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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第三章 スーパー闘技大会編
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救いをもたらす悪魔の巻

「……思っていた通り、やはりお強いですね。しかし前世の私はもっと厳しい戦いを何度も乗り越え、勝利してきました」


「……………」


「魔王や邪神と呼ばれた者たちとの世界の平和がかかった死闘に比べたらこんなもの―――っ!」


 エーベルさんの心は折れない。しかしマーキュリーはまだ本気を出していないという。とても危険だ。



『これが先代大聖女のパワー!マーキュリーを軽々と抱え上げ……観客席に向かって投げ飛ばしたっ!』


「聖なる力が闇に屈することはありえない!」


「うわっ!」 「こっちにくる!」


 私たちがいる最前列にマーキュリーが突っ込んできそうだ。みんなで慌てて逃げた。


『椅子の山に激突か――――――っ!?』



 頭から落ちてきたはずだった。それなのに、


「……えっ!?」


『な、なんと!?平然と座っている―――っ!いつの間に向きを変え勢いを殺したのか、我々の目からは全く見えませんでした!』


 近くにいた私にもわからない。魔法なのか、人間離れした身体能力なのか、それ以外の特別な力なのか。最初から座って試合を観戦しているようだった。


「なんだと……」 「グ、グム〜〜〜ッ」


 みんなが驚いている中で、マーキュリーは席を立ち私の目の前で止まった。長髪で整った美しい顔、年齢は私と同じくらいか。あんな恐ろしい戦い方をするようにはとても見えない。



「……ジャクリーン・ビューティ………」


「あ…どうも……」


 思わず頭を下げてしまった。ラームとマユが呆れているのも納得の情けない姿だ。


「明日は楽しみにしている。ずっとあなたと戦いたいと思っていた。どちらが相手の『心臓を一突き』できるか………今から待ち遠しい」


「え?し、心臓?」


 見た目に騙されたら駄目だ。純粋そうな顔をしていても、言葉は殺意で満ちている。




「……もう明日の話ですか。気が早すぎるのではありませんか?決勝でジャクリーンさんと戦うのは私です!」


「………!」


 気がついたらエーベルさんもリングを下り、私たちの背後に迫っていた。場外戦の始まりだ。


『エーベルが素早くマーキュリーの腕を掴む!改めて椅子に叩きつけようとしている!』


 私たちはもっと遠くに逃げた。エーベルさんの強烈なキックやマーキュリーの暗黒攻撃の巻き添えになったら、私こそ明日の決勝どころではなくなってしまう。



「くらえ………あっ!?」


「……大聖女だったあなたへの興味も少しはあった。しかしその気も失せてきた………あなたから愛を感じない」


 投げられそうになったところでマーキュリーは踏ん張り、空いている手で逆にエーベルさんを前に出した。


「この力………!うぐっ!!」


『椅子に飛び込んだのはエーベルのほうだ――――――っ!周囲の観客の皆様、お気をつけください!』



 エーベルさんが倒れてもマーキュリーはリングに戻らなかった。動けずにいるエーベルさんの前に立つその手には椅子があった。


「ぐっ!ぐうっ!」


『残虐さでもマーキュリーのほうが上回っているようだ!エーベルの背中をめった打ち!』


 激しく叩くからすぐに椅子が壊れる。それでもすぐに次の椅子を持って攻撃を止めない。しかも無表情で続けるせいでとても怖かった。



「じょ、場外カウント!ワン!ツー!」


 リングを離れる時間が長くなって、ついに審判が場外カウントを取り始めた。20カウント以内にリングに戻れなければ負けというルールで、両者失格の可能性があるからトーナメント制の闘技大会では審判もあまりやりたがらない。もし二人とも間に合わないと明日の決勝は中止、私の優勝が早くも決まってしまう。


 それでも今場外カウントに入った一番の理由は、エーベルさんが試合を続けられるかを判断するためだ。マーキュリーは間違いなくリングに戻れる。エーベルさんがもし立ち上がれないほどダメージを受けていたり、戦う気持ちがなくなっていたりしたらここで終わる。降参するならこのタイミングだ。


「………」


「まだまだ………こんなもの!」


『マーキュリーがリングに!そしてエーベルも戻りました!再びリング内での戦いへ!』



 エーベルさんのダメージはそこそこ回復していた。とはいえこの実力差では、いくら治しても……。


『氷が指先に集中!範囲を狭くすることで威力アップか!』


「ぐあっ!」


 肩や頬が裂かれる。防御や治癒がだんだん追いつかなくなり、エーベルさんの動きが鈍くなってきた。


「ぬんっ!」


「………」


 たまにマーキュリーに攻撃が当たってもほとんど効かない。現役の大聖女ですら戦えばただでは済まないような相手だから、エーベルさんがある程度力を取り戻しているとしても勝てる見込みは極めて薄かった。





「ぐっ……まだ。勝負はまだ………」


『エーベル、立ち上がろうとする!しかしこのまま続けても劣勢を覆せるようには思えませんが……』


(このマーキュリーを野放しにしていたら世界の危機……ここで私が倒れるわけには……)


 どんな厳しい戦いでも皆の平和のために諦めない、これが大聖女精神だ。私やマキはまだまだ学ぶことが多い。


(しかしこのまま戦っていても意味はない。できることは全てやった。どうすれば……)



「エーベル!エーベル!エーベル!」


 大闘技場がエーベルさんに声援を送る。しかしそれ以上の実際的な助けが必要だった。


 そんなエーベルさんに救いの手を差し伸べたのは神様や天使、精霊ではなく、まさかの悪魔だった。

 



(フフフ……エーベル、私が力を貸そう!)


(………その声は!)


 スポイラー・トーゴーだ。以前にエーベルさんを利用して大聖女の座を奪おうとしていた悪党が懲りずにまたやってきた。


 実はこの時、私たちには何も聞こえていないしトーゴーの姿も見えない。トーゴーが遠くからエーベルさんにだけ聞こえるように話していた。だからこの出来事を私たちが知ったのは試合が終わった後だった。


 

(下がりなさい。あなたとの縁はすでに切れた。洗脳されたも同然の日々に戻ることなど絶対に……)


(そうかな?あの時のお前は前世の記憶があるだけの無力な存在だったのに、私の術のおかげで一流の冒険者たちと互角以上に戦えたじゃないか。今のお前が再び秘術に身を委ねたなら………)


 トーゴーの誘惑が続く。手っ取り早く力を手にできるけど、そのぶん大事なものをたくさん失う。


(お前が苦戦しているのは良心や慈悲の心が邪魔をしているからだ。その目の前の女は殺すつもりで戦わないと倒せない。私が手助けしてやろうって言ってるんだよ!)


(……………)


 あまり悩んでいるとマーキュリーにやられてしまう。エーベルさんの決断は早かった。

 


(……あなたが今度は何を企んでいるのかわかりませんが……いいでしょう。私に闇の力を授けなさい!)


 光対闇の戦いから、闇対闇の戦いに変わろうとしていた。

 夢の世界から帰ってきました。感動をありがとう、横浜DeNAベイスターズ!三浦大輔監督を81回胴上げしていれば完璧でしたが、それは来年のリーグ優勝&日本シリーズ連覇に残しておきましょう。


 横浜が日本一に輝いたので、私の別作品『第三捕手のみっちゃん』も完結させます。すでに本編は終わっている作品ですが、最後のおまけを執筆中です。年内には終わると思います。

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