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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第三章 スーパー闘技大会編
135/273

ジャッキー対サキーの巻

 横浜日本一

 スーパー闘技大会の二日目が終わった。明日は準決勝、誰と戦うことになっても厳しい。勇者の力に目覚めたサキー、武闘派大聖女のエーベルさん、そしてあの恐ろしいマーキュリー。


「ふんっ!ふんっ!」


 広い部屋で一人、弱い気持ちを振り払うために汗を流した。考えれば考えるほど不安になってくるから、早く寝よう。


(ベスト4……すでに出来すぎだけど……)


 駄目で元々、負けて当然の気持ちで当たって砕けよう。






『大会は三日目を迎えました!まずは準決勝二試合の組み合わせを決めたいと思います!』


 これまでと同じようにくじ引きの箱が現れた。今回は1と2が二枚ずつ入っていて、1を引いた二人が第1試合、2を引いた二人が第2試合となる。


『四人一斉に開いてもらいます!どうぞっ!』


 どんな組み合わせになろうと勝ち目は薄いのだから緊張していない。むしろ私と戦う相手のほうが、取りこぼしはできないとプレッシャーに感じるかもしれない。昨日は結局ぐっすり眠れたし、万全の状態で挑める。



「ああっ!」 「こ……これは!」


『1と書かれた紙を持つのはジャクリーンとサキー!2のほうはエーベルとマーキュリー!準決勝の組み合わせと試合順が決定しました!』


 私の相手はサキーだ。仲間同士での対戦だと、どちらかが棄権してもう一人を無傷で決勝に送り出す作戦がある。


「……まさかここで当たるとはな。私に決勝進出を譲れと言いたいところだが……お前は応じないだろう?」


「私は自分の力でビューティ家を救うって決めたんだ」


 交渉は早々に決裂した。しかしサキーの出した次の案はなかなか面白かった。



「わかった。それならせめて明日の決勝戦にダメージが残らないルールで戦おう。ジャッキーとトーナメントでぶつかった時のために以前から考えていた方法だ」


「……どんなルール?」


「打撃技、剣技、魔法は全て禁止!当然剣以外の武器も使用できない。関節技や寝技、絞め技だけを使って戦う………ギブアップと審判のストップ以外で試合が終わることはない」


 これはいい方法かもしれない。私もサキーも恨みっこなしの真剣勝負を誓ったところで、剣や魔法の威力を手加減する事態は避けられなかった。顔にパンチなんかもっとありえない。互いに相手のことが大好きだからだ。


 しかし寝技や関節技なら血は流れない。極限まで我慢しなければ骨折の心配もなく、そもそもその前に審判が止めてくれる。



「戦いの性質上、鎧や防具は装備不可。薄手の服で戦うことになるが構わないか?」


「いいよ。それでやろう。ほんのちょっぴりだけど私にも勝つ道が………」


 口に出してみてわかった。これが勇者だ。どんな格下の相手にも寛大にチャンスを与え、それでも勝ってしまうのが真の勇者なのだろう。


「少しは粘れよ。せっかく特別ルールで試合をするのだから、楽しませてくれ」


「サキーにとっては内容も結果もつまらないことになるかもしれない。それは許してね」


 勇者の余裕、その傲慢を叩いて勝つ。遠慮はしない。




「先代大聖女としてあなたの戦い方は見過ごせない。悪いものに取り憑かれているように思える………」


「……………」


「あなたを浄化し、倒します」


 エーベルさんとマーキュリーはすでに一触即発状態だ。どちらが勝つとしても恐ろしい試合になりそうだ。



『それではベスト4の選手たちには控室に戻っていただき、準決勝への期待と熱気を高めるための前座試合を始めていきましょう!まずは闘魂軍の精鋭によるタッグマッチで開幕です!』


 それぞれの部屋に向かう。次にサキーと会うのはリングの上だ。サキーは一人で自分の控室に入り、私は大量の応援団を連れて部屋で待機する。


「準決勝はサキーさんと、しかも特別ルールですか」


「どちらかが死ぬまで戦うルールでマーキュリーとやるよりはずっと安全ですね」


 言うまでもないことだ。いくら誰が相手でも厳しいとはいえ、マーキュリーは一番怖い。マキの魔法をかき消すほどの強力な力を持ちながら、まだ何かを隠している。勝ち目どころか五体満足で生還できる確率が無に等しい。



「この試合の鍵は、サキーさんが勇者の力を出す前に速攻で主導権を握ることでしょう」


「まあ…あれが出たら終わりだよね」


「やる気を削いで集中させないことが大事ですが……」


 私が弱すぎて勇者の力が発動しないこともありえる。こんなものを使ったら一瞬で決まってつまらないからと、あえて素の身体能力と技術だけで戦おうとしてくるかもしれない。



「一番確実なのは……今からドブに落ちてくるとか?臭ければ勇者も組みたくないだろうし、逃げちゃうかもしれないな、ヒヒヒ」


 マキシーが考えたのは最高の防御策、しかし最低の戦法だ。汚れていて臭いも酷ければ相手は腰が引ける。遠距離攻撃ができない今回のルールなら圧倒的に有利になるけど………。


「本気で勝ちたければこれしか………ひっ!?」


「お姉ちゃんがドブに落ちて汚れたまま試合?つまらない冗談だね。お前はドブじゃなくて地獄の底に落ちて永遠に苦しむのがお似合いだと思うよ」


「あ……あひっ、あひゅっ、あひゅっ」



 かつて大聖女の命を狙っていたマキシーが、逆に殺されそうになった。いろんな液体を流しながらその場に座り込んでしまい、かわいそうだから助けてあげた。


「まあまあ、そのくらいしないと勝てないのは事実だし」


「あいつの寝技や関節技のレベルがどれくらいなのかわからないのが面倒だよね。どうしてこんな試合を提案したのやら………」


 マキといっしょにみんなも考え始めた。私はすでに答えが出ていて、サキーはあえて私が勝てそうな戦いにしてくれたと思っている。譲歩でもあり傲慢でもあるこのルールにつけこんで勝つしかない。



「あっ!?」 「はっ!!」 「まさか………」


 みんなが同時に閃いたようだ。そして私に聞こえないように輪を作り、意見を交換する。どうやら全員同じ答えにたどり着いたらしい。


「……ジャッキー様、やはりドブに落ちたほうが……」


「え!?どうして!?」


「もし私たちの予想が正しければ……恐ろしいことが起こります。密着する技は自分が使う時もサキーさんが使う時も細心の注意を払ってください」


 注意するも何も、この戦いではどうしても身体の密着は避けられない。どういう意味だろう。



「あいつ……試合を利用してお姉ちゃんとあんなことやこんなことをするつもりなんだよ!お姉ちゃんが汚されちゃう!」


「特に寝技!サキーさんの手つきに気をつけて!」


「………は?」


 私とみんなの読みは全く違っていた。真面目に聞く必要はなさそうだ。

 横浜日本一

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