愛をぶつける戦いの巻
「危ないところで鎧が光った……これのおかげで助かったのは事実だよ。でも奇跡の力と言われたら……」
「いや、それ以外にない。あなたの本来の実力ではあの技からの生還は不可能!」
そう考えるのも無理はない。私自身、奇跡でも起きない限りどうしようもないと思った。
「この鎧が与えてくれたのは力じゃない。心だったんだ」
「心?」
「絶対に諦めたらいけない、頑張って踏みとどまれ……そんな励ましが私の心を強くした。まだ終われない、その気持ちが腕を伸ばす力になった」
直接的な手助けではなかった。私が持っている力を最大限に発揮できるように促してくれた、そう表現するのが正しいような気がする。
「………なるほど………」
マーキュリーもわかってくれたようで、納得した様子だ。鎧の秘密を解き明かすことが試合の目的ではないから、これ以上話を広げる気はなさそうだった。
一方でチーム・ジャッキーのみんなは、はっきりした答えを求めていた。大聖女の戦闘服が期待したほどのものではなかった場合、私の命が危ないからだ。
「ジャッキーはここで嘘をつくようなやつじゃない。そんなことをする意味もないしな」
「そうなると……ジャッキーさんを強化してくれるのではなく、潜在能力を引き出してくれる鎧ですね、あれは」
同じような話に聞こえても、実はかなり違う。よそからの貰い物なのか、自分の持ち物なのかは。
「ではわたくしたちの愛で強くなるというのも、ジャクリーン様の奥深くに眠る力を刺激していると考えるべきなのでしょうか?」
「強くなっていることに変わりはないが……」
私がどこまでパワーアップするのか楽しみにしていたみんなにとっては少しがっかりだったようだ。限界が見えてしまっている。
「違うな………」
「何が違うんだ……あっ!?トーゴー!」
気がついたらすぐ隣の席にいたトーゴー。もちろんもう互いに敵対する気はない。
「あの鎧とジャクリーン本人の能力は別だってことだ。自分の力を出し切れるようにするのが鎧、人々の愛で強くなるのが大聖女、つまりあいつだ。さっきは鎧を着ていない時にエーベルの愛を受け取ったが、確かに力に満たされていた」
「………!」 「そういうことか!」
みんなはその説明を受け入れていた。装備のおかげで勝ってもどこかすっきりしないのは私と同じだった。やっぱりある程度は自力で頑張らないと。
「お姉ちゃんの中に残るたった2パーセントの大聖女の力……それでもわたしがもらった98よりずっと価値があって尊い」
貴重な戦闘服を強奪……いや、持ち出して私に渡してくれたマキだ。自分が活躍するより私のいいところが見たいと思っている。私が大聖女として称えられても嫉妬のような悪感情は一切なく、むしろとても喜んでいた。
「真の大聖女だからじゃない。お姉ちゃんだから強く、清く、正しい。優勝は当然で、その賞金でわたしとお姉ちゃんの新しい家を建てて、わたしが産んだ赤ちゃんを育てる……楽しみだなぁ〜〜〜〜〜〜っ!」
「………」 「ほう………」 「ハハッ」
みんなの顔色が変わった。マキが相手でもこの計画を全力で阻止するだろう。しかし実は私が優勝してもマキの夢は今のところ成就しない。お父さんとお母さんの失敗の埋め合わせでそのお金はほとんど消えるからだ。それを知っているのは私しかいない。
「どんな秘密があるにせよ、あなたが愛を糧にして強くなっていることは事実。いよいよ私も本気を出して戦う時が来た」
マーキュリーが私との距離を詰める。両腕が氷の刃に変わった。
(……やっぱり……マーキュリーは………)
いつでも攻撃するチャンスはあったはずだ。私の回復を待ってくれたのだとしたら、マーキュリーは私の思った通り………。
「本気……いいね。それでこそ私も全力でいけるよ」
「………あなたが全力?どうやって?」
マーキュリーが首を傾げながら聞いてくる。隠すことでもない。教えてあげよう。
「愛の力で真っ向から勝つ。みんなから受けるだけじゃない。私も愛を示すことで」
「……………」
「そう、マーキュリー。君に愛をぶつけたい。私よりも優しくて、愛を受けるべき君に!」
「………!」
大聖女の戦闘服が光った時に思い浮かんだのは、応援してくれる仲間や大観衆ではなくマーキュリーの顔だった。マーキュリーは愛を知りたい、愛せる人を見つけたいと願ってこの試合に臨んでいるのに、それが果たされないまま終わるわけにはいかない。
マーキュリーが優勝したら世界が闇に閉ざされると多くの人が言う。でも私は世界よりもマーキュリーの未来が心配だ。ますます孤独なまま生きていくことになってしまう。そうならないために私は戦い、勝ってみせる。
「……わかった。あなたの言葉が真実のものなのか、教えてもらうっ!」
『マーキュリーがいった!その狙いは……ジャクリーンの眉間のあたり!突き刺されば即死もありえるぞ!』
中途半端に避けたら目か鼻が破壊されて、もっと悲惨な目に遭う。だからここは、あえて逃げない。
「………!」
受ける覚悟を決めた私に対し、マーキュリーのほうが驚いていた。正面からぶつかると言われてはいても、まさかほんとうにそうしてくるとは思わなかっただろう。
「くっ……裂けろ!」
「うお―――――――――っ!!」
マーキュリーの氷のパンチに対し、頭でぶつかっていった。どちらかが割れて大ダメージを受けるのは避けられない。
「うわっ!!」 「ひっ!」
激突の瞬間、ものすごい音がした。一番そばでそれを聞いた私は、頭部だけでなく全身の骨がびりびりと震え、痺れた。
『捨て身の頭突き!はたして勝者は………』
少しすると、私の頭から血が流れた。鼻や口を伝い、地面に落ちていく。
「………」
「あなたの愛もそこが限界、私に達するほどでは……」
しかし触って確認してみると、頭は割れていなかった。鋭く尖った氷の先端で切ってしまっただけだった。
「……………!!」
マーキュリーの右腕の氷が粉々に砕け、飛び散った。腕は残っていても血だらけでボロボロ、私の頭よりずっと重傷だ。
「な………に………」
『ぶつかり合いはジャクリーンが制したっ!受け止めただけでなく破壊してみせた――――――っ!』
まだ使っていない左腕の氷も溶け始めている。でもマーキュリーの真の恐ろしさはここからだ。
昨日がコラコラ問答記念日だったのを忘れていました。台本があったのなら作った人間は天才ですし、なかったのなら主役の二人は天才です。
「何がやりたいんだコラ紙面を飾ってコラ!」




