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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第三章 スーパー闘技大会編
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決勝戦後のスペシャルマッチの巻

「ありがとうございます。お二人のおかげで再び戻ってくることができました」


 エーベルさんは無事に回復した。私たち二人で治したのは確かだけど、マキの力がほとんどで私はおまけだ。


「よかったよかった!これでマーキュリーも良心の咎めなくチーム・ジャッキーの仲間入り!これからはジャッキーと共に正統派の実力者として腕を磨いてくれ!」


 お父さんに促されて、改めて私とマーキュリーは握手、その後軽くハグをする。エーベルさんとトーゴーも私たちの輪に入り、これまでの遺恨や敵意は完全になくなった。



「さて……残るは表彰式か。ゲンキのやつはどこだ?」


 解説者席にいたはずの王様がいない。王様抜きで表彰式を始めることはできないから私たちはしばらく待っていると、顔面を包帯で覆われた謎の人間を連れてフィールドに戻ってきた。


「今までどちらへ?それにそのミイラ男は?」


「ミイラ男……か。不敬だが何を言われてもこの見た目では仕方ない。しかしそれも今終わる!」


 包帯が外される。その正体は、直視できないほど崩れた顔になったシューター王子だった。この人もマーキュリーにやられて重傷を負っていた。



「闇の力が消えたのならシューターも治るだろう!さあマキナ様、最高の治癒魔法を!」


「た……頼む。このままじゃファンの皆が悲しむ!ボクだけじゃない、世界の損失なんだ!」


 大会初日に王子が負傷すると、街中で元気のない女性たちが目立つようになった。世界に影響があるというのも自惚れではなさそうだ。


「どうする?お姉ちゃん」


「断る理由はないよ」


 マキは呆れ顔だった。王子がなぜ人気があるのか全くわかっていないからだ。それでも私に言われて王子の顔を治すことに決め、これで安心だと王様たちも笑顔を浮かべていた。



「あれ?治らない」


 ところがここで予想していなかった展開になった。さっきと違ってマキはふざけていないし、闇の気配はもうない。それなのに王子の顔はそのままだ。


「私もやってみるよ……」


 大した手助けにはならないと思いながらも加勢したけど、やっぱり状況を変えることはできず。これ以上やっても駄目だというところで打ち切った。



「どうしてこんなことが!おい、真面目にやったんだろうな!」


「国王、おそらくですがこれは……」


 私とマキに襲いかかりそうな王様を止めたのはエーベルさんだった。何が起きているのか説明してくれた。


「私の場合と違い、時間が経ちすぎています。私ですらぎりぎりだったのに、彼の傷は三日も前のもの……それに加え、聖女隊の質の悪い治癒魔法や医者の治療が逆効果です。どんな方法を使っても、もう元通りにはなりません」


「な………なんだと〜〜〜っ!?」


「ボクの顔が……一生このまま!?オ……オオオオッ!!」


 王様は困惑し、王子は発狂する。マーキュリーが申し訳なさそうにしていたから、私とサキーが近づき、それぞれ右肩と左肩に手を置いた。


「マーキュリーが落ち込むことはないよ。死んでも文句は言わないと誓って私たちは大会に参加したんだから、気にする必要はない……難しいかもしれないけどね」


「あいつはお前を恨むのではなく、感謝すべきだ。実力差は歴然、生きているだけで十分だろうに」


 差がありすぎたから助かったとも言える。命を落とす事故が多いのは、互いに死力を尽くした戦いだ。



「いつまでも女々しく泣くな、バカ親子が。醜くてもいいじゃないか、ずっと顔が隠れる兜を被っているか、覆面を着ければいいだろう!ハハハ!」


「き……きさま〜〜〜〜〜〜っ!!」


 お父さんが笑いながら煽ると、王様の怒りは頂点に達した。上着を脱ぎ捨て、お父さんの前に立つ。おでこや鼻がくっつきそうなほど距離が近かった。

 

「いいだろう!いつか決着をつけようと思っていたが……今がその時だ。徹底的にやってやるぞ」


「望むところだ。王としても父としてもお前は二流、唯一誇れる戦いの腕すらすっかり衰えてしまったことを明らかにしてやろう」


 お父さん対王様のスペシャルマッチが決定した。大舞台での対決が実現しなかった二人がぶつかる。



「おいおい、今さらあの二人が対戦か?若い選手たちの活躍に刺激されたのかもしれないが……」


「熱い戦いの余韻に浸っていたのに……どうなるんだ?」


 会場の反応はいまいちだった。私たちリングにいる人間もそれは同じで………。


「結局自分が目立ちたいだけなんだよ、国王は。息子すらそのための道具にするんだから救えないな」


「ジャッキー様が主役のまま終わるのが許せないんでしょうね。あっ…見てください、妹様の顔を!今にもゲンキ王を殺しそうな目をしています!」


 どうにかマキをなだめて私たちはリングを下りた。急遽始まった『夢の一戦』は、私の嫌な予感を遥かに超えることになった。



『おお!ゲンキ・アントニオの固め技が炸裂!まるでタコのように絡みつき、バーバ・ビューティにダメージを与えていく!』


「ギブアップか!?」


「まだまだ……てやっ!」


『脱出した!そして脳天目がけて手刀!懐かしの技と攻防が今ここに蘇っています!感動の一戦です!』


 お父さんたちの戦いは大観衆を熱く熱く燃え上がらせた。ただし興奮や感動ではなく、怒りで。



「つまんねーぞコラ!ジジイ二人が眠くなる試合してんじゃねーよ!」


「大会の締めがこれかよ!どうして最後が一番糞なんだよ!頭おかしいだろ!」


 容赦のない罵声とブーイングが飛ぶ。二人ともスーパー闘技大会の歴代優勝者とはいえ、真剣勝負の舞台から退いてかなり経つ。現役の選手に比べたらスピードは鈍く、技のキレはいまいち、体力もないから休みながらの攻防になってテンポが悪い。


 場外でケンカするぶんには盛り上がっていた。しかしリングでの戦い、しかも締めの試合でやるほどのレベルには全く達していなかった。



『バーバのキックが炸裂!決まってしまうのか!?』


「決まるわけねーだろ!こんな地味な技ばかりで、試合が終わる要素なんかどこにあるんだ!?」


「むしろさっさと終わってくれたほうがいいな。あの二人はひと昔前の連中、派手で面白い展開にはならないよ」


 お父さんたちが全盛期の時より今のほうが戦いの質が上がっている。人間は進歩する生き物だから、これは仕方のないことだった。しかし観客は納得せず、とうとう暴挙に出た。



「さっさと消えろ!老害どもが!」


「隠居しろ!いや、早く死ねっ!」


 リングに物を投げ始めた。暴れる客も出始め、収拾不能状態に陥った。


「うわっ!やめろ!試合にならないだろ!」


「げっ!!ナイフが降ってきた!異臭がする箱まで!に、逃げるぞっ!」


 この大混乱のせいで表彰式は中止となり、今回のスーパー闘技大会は最悪の形で終了した。

 今回の話の元ネタはもちろん、真弓対委員長のスペシャルイベントです。


客「おいぼれの試合をみにきたんじゃねぇぞォ!!」

タツミ「ドラゴン・ロケットみせろーっ!!」


「八百長!なれあい!」


タザハマ「わたしたちの時代はお…おわった…」

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