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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第三章 スーパー闘技大会編
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サキーの目覚めの巻

 ユミさんがサキーを説得して棄権するよう促す。ところが『勇者と大聖女が手を組み一つとなる』、これが思わぬ展開を呼んだ。


「マキとユミさんが……確かにこの先、王国を守る中心はこの二人になりそうだね」


「闘魂軍の連中やゲンキの息子どもでは頼りなかったからな。彼女なら安心だ」


 私とお父さんの反応が普通だろう。ところが何を深読みしたのか、リングでは………。



「……ユミちゃん、どういうことかな?」


「キ、キヨ?なぜリングに上がってきた?まだ試合は終わっていないぞ」


「勇者の力があれば何でも手に入るって言ってたけど……まさか私を捨てて大聖女様と結ばれたいと思っていたなんてね………ふふふふふふ」


 一つになるという言葉の意味を間違っていた。怒るでも悲しむでもなく、不気味に笑うキヨさんを見て、ユミさんは青ざめていた。


「ち、違う!大聖女は確かに美しいが……」


「もう喋らなくていいよ。大事なことをもう一度ちゃんと教えてあげないとね……うふふふふ」


 

 キヨさんだけではなかった。リング上でもう一人、こちらは怒りの炎を燃やしていた。


「ふざけるな……大聖女と一つになるだと?この私が黙って認めると思っているのか!」


 サキーが立ち上がる。失いかけていた戦意が復活したどころか、試合前以上に溢れている。


「あいつ……ジャッキーの隣りにいるのは私だ!お前なんかに渡すものか――――――っ!!」


「え?ジャッキー?」 「マキナ様じゃないの?」


 ユミさんとキヨさんは首を傾げた。サキーが『ジャッキーこそ真の大聖女だ』と信じているのを知らなかったからだ。もちろんサキーも、どこかで誰かが『大聖女』と口にすれば、それはマキのことを話しているのだと考える。それくらいの常識はある。


 それならなぜ今は私のことだと思ったのだろう。あとで本人に聞いてみないとわからない。戦いのダメージが大きくて頭が働かなかったのかもしれない。




(私の夢を実現させるだと?ジャッキーと二人で王国を守り、幸せな結婚生活を楽しむという未来………)

 

 問題となった言葉の前後にもサキーを勘違いさせる要素があった。剣聖になれると信じていた時の夢を、サキーは訓練の休憩中にユミさんに話していた。だから全てを奪われると思い込んでしまったようだ。ところがユミさんはそこまで考えていたわけではなく、サキーを降参させたかっただけだった。


「私だ!私があいつを守り、一つになってみせる!オオオオオオオ―――――――――!!」



 サキーが叫んだ、その瞬間だった。


「な、なんだあの光はっ!?」


「大聖女姉妹の光と似ている!しかし金色だ!」


 全身から放たれる眩しい光。サキーの髪の色と同じ金の光でリングが見えなくなった。



「ジャッキーはお前には……いや、他の誰にも譲らない!トア――――――!!」


「………この力!まさか………」


 突然の出来事にユミさんの防御が遅れた。しかもサキーの一振りは、これまでとは速さや重さ……全てが違った。避けることも受けることも許されず、ユミさんの右肩が斬られた。


「ぐっ………」


『逆転の一撃――――――っ!もしリングでの戦いでなければユミの右腕は落とされていたでしょう!』


 試合用の剣だったからこの程度で済んだ。おそらく骨を砕かれて剣を持てないほどのダメージなのに『この程度』と表現したのは、それだけサキーの攻撃が凄まじかったからだ。



「その力……隠していたわけではないようだな」


「ああ。しかし私の中に眠っていたのは確かだ。ジャッキーへの思いが生み出す力は無限だ!」


(サキー………!)


 そう言われると私も単純だから、胸がどきどきしてしまう。とても強く愛されているというのはやっぱり嬉しい。



「いや、それはおそらく……」


「話は終わりだ!フンッ!」


 サキーが前に出た。のんびりしていると相手が回復するだけでなく、この力が消えてしまうかもしれない。一気に決めるのは当然の選択だ。


「……そうだな!今は勝負に専念だ!」


 何かを言いかけたユミさんは剣を左手に持ち替えてサキーを迎え撃とうとした。左になっても威力や精度が落ちないのはお城での訓練ですでに確認済みだ。



「オオオオオオオ―――――――――ッ!!」


「くっ!『混世救出剣』――――――っ!」


 サキーは全力を剣に乗せ、ユミさんは最大の必殺技を使う。決着の時が迫っていた。



「ムムッ!」


「ぐぐ……どうにか止めたぞ!これなら……」


 サキーの剣が止められた。しかしユミさんもそれが精一杯で、どちらが押し切るのかわからない。残った体力や元々持っているパワー、勝利への執念が最後の一押しに繋がるとこの場の皆が思ったはずだ。



 でも私は違う。サキーが勝つために必要なものは……。


「サキ―――!頑張れ――――――っ!」


「……ジャッキー!オオオオオオオ!」


 私の声援がサキーを強くする。決して思い上がりではない。私もみんなの愛がたっぷり詰まった応援のおかげでここまできた。圧倒的な力の差を覆し、眠っていた素質を目覚めさせる。




「な………うわあああっ!!」


「やった―――っ!サキーが勝った!」


 ユミさんのガードを破り、リング下まで吹き飛ばした。起き上がってくる気配はない。


「ユ……ユミちゃん!」


 キヨさんがすぐにユミさんのもとに走り治癒魔法を唱えた。第三者の介入があったので、これにて勝負ありだ。



『試合終了――――――っ!サキーの鮮やかな逆転勝ち!異世界からの転移者の進撃を止め、準決勝進出を決めた――――――っ!!』


 サキーの光は消え、元通りになっていた。大歓声に応えて手を振っていたけど、視線は終始私から逸れることがなかった。


「はぁ……はぁ……ん、勇者ユミ………」


「私の負けだ………普通の戦いだったら私は最後の一撃で死んでいた。敗北の悔しさよりも命がある喜びを噛みしめるしかないな」


 キヨさんの魔法で回復し、すでに傷は癒えていた。勝利寸前のところから負けたというのに、爽やかにサキーを称えている。



「格下の私に不覚を取ったんだ。泣き叫んで悲しむものだと思っていたが……」


「フフ……格下ならそうだろう。しかしそれは違う。私たちの格は同じだ………だったら経験の差でお前が勝つのは必然!この負けは仕方ない」


 上でも下でもなく同格、ユミさんがそう語る理由は驚きのものだった。


 

「サキー……お前は『勇者』だ!その力を持つ私にはわかる!勇者の称号を受けるべき人間なんだ!」


「………わ、私が勇者だと?まさか………」


 大闘技場は騒然とした。二回戦の第4試合に入る前に、サキーを正式に調べることになった。

 雨天中止。勝ち切る覚悟・最終章の完結は明日以降となりました。この休みの間に「ソフトバンクなんか中日より弱い」なんて余計なことを言うと負けてしまうので、選手たちには黙っていてもらいたいところです。

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