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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第三章 スーパー闘技大会編
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スーパー闘技大会決着の巻

「さすがジャッキー様!あの大技を破った!」


「もうだめかと思いましたが……よかった………!」


 頭部破壊を直前で回避できた。ただしほんとうにぎりぎり、寸前で逃げたから無傷とはいかなかった。


『額が切れて出血している……少し触れてしまったのか?』


 ただのかすり傷だ。とはいえマーキュリーの闇の力による攻撃のダメージだから、この傷はもう治らない。



「死なないどころかその程度の傷………!フン!」


 私の生還に驚きながらもマーキュリーは動きを止めない。闇のオーラを纏った右手でパンチを放ってきた。


「おおっ!」


 切れ味が鋭すぎて、避けたと思ったのに鼻の上と左目の下から血が垂れてきた。直撃したら終わっていた。



「ジャッキーさんの顔に傷がいくつも!」


「くっ!マーキュリーめ………殺してやりたい!」


 一生残る傷が顔の目立つ場所についたことにチーム・ジャッキーは激怒していた。厳重な乱入対策がされていなければみんなでリングに上がって、マーキュリーを集団で襲っていただろう。


「みんな、落ち着いて!私は生きているんだから!」


「ジャッキー!しかし………」


「まさかみんな、この傷のせいで私から離れる気?もう私を愛せなくなっちゃう?そんなことないでしょ。それなら全然問題はないよね」


 揃って着席してくれた。死ぬ可能性もあるとわかって大会に出ているのだから、傷なんか大した問題にならない。



(お姉ちゃんの試合を邪魔するわけにはいかないな。それに……あいつを殺すのは少し後でも構わないはず。あいつが死ねばきっとお姉ちゃんの傷も治癒魔法が効くものに戻る)


 マキが危ないことを考えていた。もちろん私は心なんか読めないから、それに気がつくわけもない。私だけでなくマーキュリーにも死の危機が迫っていた。




(ジャクリーン・ビューティの愛の力は……本物だった!とうとう見つけた!私に愛を教えてくれる人間を!)


 必殺技が不発に終わってもマーキュリーの顔は希望に満ちていた。攻撃の手を止め、私をじっと見つめる。


(いや、それ以上の存在だ!私はこの人を愛し、愛されるために生まれてきた!)


 どこまでも濃く、深いように見えた闇がだんだん薄くて浅いものに変化していった。大きさも一気に小さくなり、消滅寸前だ。



「ジャッキー!チャンスだ!」


「今しかない!決めろ!」


 今のマーキュリーは隙だらけで、大技を出すにはこれ以上ない時が来た。大会に出場すると決まってから特訓を重ね、最高の場面で使うと決めていた技を。


「た――――――っ!!」


『ジャクリーン、激しい体当たりでマーキュリーを倒す!そして足を掴む!試合の中盤で食らったジャイアントスイングをやり返す構えか!』


 マーキュリーを何回か振り回してから投げる気でいるのはその通りだ。ただし鉄柱やリング外の地面に投げるつもりはない。しかもこれは技の始まり、起点に過ぎない。



「てや―――――――――っ!!」


「……………!!」


『なんと!上空に投げた――――――っ!!』


 空高く放り投げた。そして私も足に強化魔法をかけて飛び、マーキュリーを追う。


「よしっ!追い越した!」


 私のほうが速く、マーキュリーの上昇が止まる前に上になった。そこで私はマーキュリーの背後に回り、羽交い締めで動けないようにした。



『落下が始まった!この高さからマーキュリーをマットに叩きつければ決着は確実!』


「ぬ、抜け出せない……」


 マーキュリーはこの時、敗北どころか死も覚悟していたと後に語っている。それでも恐怖はあまり感じなかったそうだ。これまで何人も殺してきた自分にその順番が来ただけ、当然の報いだと思ったからだ。


(思い残すことがあるとすれば、最後まで孤独のまま去っていく……それだけ。宵闇の中一人で………)


 

「………え?」


『ジャクリーンが体勢を変えた!抱きしめるような状態に移行している!』


 これがこの技の最終形だ。後ろから相手の胸のあたりに腕を回す。自分の腕から地面に落ちるぶん、元々の形より威力は下がる。


「な、なぜ………」


「私がこうしたかった、それだけだよ」



 最初は羽交い締めのまま相手をリングに落とす技だった。しかしそれでは破壊力がありすぎて練習相手が危ない。即死では治癒魔法も役に立たない、そんな意見が出るほど危険な技だった。


 抱きしめる形にすれば、自分で威力をある程度コントロールできる。練習を続けているうちに技の精度やキレが増していき、これを改良版として極めることにした。練習はもちろん、本番でもやっぱり相手を必要以上に傷つけたくない。甘いと言われるかもしれないけど、この判断は正解だったと信じている。



(……光が見える………確かな希望が!ジャクリーン!)


 落ちていく間、マーキュリーは幻を見ていたそうだ。光も灯りもない暗い部屋にいると、扉を開く者が現れた。それは私で、手を差し伸べてきた。


(この私に……手を!共に手を取り合おうと………)


『いっしょに……このまま行こう!』


 幻の私はそう言ったという。マーキュリーの話がほんとうなら、よくできた幻だ。きっと本物の私も同じようにして、同じことを言ったはずだから。



「あなたの愛……確かに教えてもらった。ありがとう」


「うおおおおお―――――――――っ!!」


 表情も声も穏やかなマーキュリー。ついにその瞬間を迎えた。




『決まった―――――――――っ!!』


「うっ!あがが………」


 情けない呻き声は私のものだ。言うまでもなく練習と本番は違う。着地する時に叩きつけられる両腕はもちろんのこと、全身が想像以上に痛い。大技は決めた側にも何らかの代償が求められるから、使うタイミングを慎重に選ぶようにと警告されていた。


(この手応えなら………)


 私にこれだけダメージが返ってきているのなら、技は成功した。あとはマーキュリーが………。



「……………」


 満ち足りた表情で倒れている。誰が見ても3カウントの必要はなかった。



『あ――――――っ!!ジャクリーン・ビューティが勝った!初公開の超必殺技で死闘に終止符!スーパー闘技大会、優勝はジャクリーン・ビューティ!大聖女の姉が最強の座に輝きましたっ!!』

 I Was Born To Love You


 

 久々の日本、出会ったのは素晴らしい作品。ブックマーク&高評価を。

 

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