チーム結成の巻
「ジャッキー……いくら人が足りないこのギルドだからってダメ冒険者を置いておく余裕はないんだ」
「………はい」
「お前の親父はいい友人だがこれ以上失態を見逃す理由にはならない。次が勝負だぞ」
弱い一角獣の角を集める仕事、ダンジョンの入口部分だけを探索し地図を作る仕事……どれもあと一歩でうまくいかず失敗している。とうとう追放が目前に迫ってきた。
「ただし特別サービスだ。俺はお前らなんかこのままクビでもいいかと思っていたが、それでは気の毒だと手を差し伸べてくれた人がいる。今日はその人に同行して、手伝いながらいろいろ教わってこい」
私たちを気遣ってくれているのはテンゲンさんとハラさんのコンビだ。助けてくれるのはこの二人だと思って待っていると、意外な人物がやってきた。
「………お前たちとチームを組むのはこの私だ」
「え?サキー?」
再会の日から今日までほとんど会話もなく、私なんか見ていないはずのサキーだ。崖っぷちの私たちを助けたい、そんな純粋な気持ちだけではないだろう。
「私はいつも単独で行動しているが、今日の依頼は人手が必要。お前たちの手を借りたい」
「S級の仕事に私たちがいっしょに行ってもいいの?」
「問題ない。お前たちに任せるのは回収した依頼品を運ぶ役と見張り……こんなもの誰でもできる」
なるほど、雑用係か。それなら私たちが適任だ。
「戦闘になってもお前たちは参加しなくていい。足手まといに邪魔されるのが一番怖いからな」
「こいつ〜〜〜っ!」 「ふざけたことを……!」
ラームとマユはサキーを嫌っている。衝突を避けるためには距離を置くべきだけど、今回の仕事に限っては拒否できない。ギルドに残るためにはサキーに協力してこの仕事を成功させる必要がある。
「なかなかの自信ですね、剣聖に選ばれなかったサキーさん。で、依頼の内容は?」
「………ジャクリーン、誰にも相手にされないから自分の言いなりになる子ども二人を侍らせるのはわからなくもない。屈辱や不満、怒りをそいつらで発散しているようだな。しかし最低限の教育くらいしておけ」
案の定こうなった。ますます二人も怒るぞと思っていたら、話は変な方向に進んでいった。
「確かにぼくはジャッキー様の言いなりになるつもりで隣にいますけどね。まだその機会はありませんが、いずれそうなるときが来るでしょう」
「あっ!?」 「………え?」
「私も同じ思いです。ジャッキーさんが望むならどんなことでも………喜んで何でも捧げます」
ラームは右腕、マユは左腕に全身でぎゅっと抱きついてきた。私よりもサキーに対して効果があった。
「な…ななな!おい!駄目だ、駄目っ!私の言った発散は暴言とか暴力とか……いや、それも悪いことだが!淫乱なのは絶対に駄目だっ!」
いきなり顔を真っ赤にして大声を出した。私はどんな形であっても二人を使って『発散』するつもりはない。
「あれ?ぼくたちは別に何をするとは言ってないのに……なぜ叫んでいるのですか、サキーさん?」
「淫乱がどうとか……駄目なのはあなたの頭では?」
「………お、お前ら〜〜〜っ!誤解させるような振る舞いをするな!だから教育が足りないと言ったんだ!」
これはラームとマユによる仕返しだった。サキーを自爆させて恥をかかせるのが狙いだったわけだ。
「そうだよね。いくら私の従者だからってそういう対象にはならないよ。サキーにしては珍しく早とちり……」
「…………」 「…………」
(……………えっ)
私に身体を預ける二人の視線はとても熱かった。まさか冗談じゃなくて本気………考えるのはやめよう。
「くだらない話は置いといて、肝心の依頼の内容を教えてもらおうかな」
「ああ……魔鳥の卵を持ってくる仕事だ。頭が悪く人を襲うこともあるこいつが駆除されないのは、この卵が貴族たちの間で美容に効果があると言われているからだ」
魔鳥の卵を使った化粧品、もしくはそのまま食べるのか。ビューティ家では馴染みがない。
「お前たちは親鳥が戻ってこないかを見張り、その後はギルドまで卵を運んでくれたらいい。だから戦闘は私一人でやる」
その魔鳥も道中にいる魔物もサキーだけで倒せる強さのようだ。それでも見張りが必要なのは親と出会うと面倒だからで、戦えば勝てるけど倒してしまうとこの先卵が手に入らないという事情がある。親がずっと巣から離れないときは日を改めて挑戦となる。
「お前らのせいで居づらくなった。出発しよう!」
「自分で勝手に騒いだくせに……こいつがジャッキー様より強いなんて信じられないよ、ぼくは」
役割分担がはっきりしているから即席チームでも困らない。ただし想定外のトラブルが起きると脆い。すんなり終わることを願ってギルドを出た。
「サキーが助けてくれるなんてびっくりしたけど嬉しかったよ。昔はライバルだったとはいえ今は大差がついちゃって、もう私への興味なんか全くないと思っていたよ」
「………どうして私がお前を助けたか、知りたいか?」
「う〜ん、教えてくれるなら聞こうかな」
好きでもなければ嫌いでもない、どうでもいい存在。サキーにとって私はそんなものだという考えは間違っていた。サキーの口から真実が語られる。
「答えは簡単!ジャクリーン、お前をこうして部下のように扱うことで優越感に浸れるからだ!かつて実力も立場も互角だったお前が私に頭を下げ命令を聞く……最高の喜びだ!」
「…………」
「私の生き方とお前の生き方のどちらが正しかったか、それを明らかにする!そして私を捨てた連中を後悔させ、今さら媚を売ろうがもう遅いと今度は私が見捨ててやる!」
球遊びは上手いのに野球が下手な横浜DeNAベイスターズ