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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第三章 スーパー闘技大会編
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マーキュリーの確殺技の巻

 今の私の力と気持ちを全て乗せた攻撃。倒れるマーキュリーに炸裂した感覚は……なかった。


「うっ………!」


「……………」



 マーキュリーが両腕で私を止めた。そしてそのまま起き上がり、見上げてきた。


『なんと失敗――――――っ!マーキュリーはパワーでも最強!腕だけでジャクリーンを止めてしまった!』


「………フン!」


 私をマットに叩きつける。今度は私が寝る側になった。



「まだ腕が熱い………しかしこの結果が全て」


(まずい!これはとてもまずい!)


「あなたはここが限界だった。私の希望、愛という名の欲望が満たされることはなかった!」


 マーキュリーの全身を覆っていた黒いオーラが足だけに集中した。倒れる私を踏みつけるために。



「ハッ!ハッ!ハァッ!」


「ひっ!ひっ!ひゃっ!」


『転がって逃げる!情けない姿だが驚異の粘り!ジャクリーンの闘志はまだ死んでいない!』


 私が横になっているうちは、相手の攻撃も足によるものが中心になる。これならまだ凌げる。


「諦めが悪い……しかしそれでいい。心が折れてギブアップではこれまでの偽物たちと同じ………」


 こんな攻撃がマーキュリーの本気とは思っていない。私の体力を削るか、大技のための準備でしかない。



「ただし……あなたへの興味はすでにほとんど失せている。これ以上長引かせても無駄なだけ」


 マーキュリーの足の闇が消えた。これは私を立たせるための罠かもしれないから、そのまま動かずに様子を見ることにした。


「確実にあなたを葬る。敬意を込めて全力で………」



 漆黒の闇が形を変え、マーキュリーの背中から腕のようなものが現れた。とても大きく、これまでよりもずっと深い闇が。


『な、なんだこれは!?まだ奥の手を残していたのか、マーキュリー!これが真の必殺技か!?』


「ああっ………ぐっ!」


 その腕が私に向かって伸びてきた。逃げる間もなく巨大な手に捕まり、身動きが取れなくなった。



「あなたのような素晴らしい人間を殺さなくてはならないのは残念………永遠の別れの時が来た」


「ぐぐっ!ぬ、抜け出せない!」



 私を掴んだ大きな腕の長さは私たちの身長の数倍もある。空高くまで私を連れて行くと、突然急降下を始めた。


「ああ――――――っ!!」


「ジャクリーン様――――――っ!!」


 その先には鉄柱があった。これだけの高さ、この勢いで頭から落とされたらまず助からない。しかも闇の力による攻撃だから、回復や妨害の魔法も通用しない。



『なすすべなし――――――っ!!万事休すっ!』


(これが………死!)


 今日までの思い出、みんなへの別れの言葉、やり残したこと……それらを思い浮かべる時間すらない。あと数秒で私は……………。




『諦めてはなりません。あなたを愛し、祈る者たちのために………』


「………え?」


『そしてこれからあなたと愛し合う可能性がある者、彼女のためにも!』



 大聖女の戦闘服が私に話しかけてきた。しかしその都度声が違う。別人のようだ。


「もしかして………」


『あなたも薄々察しているように、我々は歴代の大聖女!この聖なる戦闘服は大事な戦いの時だけ着ることが許される……我々皆で現大聖女を支え、世界の明暗を分ける戦いを制してもらう!』


「………そ、それは助かります」


 実は全く察していなかった。戦闘服そのものが生き物、もしくは戦闘服に精霊が宿っているのだと……私の読みは大外れだった。



『ジャクリーン・ビューティ……あなたの高潔な精神、私たちはとても感動しています。私たちのように神聖なる戦闘服を着て戦う資格のある者です!』


「いやいや、私なんか………」


『謙遜する必要はない!あなたこそ大聖女として世界中に救いと希望を与えるにふさわしい!』


 称賛の言葉が続く。私が最高の力を発揮できるように助けるのが仕事だから、いい気分にさせてピンチを脱出してもらうというわけか。


『それに比べてあなたの妹マキナ・ビューティ……彼女はよくない。戦闘力や魔力は私たちを遥かに凌ぐほどだが、その内面は狂気と暴虐に満ちている』


「………」


『私たちならあの大堕落者からその地位を剥奪し、代わりにあなたを高めることができます。そのほうが世のため人のため………』


 私を持ち上げるためにマキを下げたのは逆効果だった。マキのことを悪く言うのなら、歴代の大聖女たちだとしてもこれ以上手は組めない。



「せっかくですがお断りです。大聖女はマキ、私はおまけ……何を言われてもそれは変わりません」


『………』 『………』


「皆さんの力なんかなくても……抜け出してみせる!」


 


 意識が戻った。私が救いの手を払いのけたせいか、助かる方法は一切考えつかない。


(最低の鎧だ!もういらない!)


 早く脱ぎたいと思った。すると漆黒の手に掴まれて全く身動きが取れないはずなのに、身体を動かす僅かな隙間ができていた。


「よし、今だ!こんなゴミ、捨ててやる!」


 素早く脱いで、そのまま投げ捨てた。観客たちの中には、闇の力のせいで鎧が破壊されたと勘違いする人もいたようだけど、私が自分で手放した。



『ジャクリーンの聖なる鎧が!しかも鉄柱に激突寸前!絶体絶命だ!』


「あれ………!?」


 何もできず脳天を砕かれて死ぬのを待つしか……否、何かはできる状態になっていた。


(身体が軽くなったからだ!)


 薄着になったことで動けるスペースがさらに広くなった。脱出まではできなくても、少しだけ体勢をずらせる。



(……あっ!ま、まさか………)


 聖なる戦闘服は直接奇跡の力で大聖女を救うことはしない。しかし持っている力を最大限に使えるように助ける。私に身軽になるという行動を選ばせるためにわざと怒らせた………?


(もしそうだとしたら……ありがとうございます!)


 さっきも予想を大きく外した私だから、真相は全く違うかもしれない。それでも心の中で歴代の大聖女たちにお礼を言っておいた。




「ああっ!!」 「ジャッキー!!」


『激突―――――――――っ!!』


 大闘技場のほぼ全員が目を背けたという。私の命が奪われた、その瞬間を直視できなかったそうだ。



「終わった……何もかも」


 腕の形をした闇が大きすぎて、しっかり見ていても私がどうなったか確認できない。技をかけたマーキュリーも同じだった。


「この確殺技を生き延びた者はいない。勝負は……え?」


 審判に自分の勝利を告げるように歩み寄る。ところがここで突然大歓声が起こり、審判が後ろを指差したことでマーキュリーも気がついた。



「………っ!!」


「生き延びた者なら……ここに一人いるっ!」


 寸前で逃れた私が立っている。それを見たマーキュリーは当然驚きを隠せずにいた。しかし『これを待ち望んでいた』と喜んでいるようでもあった。

 愛という名の欲望……Crazy Little Thing Called Love


 マーキュリーの確殺技……Ωアポカリプスクラッシュとゼブラブラッディドライバーを足したような危険な技。巨大な手で相手を掴み、鉄柱に頭から叩きつける。

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