一進一退の戦いの巻
『ジャクリーン・ビューティの投げ技が決まった!マーキュリーはリングに背中を強打!瞬殺決着かと思いきや、今日のジャクリーンは違うぞ!』
私の力を調べるつもりで甘い攻撃から入ったマーキュリーは手痛い反撃を受けた。なかなか起き上がってこない。
「いいぞジャッキー!逆に瞬殺してしまえ!」
「素敵です!ジャクリーン様!」
みんなの声に手を振って応えたいところだけど、そんな時間はない。倒れるマーキュリーに追撃だ。
「せいっ!」
「ング……!」
『その場で飛んで足を落とした!ギロチンのような勢いと形でマーキュリーの首を攻撃!』
休む間を与えずに一気に終わらせる。ずっと攻撃していれば負けることはない。
「このまま腕を……あっ!」
『関節技に入ろうとしたジャクリーンでしたが、その腕が闇を放つと同時に離れました!』
深追いしていたら危なかった。マーキュリーの闇の力は攻防一体で、私の接近を許さない。再び二人とも立ち上がり、試合開始直後と同じ状態になった。
「………想像以上。素晴らしい、これなら手を抜かずに全力で殺しにいける」
「嬉しいような嬉しくないような………」
互いに動きが止まった。無理して攻めなくても勝てるマーキュリーと、焦ると元々僅かしかない勝ち目がますますなくなる私。前に出ない理由は全く違った。
「ジャッキー!今は我慢の時間だぞ!」
「じっくりいきましょう!そのうち隙ができます!」
私の応援団も攻めろとは言わない。これを聞いたマーキュリーは、このまま私が動かないものだと思っただろう。
「………っ!?」
マーキュリーは驚いていた。しばらく何もしてこないはずの相手があっという間に目の前にいたからだ。
「ふんっ!」
「がっ………!」
強烈なタックルを決めた。正面からきれいにぶつかって押し倒せたのは、マーキュリーが両腕を下げていたおかげだ。
『マーキュリーがダウン!ほんの一瞬の隙をジャクリーンが見逃さず、頭から突進!みぞおちに激しい攻撃を受けたマーキュリー、苦悶の表情!』
「ぐうぅぅ………」
事前に打ち合わせをしていたということはないけど、実はこの展開を狙っていた。互いに動かない、もしくは動けない時に、私の仲間の言葉でマーキュリーが油断したところを攻撃する。
作戦は見事うまくいって、みんなに助けられる形になった。これで私が優位に立った。
「おいおい……無敵のマーキュリーを圧倒してるぜ、あのジャクリーン・ビューティが………」
「いよいよ本物か?まぐれや強運でここまで戦えるはずがない!」
圧倒的優勢と予想されていたマーキュリーが、ここまでいいところなしの苦戦。大闘技場は大いに沸いた。
「ジャッキー!ジャッキー!」
「ジャッキー!ジャッキー!」
昨日に続き私への歓声が飛ぶ。観客はほぼ全員私を応援していた。
「おいマーキュリー!そんなザコ相手に何やってんだ!お前に大金貨何枚突っ込んだと思ってやがる!」
マーキュリーの勝利を願うのは優勝者予想のくじで彼女に大きく賭けた人間だけ。マーキュリーに勝ってほしいのではなく、自分が儲けたいから必死に叫んでいる。
「……………」
そのことをマーキュリーはどう感じているのか、表情からは読み取れない。慣れているから気にしていない、そんな風にも見えた。
「かわいそうな気もするけど……てやっ!」
『ダメージの大きいマーキュリー、回復したいところだがジャクリーンはそれを許さない!』
右腕に強化魔法を使った。これでパンチを命中させれば直前のタックルよりも効くはずで、決着の一撃になる可能性も高い。
「うお――――――っ!!」
マーキュリーは起き上がろうとしている途中で、無防備だった。どこに当たっても今度は立ち上がれない。外さなければ私の勝ちだ!
「……………あれ?」
「………」
私の拳は止まってしまった。両手で受け止められてしまい、与えたダメージはほぼゼロだ。
「……あなたは人に愛される資質があり、それを力に変えることもできる。これまで戦ってきた者たちにそんな人間はいなかった」
「ど、どうかな………」
「その力がどれほどのものか、味わうことができた。少し驚かされた」
とんでもない握力だ。完全に固定されて腕を動かせず、このままだと握り潰されてしまいそうだ。闇や氷の能力を使わなくてもマーキュリーは強かった。
「しかしその程度では私の勝利は揺らがない。つまり、私に愛を教えてくれることもない………」
解放された瞬間、今度は倒されて両足を掴まれた。そのままぐるぐると回し始めた。ジャイアントスイングだ。
「うわ――――――っ!」
『これは凄すぎる!まるで竜巻のような回転!』
頭と目がおかしくなっていく。この技はやる側も平衡感覚を失うはずなのに、マーキュリーの動きは速いままだ。何十回転させられたのか、もう数えられない。
「ノ〜〜〜………」
「こんな楽しい時間はない!私を止めるな!」
そろそろ止めてくれないと吐きそうだ。テンションがどんどん上がっていくマーキュリーと下がっていく一方の私。あっさりと形勢は逆転した。
『いつまで続くのか………おおっ!?ついに投げた!』
「………!!」
ようやく放してくれたと安心している余裕はない。投げられた先は柱だった。
『頭から激突か――――――っ!?』
ずっと回されていたせいで何も抵抗できず、このまま頭を砕かれて負け……諦めかけたその時だった。
「えっ!?うおおっ!!」
大聖女の戦闘服が光った。奇跡の力で絶体絶命の危機から助けてくれるのかと期待したら、予想とは違う形で私を生還させた。
『腕を伸ばした!指一本動かせないはずのジャクリーン、あの勢いで飛ばされたのに柱とロープを掴んで生き延びたっ!』
傷はなくてもしばらくはふらふらで、回復するまで時間を稼ぐ必要がある。リングの中央に戻らず、端のほうで粘ろう。
「………その鎧があなたを守った………人だけでなく物にまで愛されるとは………」
マーキュリーは追撃してこなかった。それなら私もゆっくり回復できる。ちょうどいい機会だから、何が起こったのか説明しよう。
私を止めるな……Don't Stop Me Now
オーカーン様の髭と弁髪が守られてよかった余




