オードリー族の巻
お祭りの最中に現れた七人の乱入者。彼女たちの狙いは私ではなくラームだった。
「ラームを!?いや、どうして?」
「言うまでもない話だが、戦いたいということではない。ラームには私たちと共に来てもらいたい」
「ああ。我々にはラームの力が必要なんだ」
目的はわかった。ただし理由はわからないままだ。
「ぼくの力が……?」
「ようやく世間が気がついたと言うべきかな。私なんかがスーパー闘技大会で優勝できるほどになれたのはラームの力が大きいよ」
ラームがいつも隣で支えてくれたから今の私がいる。サポート役としてとても有能だ。
「まあ……どんな理由であっても渡す理由はないけどね。ラームが行きたいって言わない限りは」
「まさか!冗談はやめてください。ジャッキー様のもとを離れてあんな見ず知らずの無関係な連中といっしょに?ありえませんよ」
自分たちもラームがいれば強くなれると思っているのだろう。そんな単純な話でもないような気がする。
「フン……無関係か。そう思うのも無理はない。しかしすぐにわかる。ワタシたちとお前の繋がりが」
「………え?」
「ジャクリーン・ビューティよりも私たちといたほうが自然と言える程度には関係がある。だから私たちと来い!嫌だと言ったら多少強引にやらせてもらう!」
やはり争いは避けられないか。ラームを守るために前に出ようとすると、私たちと乱入集団の間に割って入る人がいた。
「あ……あなたは………」
「あんなやつら、俺が片づけてやる!30年以上闘技大会に出場しているこの俺、『ストイチ』が!」
大ベテランの格闘家、ストイチさんが颯爽と中心に立つ。全身を覆う黒いタイツ、化け物のように見える独特の化粧など、とにかく個性的だ。
「なんだ〜?この男は?」
「俺を知らないとは驚いた!数多の大物たちと戦ってきた俺をご存じないとは!ヴェッ!」
お父さんや王様はもちろん、ツミオさんやテンゲンさんとも一対一で戦った経験を持つことでストイチさんは有名だ。そのストイチさんを知らないのだから、彼女たちはかなり遠くから来たと考えていい。
「貧相な体格、魔法が得意そうにも見えないが……実は強いのか?」
「なるほど……見た目で人を判断することはできない。あなたを軽んじるのはやめよう」
演技をしているようには見えず、これで決まりだ。ジェイピー王国の国民や近隣の国の人間なら、こんな反応は絶対にしない。最低限のことしかこの国の情報は知らないとはっきりした。
(……それなのにラームのことを詳しくわかっているかのような口ぶり………ますます謎が深まっちゃったぞ)
「あがががっ!!ギブ!ギブアップ!」
「なんだこいつ……信じられないくらい弱いぞ」
七人組は驚いているけど、この結果はわかりきっていた。そう、ストイチさんはとても弱い。大物たちとの戦いは全戦全敗、闘技大会はなんと30回連続予選敗退。冒険者になる前の私でも勝てたと言い切れるほどの弱さだ。
「ヴェ〜〜〜ッ………」
それでも死なずに戦い続けていられるのだから、これも才能と呼べるのかもしれない。これからも無謀な勝負に挑み、そして惨敗という勲章を重ねるのだろう。
「もう邪魔者はいないか!?ならばラームは私たちが引き取らせてもらう!」
「引き取るだって?奪おうとしているくせに!」
私がそばにいる。サキーたちも周りにいる。この固い守りを崩されることはないはずだ。
「いいえ、確かに引き取るという表現が正しいです。あなたはラームをどれだけ理解しているのですか?」
「………?」
「どこから来たのか、何者なのか、どう成長するのか………全くわかっていないようですね。もしわかっていたのなら、あなただって喜んで私たちにラームを託したことでしょう」
ラーム自身がわからないと言っていたのだから、私にわかるはずがない。そんなことは些細な問題で、これからも家族として共に生きていこうと受け入れた。
いつかラームの秘密が明らかになっても私たちの関係は変わらないと思っていた。しかし今、大きく脅かされている。平和が壊れるのは一瞬だ。
「なぜならその人は………」
「俺たちと同じ!『オードリー族』だからだ!」
敬語を使い穏やかに話す人の言葉を遮り、彼女たちの中心にいる、恐らく七人組のリーダーがその事実を大声で叫んだ。身体や筋肉だけでなく声まで大きかった。ちなみにこの二人はどちらも髪の色が青く、後ろにいる少女を含めたら七人中三人が青髪だ。
「オ……オードリー族?」
「私は聞いたことがある。ほとんど人間だが、魔族の血も少し混ざっていて……特殊な力を持ち優れた戦士たちだったと」
どこかで聞いたような、歴史の本で見たような……。実在しているのか架空の存在なのかもはっきり覚えていなかった。
「オードリー……私が大聖女だった500年前……その名を聞かない日はありませんでした」
「エーベルさん!」
「この一族は非常に高い戦闘能力を誇っていました。人間と魔族のどちらにも属さず、戦争が起きた時は条件次第で誰の味方になるかを決めて……時に頼もしく、時に厄介な者たちでした」
その時代を実際に生きていたエーベルさんの証言なら信頼できる。ここでしっかり教えてもらおう。
「オードリー族の中でも特に優秀な者が使えた特殊能力、それは自分の身体の一部を自在に変えることでした。機能を強化させたり、形や硬度を変えたり……もちろん大きくなったり小さくなったりすることも」
「小さく……?ラームの能力だ!」
ラームが身体を小さくできる力はオードリー族に与えられたものだった。次から次へと驚愕の真実が明らかになっていき、ついていくのが大変だ。
「なるほど。それならどうしてそいつがオードリー族だとわからなかった?そいつが小さくなったところはあんたも見ていただろうに」
「彼らは一族の結束がとても強く、仲間の娘が孤児になった場合にここまで放置することはありえません。仕事以外ではオードリー族だけが暮らす『トマス島』からほとんど出ないと聞いていましたので、まさかここにいるとは………」
ラームの両親はおそらく死んでいて、私と出会った時には奴隷として売られる寸前だった。そんな状況になることも、それを見過ごすこともないのがオードリー族だという。
「転生した今回の人生では、彼らの活躍はおろか名前すら見聞きすることはなくなりました。完全に島に籠もるようになったのか、もしくは滅びてしまったのかと……」
500年も経てばビューティ家もジェイピー王国も消滅しているかもしれない。そうなれば私の名前なんかどこにも残っていないだろう。
「ぼくが……オードリー族!?人間じゃなかったのか………はっ!」
私たちがこれだけ驚いているのだから、ラーム自身の動揺は計り知れなかった。私たちは話を聞くのに夢中で、ラームはショックでふらふらと私のそばから離れてしまった。その隙を敵は逃さなかった。
「うわっ!は、離せ!」
「ハハハ……捕まえたぞ!大人しくワタシたちと来い!」
ラームが奪われた。私が油断していたせいだ。
高評価が欲しいだとか、いいねやブックマークが欲しいだとか、そういう一切の感情を超越した神の精神を持つのが完璧超人なのだ!
俺の好きな食い物は、ワニの蒲焼きだ




