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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第一章 大聖女マキナ・ビューティ編
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剣聖になれなかった女の巻

 剣聖になれず家を出たサキー。正体を隠して偽名を使っている可能性もある。しばらくは話しかけずに様子を見よう。


「このチャンクロの死体が重すぎたせいでちょっと遅れた。こんなの宿に持っていけないし、今処理してもらいたいが構わないか?」


「も、もちろん!今開けますから少しお待ちを、サキー様!」


 サンシーロさんが慌てて鍵を開ける。本名を名乗っているし剣を武器にしているのだから、正体を隠してはいないようだ。知り合いの私が近づいても問題なさそうで、再会を祝える。



「久しぶり!覚えてる?ジャクリーンだよ」


「………ジャクリーン……ああ、聖女の座を妹に奪われた負け犬か。役に立ちそうもない子どもを二人も連れて遊んでいるのか?呑気だな」


 いきなり喧嘩を売ってくるような言葉と態度で、以前の彼女とはまるで違う。剣聖になれなかったせいで家族からひどい扱いを受けるようになって家出、冒険者として一人で生きているのだから昔と変わっていても無理はない。


「突然いなくなったと聞いていたから元気そうで安心したよ。そんな大きな魔物を一人で倒したなんてすごいね!修行を怠らずに成長し続けている証だ」


「ん……まあそうだな。剣聖の力を受けられなくても訓練次第でいくらでも強くなれる。魔法を中心に戦うのに聖女の力や加護を得られなかったお前よりはどうにかなっている。S級冒険者として生活には困らないからな」


 私が怒って悪口を言い返さなかったことをサキーは意外に思ったようだ。子どものころはよく張り合って何度も模擬戦をした。聖女と剣聖、どっちが強くなれるか、どっちが偉くなれるか……懐かしい思い出だ。いいライバル関係で、仲は悪くなかった。



「剣聖になった弟よりも強くなり、私を軽く見たあの家の馬鹿どもに唾を吐くのが私の目標だ。お前のように家族に頭を下げながら中途半端に生きるやつとは違う……明日からそれを思い知らせる」


「こいつ……誰に物を言ってるのかわかってないな!」


「ジャッキーさん!言われっぱなしですよ!?」


 ラームとマユは激怒している。私が止めなければいつ襲いかかってもおかしくないほどだ。私が冷静でいられたのは、サキーを哀れに思ったからだった。


 もし私が聖女になれなかったせいで家を追い出されていたら、サキーのようになっていたかもしれない。見返してやるという恨みや復讐心に満たされ生きている、どす黒い人間に。


 私はたまたま家族に恵まれている強運の持ち主だっただけだ。それなのにどうしてサキーに対して怒りの気持ちを向けられるだろうか。



「お待たせしましたサキー様!さあ、どうぞ!」


「帰るところだったのにすまないな………あ?」


「………」 「………」 「………」


 サキーとサンシーロさんの冷たい視線が私たちを貫く。ちゃっかりサキーの後ろに並んでいる姿に心底呆れている様子だ。

 

「せっかく開いたんだから………ねぇ?」


「情けないな………プライドはないのか。こっちが悲しくなってくる」


 おまけで私たちの薬草も受け取ってくれることになり、時間切れでの任務失敗を免れた。


「子どもの時と比べて完全に差がついたな。ギルドの救世主サキー様とお荷物のジャッキー、住む世界がまるで違う」


 昔の話や今の立ち位置の差なんかどうでもいい。私は目の前の仕事をこなし、目標に向かって自分のペースで進んでいく。実力も経験もまるで違うのだからサキーと関わることもあまりないだろう。



「ったく。お前らもギリギリ間に合ったってことにしてやる。ほら、今日の報酬だ」


「ありがとうございます。遅くなった理由を含めていくつか報告があります。実は薬草がほとんど狩られていて……」


 スライム族については言わずに、しばらく薬草は採れないことだけを伝えた。『何者か』に持っていかれた、それで話は通る。


「それでこんなに遅くなったのか。残りカスを必死にかき集めるくらいだったら早めに戻って別の仕事を探せばいい。たまにあるんだよ、こういうことは」


 細かい説明はいらなかった。マユについても予想通り何も聞かれない。竜人たちがいるのに今さらスライムなんか珍しくもないからか。


 

「でも他にも欲しがる人がいるってことはこの薬草、実はとてもすごい効果があったりしますか?」


 大勢のスライムたちをすぐに、それも完璧に癒やした。サンシーロさんが秘密を知っているなら隠そうとしても顔や声が変わるはず。細かい仕草も見逃せない。


「ああ?そんなわけねーだろ。今日たまたまなかっただけで、普段は採り放題じゃねーか。どこにでもある安い草だよ」


(……動揺ゼロ、嘘をついている様子はない……)


 言われてみればその通りだ。最上級の治癒魔法と同じレベルの薬草があんなところにあれば誰も放っておかないし、王国が大事に管理するべきだ。


 それならあれはほんとうに奇跡だったのか。あの薬草とスライムの集落の空気が偶然特別な力で……とかなのか。機会があればもう一度あの場所に行って試してみよう。



(……ジャッキー様の魔法は失敗したように見えた。でもその直後だ、奇跡が起きたのは)


(あの輝く光……何の関係もないわけが………)


 

 家に帰ってマユを紹介するとお父さんたちに暖かく歓迎され、家族の一員となった。必要ないとはいえ、見栄えがよくなるように服も用意してくれるという。明日からますます楽しみになってきた。






「う……うわっ!」


「ジャッキー様、早くこっちへ!」


 ところが翌日からは不運や小さな事故が重なり失敗が増えてきた。ほとんどが私の実力不足や判断ミスによるもので、サキーとの差は開く一方だった。

 芸能人やマスコットでも試合をすれば『プロレスラー名鑑』に載ります。

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