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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第三章 スーパー闘技大会編
134/273

炎と氷の行方の巻

 横浜日本一

『フランシーヌとマーキュリー、互いにパンチ!炎と氷、またしても勝つのは炎か―――っ!?』


 何度やっても氷は炎に溶かされるだけ。フランシーヌさんの勝利が見えてきた。


「……………」


 ところがマーキュリーは平然としている。このままぶつかったら負けるとは考えていないのか。



「この程度なら……伝説のチャンピオンになるための試練ですらない」


「………!?」


 マーキュリーの右腕を覆う氷の形が変わり、鋭い刃になっていく。手首から先も剣のように変化して、魔力を一点に集中させていた。



「危ない気配がする!フランシーヌさん!」


「……っ!!」


 このまま打ち合うと負ける、そう察知したフランシーヌさんは攻撃を中止して防御に入った。拳にだけ集めていた炎を広げて盾のようにした。


「炎の盾!しかも厚手だ!」


「これならその氷の刃を防げます。あなたの魔力が尽きてからじっくり攻めさせてもらいましょう!」


『このガードは崩せないか!?しかしマーキュリー、無謀にも突撃!』


 マーキュリーは炎の盾を打ち破ろうとする。氷が溶けて大火傷の未来が簡単に予想できて、心配になってしまうほどだった。



 ところが、マーキュリーの力は想像を遥かに超えていた。炎にぶつかる直前、彼女の腕が氷ごと回転し始めた。


『どういうことだ!?マーキュリーの右腕、高速で回っている!しかも目に見えない速さ!』


 あんな動きをして、骨や関節、筋肉はいったいどうなっているのか。驚きの能力を披露してきた。


「うっ……炎が!?」


『なんと炎が消えていく!これがマーキュリーの本気か!?溶けない氷がフランシーヌに迫る!』


 盾がなくなり、フランシーヌさんはすぐに新たな炎を出した。マーキュリーの狙いが上半身だとわかると、範囲が狭いぶん防御力の高い炎で身を守った。



「その氷は途中で止ま……ぐっ!?」


 止まらなかった。マーキュリーの刃はフランシーヌさんの左胸に突き刺さり、そのまま身体を縦に引き裂いた。



「あぐっ………まさか………」


「……心臓を一刺しとはいかなかった。僅かに外れたか………しかしこれで決着!」


 決定的な一撃を受け、フランシーヌさんが背中から倒れていく。しかしマーキュリーはそこに駄目押しの攻撃を放った。


『フランシーヌの顔が十字に斬り裂かれた!鼻が割れ……額と口も破壊された――――――っ!!』


「かはっ………」


「……………」



 目のダメージは避けられたけど、これは重傷だ。私はマキを連れてすぐにリングに飛び込んだ。


『フランシーヌは倒れたまま動かない!審判がすぐに試合を終わらせ……おっと!大聖女姉妹がリングに入ってきたぞ!』


「ジャクリーン・ビューティ………」


 過剰な攻撃だという自覚はあったのか、私が来たのは報復のためだと勘違いしたマーキュリーは素早くリングを下りた。しかしそこに留まって私を見つめ、様子をうかがっている。マキには興味がないようで、私だけをじっと見つめていた。



「うう………情けないです。こんな惨敗………」


「いいえ、フランシーヌさんは立派に戦いました。マキ!最高の治癒魔法を!」


 顔や胸の傷は骨が見えるほど深く、大量に出血していた。これをすぐに治せるのはマキしかいない。


「じゃあいくよ。えいっ」


 かすり傷を治すような感じでマキは魔法を唱えた。それでも一瞬で傷が塞がり、跡すら残さない完璧な回復を見せてくれた。


「はい……終わり。よかったね、元通りになって。わたしは聖女隊に任せようと思ったけどお姉ちゃんがどうしてもって言うからね……お礼ならお姉ちゃんに言いなよ」


 マキはいつも通り、私以外にはあまり関心がなさそうな言い方だ。でも今日は傷跡が残っていないかしっかり確認し、フランシーヌさんが何事もなく立ち上がるまではこの場を離れようとしなかった。

 

 

「……ジャクリーンさん、それに大聖女様。無様に敗れた私のために………ありがとうございます」


「何を言っているんですか!そのために大聖女がいるのですから当然でしょう!私みたいなのはどうでもいいとして、フランシーヌさんのような美しい人に顔や胸の傷が残ったら大変ですからね、よかったよかった!」


 極稀に「この傷は勲章だ」とか「強敵との戦いの証だ」などと言って傷跡を消すのを拒む人もいる。でも普通の人間なら完治を望む。きれいな顔や身体でいたいのは当然だ。


「美しい………ふふっ、ありがとうございます」


 フランシーヌさんが私の手を握った。治したのはマキなのにどうして私なんだろう?

 



「そいつの傷は治せた。でも昨日のシューター王子の顔は治せなかった。同じようにやったのに」


 マキがフランシーヌさんから目を離さなかったのはそれが理由だった。マーキュリーはマキよりも強い魔力を持っているのではと騒がれていた。


「……答えははっきりしています。シューター王子はどす黒い魔力を纏ったパンチで顔面を破壊されました。それ以外の部位は普通に痛めつけられています」


「だから顔以外は回復した……」


「そして私は氷で倒されました。黒いオーラは一度も発動していなかったので、あの力が特別なのでしょう」


 マーキュリーの真の恐ろしさは氷魔法ではない。大聖女すら凌ぐ闇の力こそが脅威だ。



「私は本気を出すにも値しないと判断されたのでしょう。そのおかげで助かりましたが、戦う者としてはここが限界かもしれませんね」


「そんな……相手が悪すぎただけですよ」


 落ち込むフランシーヌさんを慰めようとしたけれど、私が何もしなくてもフランシーヌさんはすぐに前を向いた。いや、前というより、私を見ていた。



「ですから次のステージに進みます。私を間違った歩みから救い、今もこうして支えてくれる方のために生きると決めました!」


 私の頬にキスをして、正面から抱きついてきた。背中に手を回し、しばらく離れそうになかった。


「これからはフランシーヌと呼んでください」


「フ…フランシーヌ……」


 つい私もフランシーヌさん……フランシーヌを優しく抱きしめてしまった。これが大混乱の始まりだった。



「こらっ!治してもらったくせに、恩を仇で返すな!」


 マキが無理やりフランシーヌさんを剥がそうとする。そして強引に割り込んで自分が私と抱きあうようにした。


「妹様!そこはあなたのものではありません!」


「ジャッキーの正式な相棒である私に譲れ!」


 チーム・ジャッキーが総出でリングに上がり、まさかの大乱闘が始まった。巻き込まれた私も逃げられず、もみくちゃにされていた。



「コラ!まだ今日の大会は閉めていないぞ!リング上でアホなケンカをするな……ぐわっ!」


「王様がやられたぞ!やつらを止めろ!」


 あまりにも大勢でリングに上がったせいで、ついに重さに耐えきれず………。



「うわっ!?」 「ギャ―――ッ!」 「ああっ!」


 底が抜けて私たちは穴に落ちた。観客席は大爆笑で、笑い者になってしまった。しかも私はその中心人物だ。大会二日目の終わり方は最悪だった。




(ジャクリーン・ビューティ……早く戦いたい)

 横浜日本一

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