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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第三章 スーパー闘技大会編
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愛を探すマーキュリーの巻

『明日の決勝戦はジャクリーン・ビューティ対マーキュリーと決まりました!偉大なチャンピオンたちと共に歴史に名を刻むのはどちらでしょうか、国王様?』


『……私に聞くまでもないだろうに。マーキュリーの勝利は揺らがない。強運だけで勝ち上がってきた女とは実力が違う!』


 この場にいるほとんどの人間が王様と同じ考えだろう。ところが今日の王様はいつもと違った。



『しかし……私はジャクリーン・ビューティに勝ってもらいたい。私の息子だけでなく多くの優秀な戦士たちがマーキュリーに倒された。その無念を晴らしてほしい』


 王様を襲いに行こうとしたお父さんの足が止まった。皆も驚いてしまい、大闘技場は静かになった。


『それに加え、もしマーキュリーが優勝したら……世界が闇に閉ざされてしまう気がする。そうなったら大聖女や勇者たちですらやつには勝てない!この大会でマーキュリーを止めなければ………』


 マーキュリーの力は確かに危険だ。しかし今のところは試合中に対戦相手を倒すために使っただけで、世界の危機というのは大げさな気がする。リングを離れたら穏やかで優しい人かもしれない。


「ジャッキー!ジャッキー!ジャッキー!」


「ジャッキー!ジャッキー!ジャッキー!」


 王様が私の側についたせいで、会場の声援も私一色になった。せっかく応援してくれても、その期待に応えるのは難しそうだ。



『明日は3位決定戦、その後決勝戦が行われる予定ですが……おそらく3位はサキーで決まりでしょう』


『エーベルは不戦敗だろうからな。試合の予定を組み直す必要があるだろう』


『でしょうね。では……決勝を戦う二人のみ、リングに上がって握手してもらいましょう』


 大観衆の前で正々堂々戦うことを誓う機会だ。ところがリングに向かおうとすると、みんなに止められた。


「やめたほうがいいですよ。握手の時にあの力を使われたら右手が一生動かなくなるかもしれません」


「いや、そんなことしないでしょ」


「どうかな〜?お姉ちゃん、トーゴーに騙された時のことをもう忘れたの?変な人を信じたら危ないよ」


 マーキュリーがその気なら、手どころか命すら一瞬で奪われる。でも本当にそんなことをしたら即失格、闘技大会から永久追放だ。だから握手くらいは普通にやってくれるはずなのに、なかなか行かせてくれなかった。



「そうだ!行くな!そいつは悪魔だ!」


「明日の試合で殺し合うやつと握手なんかするな!」


 観客たちもマーキュリーとの接触を避けるように叫ぶ。するとマーキュリーもリングに上がらず、離れたところから私に話しかけてきた。


「………〜〜〜、〜〜〜〜〜〜………………」


「全然聞こえない………」


 遠くから小さな声でいろいろ言われても当然届かなかった。あんなに強いのにどこか抜けたところがあるようで、結局すぐそばまで近づくことになった。何が起きてもいいようにと、みんなもいっしょだ。



「………明日を楽しみにしている。予選の時からあなたと戦いたいと強く願っていた………」


「そ、そうですか。しかしどうして私と?」


 マーキュリーが私に注目していた理由がついに明らかになる。それがわかれば明日の戦いにも光が見えるかもしれない。




「ジャクリーン・ビューティ。あなたのことは以前から噂で聞いていた。『聖女になれなかった女』、『大聖女一家の恥』、『世界の汚物』………あまりに悪く語られるものだから逆に興味があった」


 他国や魔界にまで伝わる私の話題。とんでもないダメ人間がいるぞとどんどん広まっていった。


「ところがあなたは多くの人々に愛されていた。今もこうしてあなたを守ろうと大勢の仲間たちがいる。無価値な人間は決して真の愛を得られない……つまりあなたは私とは違う!」


「………?」


「私には一人もいない。私を愛する人も、私を愛してくれる人も。何度も願ったし、努力してきた。しかし今日まで私は孤独の中にいる。とても暗く、寒い場所に」


「………」



 どうして私を気にしていたのかを話しているはずだ。なぜこんなことをと思っていたら、すぐに本題に戻ってきた。


「あなたと語り合えば何かわかるかもしれない。私が欲していたものが手に入るかもしれない。愛に満たされたあなたの秘密を明らかにするために……全力で戦いたい。私にはこのやり方しかない」


「え……いやいや、そんなことないよ。戦わなくたってじっくりココアでも飲みながら話を……」


「いいえ、それではいけない。私は口下手だし、あなたはきっと私に遠慮して真実を話してくれない。命を賭した本気の殺し合いこそが究極の会話、相手をよく知る最高の機会になると信じている」


 どうしてそんな発想になるのか。本音で話し合うために毎回相手を殺していたら話す人がいなくなってしまう。愛以前の問題だ。



「この国の王や大聖女であるあなたの妹でも私を救うことは不可能。勤勉な生き方や神への祈りが無意味だったことがそれを明らかにしている」


 理屈は理解できないけど、言っていることは正しい。王様が国民全員に手を差し伸べることはないし、マキができることにも限界がある。


「ジャクリーン・ビューティ……あなたならそれができるかもしれない。あなたは国王や大聖女より上の存在になれる……不可能を可能にしてみせる人物に」


「………は?ありえないって、そんなこと」


「それを明日、確かめたい。私があなたの命を奪うのは簡単なことだと考えている。しかしそれが覆される時、私はようやく愛せる人を見つけることができる」


 マーキュリーの殺意が伝わってくる。憎しみや怒りといった負の感情はなく、希望にすがる思いが溢れていた。

 愛にすべてを……Somebody to Love

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