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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第三章 スーパー闘技大会編
136/273

無効化された防御魔法の巻

 横浜日本一

 サキーが魔法や打撃、剣技と武器攻撃を禁止したルールを提案した理由を、私の身体を合法的に好き勝手するためだとみんなは言う。ありえない話だ。


「マキやラームならわかるけどサキーはないよ。ちょっとしたことで鼻血を吹いちゃうくらいだし、人前でそんな真似をしようとは……」


「勇者になって変わった可能性もあります。大胆さや思い切りのよさを手に入れたということも」


 勇者の力に目覚めたとしても、人格まで変わってしまうというのは考えにくい。しかしほとんど前例がないから断言もできない。


「そうなるとまずは様子見かな?」


「いや、悠長に構えているとサキーさんに何をされるかわかりません。早々に転ばせて腕か足の関節を痛めつけましょう。極力密着しない形で!」


 それができれば苦労しない。もしサキーが油断していたら、試合が始まった瞬間に仕掛けて一気にギブアップ勝ちを狙おう。



「この魔法をかけておくよ、えいっ」


 マキが私に向けて何かの魔法を放った。身体や気持ちの変化は感じなかった。


「いやらしいことをしてきた相手にダメージを与える魔法だよ。もちろんあいつが真面目に戦ったとしてもお姉ちゃんの身体に触れるだろうけど、わざと変なことをした時だけ罰を与えるようになってるからね」


「……ありがとう。でも今日の試合は魔法を使っちゃいけないんだから、ルール違反になるよね……」


「だいじょうぶ。こんな魔法、わかりっこないよ。それにもしあいつが痛い目に遭っても、その時は後ろめたい気持ちがあるわけだから指摘できないよ」


 いろんな意味でこの魔法が発動されないことを願いたい。






『3カウントが入りました!勝ったのはセイギ王子とその友人、『マナバウア』!さて、次の試合からは準決勝となります。まずは第1試合!』


 控室でみんなと話をしていたらあっという間に出番が来た。前座の試合は全く見なかった。


「平常心で……と言いたいところですが、サキーさんの出方には警戒してください!」


「今のあの方は何をしてきてもおかしくないのです!ジャクリーン様、どうかお気をつけて!」


 私はサキーを信じている。まあいざとなったらマキの魔法が守ってくれるし、余計な心配の必要はないはずだ。




『両選手、東西から同時に入場してきました!ジャクリーン・ビューティは前回準優勝、一方のサキーも準決勝の相手が大聖女様でなければ決勝に進出していた実力者です』


「………よろしく、サキー」


「ああ。素晴らしい試合にしよう。だがその前に……」 


「………?」



 サキーは私と軽く握手をするとすぐに離れ、審判と王様に向かって大きな声で話しかけた。


「この試合、魔法は使えない。もちろん事前に仕込んでおくことも禁止だ。だからここで私たち二人に術をかけてほしい。全ての魔法の効果をかき消す術を!」

 

 握手だけでわかってしまう……これが勇者か。


「許してくれ、ジャッキー。疑っているわけじゃない……純粋な勝負を楽しむために、あくまで念のためだ」


「ま…まあそういうことなら、喜んで」


 いや、わかっていないか。今の私はどうでもいい魔法に身を守られているだけだ。スピードやパワーはいつもと変わらず、試合への影響は全くない。


(この魔法でサキーが困るとしたら……)


 みんなが恐れている、サキーがいやらしいことをしようと企んでいる場合だ。




『本来なら治癒のために待機していた聖女隊ですが、これから戦う二人に魔封じの術を唱えます!』


「こんなことになるなんて……あんな連中じゃ解けないように、もっと魔力を使うべきだった。やられたよ」


「もしサキーさんが全てをわかっているのだとしたら、恐ろしい事態に………」


 私が正しいのか、マキたちが正しいのか、試合が始まればすぐにわかる。


 

「武器と魔法の使用は即失格!打撃が入った場合は故意であるか、勝敗に影響があるかなどを考えて反則点を決める!」


 いつもはほとんど何でもありの戦いだから、制限が多いこの試合は審判も大変だ。キックと足を使った技の違いは曖昧だし、うっかり拳がお腹に直撃ということもありえる。疑われるような動きは極力避けよう。


「では………始め!」



『準決勝第1試合が始まりました!同じ冒険者ギルドに所属する両者ですが、大会後は冒険者という枠に収まることはないでしょう』


 勇者であると認められたサキーはギルドに残れば、確実にジェイピー王国で唯一のSS級冒険者になれる。しかし勇者ならもっといい待遇で活躍できる場所がいくらでもある。


「隙がない………強くなったな」


「まだ始まったばかり。ここからだよ」


 サキーが安心して先に進むためにも今日はいい試合がしたい。常にそばで守っていなければ心配だと思わせ続けるなら、世界にとって重大な損失になる。



「ふんっ!」


「速いな。だが甘い!」

 

 互いに腕を掴もうとしたり、腰や足から崩して倒そうとしたりする。しかしなかなかうまくいかず、みんなが警戒する寝技どころか触れることすらほとんどない時間が続いた。


「地味な展開だが……ピリピリしてるな」


「見てるこっちまで息が詰まるわ」


 派手な戦いが見たくてここに来た観客たちは怒ると思いきや、静かに観戦して拍手を送ってくれる。珍しいルールの独特な緊張感を楽しんでいるようだ。



「……油断は禁物だぞっ!」


「うわっ!」


 観客席からの熱い視線に意識が向いていた一瞬の隙をサキーは見逃してくれなかった。


『ついに試合が動いた!先制したのはサキー!ジャクリーンを背中からマットに倒してその上に乗った!』


 脱出の方法はたくさんあるから焦らなくていい。この体勢になると普通なら顔への連続パンチが怖いけど、今日はその心配もない。


(足も腕も動かせる。サキーがどう出るか待とう)


 どかすだけなら簡単だ。反撃して有利な状況にするところまで狙おうと私は欲張った。



「………」


 サキーが右腕を伸ばした。首か肩を狙っているのは確かで、少し強引な攻撃だ。


(これならひっくり返せる!)


 その手が首か肩に触れる寸前で掴み、逆に私が上になるところまで考えた。ところがサキーの次の一手は、私の全く想定していないものだった。




「えっ!?」


 サキーの右手はなんと私の胸を掴んだ。予想外すぎて反撃するのを忘れてしまった。


「むむ………いかん、手が滑った」


 事故なら仕方ない。こんな偶然を読み切るのは不可能だ。




「あっ!あいつ!」


「早速やってきましたか………」

 横浜日本一

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