則なんかしないし場外に出ることもないだろうが……ま、俺には関係ないルールならどんどん追加してくれ。お前が戦いにくくなるのだからな」


 ラームを無理やり連れて行こうとしている連中だ。口では正々堂々を誓っても、負けそうになったら何をしてくるかわからない。介入や禁止アイテムの使用を封じるルールは必要だ。



「お前を倒せば俺が新チャンピオンか。ラームのついでにその称号を貰っていくとするか!」


「おいおいスーフォー、そんなのいらないだろ!トマス島じゃ無価値だ!」


 オードリー族は名声やお金よりも、とにかくラームを欲している。ラームを人質にすることで私が試合を断れない状況を作ったというわけではなかった。


「チャンピオンに与えられる王冠を売れば大金貨が何枚手に入るやら……それでもいらないの?」


「金がいくらあっても死んでしまえばゴミになる。どれだけ名声を得てもこの世から消える時には無と化す。死や消滅から救うものにもならない」


 ある程度危険から守られて寿命が延ばせても、真の救いにはならない。その考えには同意できる。


「オードリー族滅亡の危機……いくら俺に力があってもどうにもならない問題だ。救出できるのはラームだけなのだ!」


 どうしてラームなら一つの種族を救うことができるのか、スーフォーを倒してからじっくり聞こう。




「試合開始っ!!」


『鐘が鳴らされたっ!まずは両者様子見か、スーフォーも腕を大きくしません!』


 能力がなくても強そうな筋肉質の身体で、パンチや体当たりを食らったら吹っ飛んでしまいそうだ。


「いくら勝敗は決まっているとはいえ、あまりあっけないとつまらない。俺を楽しませてくれよ!」


 真っ向からの接近戦はしたくない相手だ。距離をとって隙を突く戦い方になるだろうから、スーフォーの望む楽しい戦いにはならない。



「てやっ!」


 マーキュリーに教えてもらった氷魔法を使ってみた。実戦では初めて使う上に私の貧弱な魔力では大した威力が出ないのはわかっている。

 

『ジャッキーの指から小さな氷がいくつも飛んでいる!スーフォーに通用するのか!?』


 安全な場所から攻撃したい、相手の魔法対策や防御力を見たい、その両方ができるのが氷魔法だった。圧倒的なパワーを誇るスーフォーが実は守りは脆かったとしたら、この攻撃を続けていけばいい。


「………何かしたか?俺の身体が濡れているが」


『全く効いていない!スーフォーの強靭な身体にはノーダメージ、氷が溶けてしまった!』


 これはこれで仕方ない。防御も優秀な強敵とわかれば、甘い期待を持たずに戦える。中途半端な攻撃で墓穴を掘ることはなくなった。



「どうしたスーフォー!怠けてるのか?そんなやつ相手にどうして攻めない?」


「……ああ?」


 スーフォーをからかうように罵声を飛ばしたのは彼女の仲間だった。スーフォーが絶対的リーダーだと思っていたけど、上下関係はないようだ。


「ビビってるのかな?それとも眠いのかな?」


「黙れ!無礼だぞ、お前ら!俺のような立派な人間は勝ち負けだけでなく内容が問われるんだ!」


 仲が良いから何でも言えるのか、それとも常に言い争いばかりしているのか。七人組の関係性をもっと知りたいところだけど、今は試合に集中しよう。



「ま……こいつの実力はだいたいわかった。そろそろ俺からいくか!ふんっ!」


『おおっ!スーフォーの右腕が膨れ上がっていく!一振りするだけで鋼鉄の鎧を着た兵士たちを幾人も倒した脅威の武器がジャッキーに襲いかかるっ!』


 スーフォーは腕を上げながら背後のロープに走る。勢いをつけて振り抜くためだ。

 


「首を落としてやる!ぬんっ!」


「うわっ!!」



 想像よりも動きが速い。避けてカウンターまで狙っていたのに、回避で精一杯だった。


『どうにか避けたが危なかった!ほんの少し遅れていたら試合終了だった!』


 一撃必殺の技を持っている選手は多い。でも雑に腕を振るだけでいいというのが珍しい。全く苦労せずに好きなタイミングで好きなだけ放てるのだから、対戦相手はたまったものではない。



「心が折れたんじゃないか?なあ、スーパー闘技大会チャンピオン様!」


「いやいや……むしろ元気になったよ。この程度なら簡単に勝てるってね。自信満々の割には大したレベルじゃなかった。身体がでかいだけ、ただの太った人だ」


 あえて怒らせてみた。怒りで我を忘れるとパワーもスピードも落ちることがある。スーフォーは単純そうだから私の強がりを見抜けず、挑発に乗ってくれると思った。



「この小娘………!思い知らせてやるからな!」


(うまくいった!勝機が見えたぞ!)


 眉間のしわ、真っ赤な顔、震える身体と声。演技ではなく本気で怒っている。ここまであっさり思い通りになってくれるスーフォーが心配になるほどだ。簡単に悪い人に騙されてお金や地位を失ってしまうだろう。



 私がスーフォーの心配をしている裏で、オードリー族たちは小声で話していた。その話の内容はなんと、私を哀れむものだった。

 

「ああ見えてスーフォーにも常識はある。ジャクリーン・ビューティを必要以上に痛めつけることはなかったはずだ。良心や罪悪感が仕事をした」


「しかし怒りに身を任せたスーフォーは違う。相手を躊躇わずに殺す。それでいて強くなってしまうのだから恐ろしい」


 怒らせるのは逆効果で、私の死が近づいただけだという。もっと早く教えてほしかった。




「地獄で後悔しろ!ぬおりゃっ!!」


(あれ………さっきよりも動きが鋭い………)


 オードリー族の会話が聞こえなかった私はスーフォーのパワーアップを直前になって知ることになった。私の顔面に強烈な攻撃が叩きつけられる直前に。



「ぶげっ!!」


 作戦が完全に裏目、大の字になってリングに倒れた。

 高評価やブックマークは強い者のシンボルだ!それが今はどうだ、弱いくせに評価ポイントをつけたがる!そういう下等超人を懲らしめるのも、我らの役目なのだ!


 お寿司100人分をいただく!フハハハハハハ!

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