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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第三章 スーパー闘技大会編
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リョウオンの正体の巻

 デスマッチを制して準決勝進出を決めた。ここからは明日以降戦うかもしれない相手たちをじっくり研究する時間だ。


「あんな死闘の直後ですし、観戦はぼくたちに任せて少し横になったほうが……」


「心配してくれてありがとう。でも自分の目で見ておきたいんだ」


 昨日とは違い、真面目に試合を見る。死闘の直後だから感覚が研ぎ澄まされていて、今ならライバルの武器や弱点が普段以上にわかりそうな気がした。



「その前に水でも飲もうかな……んっ!?」


 一気に飲み干したら、のどが焼けるように熱くなった。頭もくらくらし始めてきた。


「おい、ここにあった酒を知らないか?あれはとても強いやつなんだ、誰かが間違えて飲んだらどうする!」


「知らないよ……あれ?お姉ちゃん、やっぱり疲れちゃった?無理しないで休もうよ」


 私がやる気を出すとおかしなことになるのはもはやお約束だ。結局細かい研究はみんなにお願いすることになった。






『休憩時間中にリングの清掃やマットの交換が終了、二回戦第2試合が予定通り始まります』


 第2試合はエーベルさんとリョウオンの戦いだ。どんな展開になるか全く予想できない対決を楽しみにしていたけど、私はしばらくダウンだ。


『先に入ってきたのはエーベル!数百年前の大聖女が転生し、その時の力を取り戻しつつあるとの噂!本人にその気はないようですが、優勝すれば真の大聖女は誰なのかという議論が再燃しそうです!』


 マキに代わって大聖女になるつもりはなくても、周りがマキの仕事や権力をエーベルさんに与えることはありえる。


 ただしそうなったとしてもマキは気にしないだろう。自分の名声には元から興味がなく、むしろ私と過ごす時間が増えてうれしいと喜ぶはずだ。



『そして……出てきました!この不気味な青白いオーラ……やはり彼は死者と自在に交友を持てるのか!?それとも彼自身が冥界の住人なのか!?リョウオンがゆっくりと、ゆっくりとリングへ歩いています!』


 リョウオンからは生命力を感じない。真っ白な肌、ぼさぼさの髪、穴がたくさん開いている服……ついさっきまでお墓の中で寝ていたと言われても納得の外見だ。


「生きている人間なのか?それともアンデッド?」


「あれは死体で、どこかに本体が隠れているのかもしれない。死体を操る能力を持っているやつもいるらしいしな」


 観客たちの意見は割れていた。100人いれば100通りの『リョウオンの正体』があり、混乱と恐怖に包まれているのがわかる。



『場内の雰囲気を支配しているのはリョウオンか?大観衆が静まり返ってしまいました!』


「ムム……は、始めっ!」



 審判も怖がっている中で試合が始まった。しかしエーベルさんは冷静だった。


「……なるほど。あなたは人間ですね」


「………?」


「なぜわかった、という顔ですが……教えましょう。私の力ならゾンビや操られた死体を消滅させることができます。試しに使ってみましたが反応がない、つまりあなたはただの人間です」


 さすが先代大聖女だ。早速リョウオンの正体を見破り、どう戦えばいいかをはっきりさせた。背後に誰もいないのだから、普通に攻撃して倒せばいい。



「………!!」


『リョウオンが何もない空間に助けを求めた!ああっと!大量の骸骨が宙を舞っている――――――っ!!』


 リョウオンの配下なのか、そのへんの亡霊をかき集めたのか、とにかく数が多い。エーベルさんが一度に何体浄化できるかが勝負を分ける。


「あれくらいの量、ジャッキー様なら簡単に一掃できますね。滅びの村での活躍、格好よかったなぁ」


 あの時は私一人の力ではなかった。一対一の戦いにこれだけ仲間を連れてこられたら、私なら打つ手がない。



「……ふむ………」


『どうしたエーベル!骸骨たちを追い払わないと集中攻撃を食らってしまうぞ!』


 エーベルさんに動きはない。骸骨軍団も様子を見ているのか、まだ動かない。すると、


「……タァッ!!」


『な、なんと!リョウオン自ら動いた!骸骨に命令を出すものと思いきや、攻撃を仕掛けたのはリョウオンだ!』


 エーベルさんを足から崩そうとキックを放ってきた。まさかの肉弾戦だ。ここから試合がどうなるのかますますわからなくなったと思っていたのに、意外と決着は早かった。



「………ちっ!避けられたか!」


『エーベル余裕を持って回避!突然の攻撃でしたが、まるでこうくるとわかっていたかのようです!』


 心を読んだ……わけではなかった。実はもっと単純な話だった。


「あなたの戦術は面白くありません。その骸骨たちは魔法によるただの幻……敵の注意をそちらに向ける役目しかないのでしょう?」


「うっ……な、何を馬鹿な!」


「相手が悪かったですね。かつて大聖女だった私なら簡単に見分けがつきます。あなたの見た目や雰囲気も、冥界と関わりがあると勘違いさせるための演出!あなたの正体は奇術師、それ以上もそれ以下もない!」


 真っ白な肌や服、亡霊と話している仕草も全てが演技だったのだから驚いた。恐怖で敵の戦意を喪失させたり、幻に気を取られているうちに直接攻撃で攻めるのがリョウオンという人間だと明らかになった。



「さて……次は私の番ですね。かつての力はまだありませんが、これだけあればあなたを倒すには十分!」


『ついに伝説の大聖女が……注目しましょう!』


 前世では最上位魔法と呼ばれるレベルの高い魔法を操り、世界に平和をもたらしたと言われている。その時の魔法は約500年経った今でも受け継がれ、最前線で使われているほどだ。


「どんな魔法が見れるのでしょうか!」


「マキナ様より上だったりして……」


 私を含めた皆の期待は、想定外の形で裏切られた。




「どりゃ――――――っ!」


「グヘェアッ!」


 高く抱え上げ、乱暴に地面に落とした。それだけでも大ダメージなのに、攻撃の手を緩めない。


『これは拷問だ!リョウオンの身体がサソリのように反っている!激痛と呼吸困難の二重苦だっ!』



 エーベルさんは打撃、投げ技、関節を痛めつける技を次々と出していく。リョウオンはもう服以上にぼろぼろだ。


「イメージしていたのと違うような気が……」


「聖なる魔法や慈愛の心で世界を一つにしたと聞きましたが、あれでは………」


 強いんだけど、何かが違う。違いすぎている。


「ちょっと前にお姉ちゃんと二人でデートした時……500年前のことなんだからどこまでほんとうかわからないって話したよね、わたし」


「うん。脚色されてるかもって私も言ったよ。でもここまで違うとは思わなかったよ」




『リョウオンに抵抗する力は残っていない!無理やり立たせてその脇の下に自らの頭を入れ……足を大きく振り上げた!』


「ぐあっ………!」


『背中から地面に叩きつけられたリョウオン、後頭部を強打したか動けない―――っ!あっと、ここで審判が止めた!試合終了、エーベルの勝利!』


 この技がエーベルさんの必殺技か。準決勝で当たる確率は三分の一、対策を考えておこう。

 リョウオン……怨霊。小澤さん。


 サソリのように反らせる……スコーピオン・デスロック


 エーベルの必殺技……EVIL



 正義超人DeNA、ついに待望の初勝利!下品な悪行超人を退治してくれ!

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