怪力のスーフォーの巻
「ラーム!」
「これで目的は果たした……我が一族のために必要なラームを無事に手に入れたぞ」
抵抗していたラームはあっという間に縄で縛られた。逃げられないようにするためだろうけど、これならまだ希望はある。
「こんなもの!ぼくなら簡単に脱出できる!」
「そ、そうだ!小さくなればいいんだ!」
魔力のないただの縄なんかラームの前では無意味だ。すぐに抜け出して帰ってきてくれる……はずだった。
「……えっ!?おかしいな、あれっ!?」
ラームがどれだけ頑張っても身体はそのまま、七人組に捕らえられたままだ。
「悪いね。君のことはわかっていると言ったでしょ?これくらいの対策はしてある」
能力が封じられてしまえばラームは無力だ。すぐに助けないと取り返しがつかないことになる。
「お前ら!痛い目に遭う前にその子を解放しろ!」
「この大人数の前で堂々と拉致されたとあっては王国の名が汚される!抵抗するなよ!」
私より先に動いたのは闘魂軍の兵士たちだった。何万人といる中でこんな悪行を見逃していたら、確かに彼らの名誉は地に落ちる。いてもいなくても変わらない存在だと批判されても何も言い返せないだろう。
「お前らが俺たちを止める?無理だな」
リーダーらしき女が一人で数人の兵士を相手にしようとする。仲間は全員傍観していて、加勢しなくても平気だと考えているようだ。
「天下の闘魂軍も舐められたものだ。一人で我らをどうにかできるはずが………あ?」
「どうだい、チビの兵士くんたち。これでも一人では勝てないと思うかな?」
両腕が大柄な全身以上に大きくなっていた。こんなに巨大化したら重くて転んでしまいそうだけど、これはオードリー族の能力だ。軽々と振り回している。
「ぎゃあっ!!」 「ぐえ!」 「あぴゅっ!?」
そして次々と兵士たちを倒していく。力の差は歴然だ。
「うははははっ!この俺、『スーフォー』様の実力を見たか!次に死にたいやつは前に出ろっ!」
闘魂軍の兵士や闘技大会に出場した精鋭たちも動けなくなってしまった。単純な能力だけど、その分小細工が通用しない。この怪力を上回るパワーで勝つしかないのだから厳しすぎる戦いだ。
「誰もいないなら異論なしと受け取り、ラームは俺たちがもらっていくぞ。邪魔したな」
「私たちが来る前のように、祭りを続けるといい」
そんなわけにはいかない。私は走り、ラームを連れて出口へ向かう七人の道を塞いだ。
「待てっ!ラームは私の家族だ!もしラームとお前たちが同じ一族だとしても……勝手に奪えると思うな!」
「ジャッキー様………!」
ラームは感動のあまり目が潤んでいた。でもここで私が失敗したらそのまま悲しみの涙になってしまう。
「もしどうしても連れて行きたいなら私も同行させてもらう!一週間ぐらいトマス島とやらを観光してから二人で帰らせてもらうけどね!」
私が行くとなればサキーたちも黙っていない。もちろん遠征が終われば帰ってくるマキも。最強の大聖女に目をつけられるのは敵だって避けたいはずだ。
「いや……お前はいらない。それに同じオードリー族だからという理由だけなら我々もここまで強引に事を進めない。ラームの家族であるお前とじっくり話し合い、交渉していただろう」
どうしてもラームが必要な事情があるようだ。当然どんな内容だとしてもラームを渡すことはない。とはいえ相手の目的を知ることができれば、戦わなくても解決できる道があるかもしれない。
「このラームは一族を復活させる救世主になる女だ!かつて栄華を誇った偉大なるオードリー族が再び輝くためにはラームの力が必要だ!」
「オードリー族の……復活!?」
「ぼくが救世主!?いやいや、それはない。小さくなるだけのぼくよりお前たちのほうが強いでしょ?」
いきなり救世主と言われたら誰でもびっくりする。ラームもすぐに否定した。しかしオードリー族の七人組は淡々と話を続ける。
「それはあなたがまだ幼いからです。成長すれば私たちが持つ能力を全て使いこなせるようになります。オードリー族として完璧な存在、それがあなたです」
「全身を小さくする力、それが将来最強になる者を見分ける印だ。あと数年もすれば我々や闘技大会の出場者の誰よりも強くなることは約束されている」
オードリー族の長い歴史がそれを裏づけているのだろう。100パーセント確実にそうなると彼女たちは信じているようだ。
「なぜラームなのか、話すのはそれだけでいいだろう。全てを教える必要はない。さて、道を開け………る気はないようだな、ジャクリーン・ビューティ」
「……………」
睨み合いが続く。スーフォーが前に出てきた。
「こうなると思っていたぜ。いいだろう!今から俺と戦え!もしお前が勝てば俺はもう何もしない、しかし俺が勝てばお前は黙ってラームを見送る……どうだ?」
やはりこうなるか。しかし七人のリーダーと思われるスーフォーを倒せば、残りのメンバーとは戦わずにすむ可能性が高い。一番強そうではあるけど、やるんだったらスーフォー一択だ。
「ジャッキー……あいつの力は見ただろう。闘技大会の決勝トーナメントの連中より強いぞ、あれは」
「……私でも絶対に勝てるとは言えない」
サキーとマーキュリーが私を止める。今日はお祭りだったから試合用の服ではなく、パワーアップさせてくれるマキはいない。
「いきなり人を攫おうとするあいつらは無法者だ。トーゴー以上の反則、キョーエン以上の狂気、マーキュリー以上の残虐………危険すぎる」
心配してくれるのはありがたい。でも今の私に選択肢なんかなかった。
「二人とも、下がって!死ぬかもしれないとしても……私はリングに上がる!」
「………」 「………!」
「ラームは……私がダメ人間だった時からずっとそばにいてくれた大切な家族!簡単に別れられるわけがない!」
私の叫びを嘲笑うかのように、スーフォーは心のこもっていない拍手をする。そしてリングを指差した。
「勇気だけは褒めてやろう。そのせいで死ぬことになるとしても安心しろ。俺たちがちゃんとラームの面倒を見てやるからな」
「……ジャッキー様………」
スーパー闘技大会後、初の試合になる。しばらくは祝勝会や公の場での挨拶で忙しく、残った時間はみんなと遊んだり休養したり……試合どころか身体をしっかり動かすのも久々だった。
私は完璧超人のボス、ネプチューンマン。総合評価1位は間違いなく我々の物。なぜなら完璧超人に負けはないからだ!
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