先代大聖女の愛の巻
『スーパー闘技大会もいよいよ今日が最終日!全席完売、第1試合から熱い試合が繰り広げられています!』
私とマーキュリーの決勝戦は当然最後のメインだ。だから出番はずっと先で、部屋にこもっているよりはと外に出ていた。
「いよいよこの日が……ジャッキー様が頂点に立ち、皆がその実力を認める時が来ました」
「………」
私の優勝、もしくは死が迫っていた。マーキュリーは殺し合いをすると宣言していて、負けたら確実に命を落とす戦いだ。
「試合が始まってしまえばわたくしたちにできることは無事を祈るだけ。ジャクリーン様の勝利を信じてはいますが………」
「いいか、無理はするな。まずいと思ったらすぐに降参しろ。変な意地を張ると死んでしまう」
昨日の試合でエーベルさんが審判を気絶させ、その隙にトーゴーをリングに入れたせいで荒れた展開になった。同じ失敗を繰り返さないために乱入者対策が厳重になり、私が危うくなってもマキやサキーが飛び込むことは難しい。
「まったくエーベルめ……先代大聖女のくせに余計なことをしてくれた。やつが数百年前にその鎧を着ていたと思うとありがたみも薄れてくるな」
どこかから力をもらってこなければ絶対に勝てない戦いだったとはいえ、その相手がトーゴーなのがまずかった。重傷を負ったのに同情の声は全く聞こえない。
『キョーエンが竹の串を取り出した!そして相手の脳天に次から次へと突き刺す!』
『これは驚いた!頭から竹串の花が咲いている!』
熱戦が続き、早くも昨日までの盛り上がりを上回っている。決勝戦の歓声はすごいことになりそうだ。
「部屋に戻る時間はいつだ?決められた時間までにはいないと失格になるんだろ?」
「まだ余裕はあるけどそろそろ行こうかな。あまりぎりぎりになってもね」
私が戦ったガーバアとキョーエンは素晴らしい戦いを見せていた。どうしてこんな強豪たちに勝てたのか、考えれば考えるほどわからなくなる。
エーベルさんが戦える状態にないことで、3位決定戦はサキーの不戦勝となった。決勝トーナメント進出者や最終予選敗退者が中心となって試合が組まれているなかで、サキー、フランシーヌ、マキシーは出場を辞退して私のサポートに回った。
「なかなかの報酬だったのに……よかったの?」
「当たり前だ。大一番を控えたお前のそばにいることは何よりも優先される。仮に3位決定戦があったとしても棄権していただろう」
サキーの答えは早かった。残りの二人も、
「一昨日話したように、私はもう引退しました。これからはあなたと常に共に!」
「私はこいつらと違ってお前に狂ってるわけじゃない………今のところはな。こんな試合の金よりもお前といたほうが得るものが大きいって話だよ」
みんなで控室に向かう。そこで一人一人にこれまでの感謝を伝えようかと思ったけど、それだと死ぬ前のお別れの挨拶になりそうだからやめておく。
「試合までたっぷりとお姉ちゃんに愛を伝えるよ!」
「ええ。やればやるだけ強くなるのですから、遠慮する理由がありません」
「……………」
いくら強くなっても試合ができる体力と気力は残してくれないと無意味だ。みんなの理性と自制が正常に働いてくれることを祈ろう。
「ジャクリーン選手と関係者の方々、こちらへどうぞ」
「はい、どうも」
観客は通れないようになっている通路を通る。すると、予想外の人物が控室の扉のそばで私を待っていた。
「………」
「お、お前はトーゴー!」
「その後ろで横になっているのは……エーベルか!」
すぐにマキとサキーが私の前に出た。トーゴーが変なことをしてこないか、かなり警戒している。
「待て!応援に来ただけだ!邪魔をするつもりは全くない、すぐに帰る」
「………」 「………」
トーゴーの言葉は信用できないと言わんばかりに、二人は私を守り続けた。しかしトーゴーも下がらない。
「エーベルを見てくれ。命は助かったが、それだけだ。頭と首が絶対に治らないせいで、もう目を覚ますことも起き上がることもできない……哀れな姿だ」
死んだも同然の状態だ。マーキュリーの漆黒の闇は簡単に人を殺す。その恐ろしさを改めて知らせるために来たのかもしれない。
「エーベルがなぜ私と再び手を組んだか……お前たちはわかるか?」
「勝ちたかったから、それ以外ないだろ」
どうしても勝てない試合をひっくり返すためにトーゴーに頼った、それしか考えられない。自分の名誉や試合後の後味を犠牲にしてでも結果を優先したのだろう、誰もがそう思っていた。
「……エーベルは私と違い、どこまでも正義を求めていた。危険なマーキュリーを野放しにしたら世界が危うい。だからどんな手を使ってでも勝ちに……いや、勝てなくても傷を残そうとしたんだよ!」
「ま…まあそういう考え方はできなくもないけど……」
今さらエーベルさんの評判を回復させたところでトーゴーに何のメリットもない。それに今のトーゴーは必死に私たちに訴えている。最後まで話を聞こう。
「実は……大会前から再び手を組もうとエーベルに近づいていたが、二度と悪の道には戻らないと拒否されていた。それなのにこいつが私の力を使った理由は世界のためだけじゃない!もう一つ大事なもの………」
トーゴーの指先には私がいた。
「お前だよ、ジャクリーン・ビューティ。エーベルはお前に対して特別な感情を抱いていた。迷惑をかけたことへの贖罪の気持ち、そして……未来への希望!」
「未来への希望?」
「正式な大聖女はマキナ・ビューティだ。しかし真に人々の心を動かし笑顔にするのはお前の方だとこいつは話していた。かつての自分より遥かに素晴らしい人物になる、彼女のためならこの命も惜しくないと。だからマーキュリーを少しでも痛めつけて弱体化、もしくは弱点の一つでも明らかにしようと……!」
トーゴーの目から涙がこぼれる。エーベルさんがこんなになるまで戦った理由は私を助けるためだったなんて………。
「大聖女が強くなるには愛の力が必要だと聞いた。さあ、エーベルの愛を受け取ってくれ。今のこいつは意識がないし身体も動かせないが……」
「……そんなの問題ありません。受け取ります」
これほどの自己犠牲を示した偉大な人より素晴らしい人物になることは、とても私にはできない。それでもその思いを力に変えることはできる。動かないエーベルさんの両手を握った。
「………あなたの大聖女精神、決して無駄にはしません。必ずマーキュリーに勝ってきます!」
私も泣いた。私の涙がエーベルさんの手に落ち、濡らした。
「確かに受け取った………確信できる。本物の愛には言葉や表情すらいらない。さあ、行こう」
「お姉ちゃん……また一段とかっこよくなったね。あっ、でもわたしたちはちゃんと行動で示すからね、お姉ちゃんへの大きな愛を!」
マキの一言さえなければ完璧だった。みんなもそれに賛同して、試合開始まで昨夜と同じく激しいアピール合戦が繰り広げられるのは確実となってしまった。
こんな小説を読みに来る、暇人の諸君!私が高田モンスター軍の総統、そしてハッスルの偉大なる支配者、高田だ!
(総統!総統!総統!総統!)
いよいよ第三章も終わりが近づいている。少しでも応援する気があるのなら、ブックマーク登録や高評価、いいね等をくれたまえ。何?まだやってないしやるつもりもないだと?こんのぉやろお〜〜〜っ!
まあいい、また明日18時、ここで会おう。暇で暇で仕方がない下々の諸君ども、それまでぼんやりと待っているがいい!バッドラックだ!!(『威風堂々』が流れ退場)




