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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第三章 スーパー闘技大会編
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刻まれる傷跡の巻

『あ―――――――――っ!!キョーエンの狂ったダイブが炸裂――――――っ!!そのまま押さえ込む!』


「ワン!ツー!スリ………」


 限りなくカウント3に近いところでキョーエンを押しのけた。痛みのおかげで気を失わなかった。



「……あれを返してくるか………」


『ジャクリーンはまだ死なず!試合続行!しかし両者血まみれ、いつ倒れてもおかしくありません!』


 互いに苦しい。ただしキョーエンの闘志や戦意を奪うことは不可能に近いから、強力な一撃で試合を終わらせるしか私に勝ち目はない。


「ジャッキー様!無理しないでください!」


「ジャッキー!家のことなら気にするな!厳しかったらギブアップしろっ!」


 血に染まる私を見て、棄権を勧める声が飛ぶ。それでも私は楽な道に甘えようとしなかった。



「生きて帰るまでが戦い、その通りですね。私には大事な人がたくさん待っている………」


「そうみたいだな。しかしお前の目は『これ以上傷つく前に試合をやめます』とは言ってない。むしろまだまだやりたいと受け取ったぜ!」


 立ち上がった私はガラス棒を持つ。キョーエンもすでにガラス棒を手にしていて、同じタイミングで振り下ろした。


『まるで剣士同士の戦いだ!しかしこれはガラス、当たった瞬間に砕け散る!そのまま両者次の棒を振る!やはりぶつかって互いの頭に降ってきた!』


 何度もガラスの雨が降る。いまさらこの程度で動きは止めない。次の棒を取りにいこうとしたら、キョーエンに腕を掴まれた。



「マットはもう破片の海だ……これで決める!俺っちの真の必殺技で!」


「………!」


 前屈みになった私の両腕を掴んで、交差させてきた。そのまま持ち上げる気だ。



『この構えは……異世界から伝わった『パイルドライバー』の派生技だ!首からマットに落とす危険な技、決まれば勝負は……』


「ふんぬううぅっ!!」


「ぐっ……粘るか!」 

 

 上げられたら終わりだ。敗北は当然として、落ち方が悪ければ首や頭の骨が折れて即死、マキの治癒魔法も間に合わないかもしれない。



(生きてみんなのところに帰るんだ!)


 私の命を守るために、そしてキョーエンを人殺しにしないために、絶対にこの技を食らうわけにはいかない。


「うおおおお―――――――――っ!!」


「わっ!?ま、眩しっ!」


 私の身体が突然発光し、驚いたキョーエンは技を解いた。狙って発動できるものではないから、偶然最高のタイミングで光っただけだ。



『絶体絶命のピンチを脱出、ジャクリーンが反撃だ!』


「こいつ!パワーが全然違う!」


 キョーエンを逆さにして抱え上げた。この力のおかげで全く重さを感じなかった。


「ふぬう〜〜〜〜〜〜っ!!」


『抱えたまま……背中から落とした――――――っ!!』


 ガラスが散らばるマットに叩きつけた。勢いで私も背中が地面に着いて、頭や首に破片が刺さったけど今さら大した痛みではない。



「うげっ………!」


『決まった――――――っ!『ブレーンバスター』が炸裂した――――――っ!キョーエンは動けない!』


「よ……よし……!やった!」


 放っておくと回復される。すぐに押さえ込んだ。



「ワン!ツー………」


「ぐう〜〜〜っ!」


 足をばたばたさせて抵抗してくる。肩だけは浮かせないように必死で押さえた。



「……スリーッ!!」


 審判のハーブが力強くマットを叩いた。よく見たらハーブの腕や手もガラスが防具を貫通して傷だらけだった。

 


『決着だ――――――っ!!両者大流血の一戦、勝ったのはジャクリーン・ビューティ!キョーエンの必殺技を寸前で回避、やはり異世界から伝わる大技ブレーンバスターで仕留めました!』


「はぁ…はぁ……勝った………」


 勝ち名乗りを受けて、試合が終わったと実感したら興奮が収まってきた。それと同時に激痛が全身を襲った。


(これが……キョーエンの求めていた………)


 この痛みもまた生きている証。命があることにこれまでより強く感謝した。



「フッ……やられたな。楽しかったよ。お前との戦いは刺激的なものになるという予感に狂いはなかった」


「キョーエン……」


「しかし負けたのは悔しいよ。戦うからには勝ちたかったからな。それにまだ使っていない道具もたくさんある。これで終わりじゃ寂しいからよ、またどこかで遊ぼうや!」


 がっちりと握手をした。試合中は互いの頭をガラス棒で割ろうとしていても、戦いが終われば恨みや憎しみはない。それどころか年齢や性別、種族すら違っても友情を築けるのがリングでの戦いの素晴らしいところだ。



『聖女隊が二人を回復しますが……ジャクリーンに比べてキョーエンは明らかに治るスピードが遅い!残ってしまいそうな傷もあります!』


 細かい傷跡は数えたらきりがないほどだ。私も戦いを続けたらいずれはこんな身体になるのだろうか。


「俺っちに勝ったんだ、優勝しろよ!」


「はい!」



 キョーエンは無数の傷を誇りに思っている。その理由を教えてくれたのは、リングの外にいた小さな女の子だった。キョーエンはその子を抱きしめてから、手を繋いで歩いていった。


「パパ……負けちゃったの?」


「ああ。弱くてごめんな。だがベスト8だ、この賞金でしばらくはぜいたくできるぞ!」


 自分が守るべき存在のために戦い続け、必ず生きて帰る。それでいて戦いを楽しむ中で刻まれた傷なら、恥ずかしいはずがない。堂々と胸を張れる勲章だった。


 私もマキやビューティ家、私を愛してくれるみんなのために目立った傷が残るとしても落ち込む必要はないと教えられた。去っていくキョーエンにリング上から一礼した。





「ジャッキー様!おめでとうございます!」


「どうなるかと思いましたが……感動しました!」


 私もみんなのところに戻った。激しい流血戦になったから、見ているほうもかなり疲れていた。


「ジャクリーン様の美しいお顔や皮膚が傷つき汚れるのはとても辛い光景でした。ご無事でほんとうによかった……」


「美しくはないけど、もう全部回復……」


 完全に治ったと思っていたら、指からガラスが出てきた。私の身体にも消えない戦いの傷が増えていくのだろうと思わせる切り傷だった。



「あらら、あの聖女たち……数が多いだけで全く役に立たないね。さすがゴミのかき集めだよ。わたしが治してあげるね、えいっ」


「あっ………」


 体内に残っていたとても小さな破片が一つ残らず取り除かれ、失われていた血や気力まで完璧に元通りになった。世界一の治癒能力を持つマキがそばにいる限り、私の身体に傷が残ることはなさそうだ。

 もう一度横浜に帰りたかった………(横浜DeNAベイスターズ、敵地福岡にて散るっ!!)


 ↑の未来しかありえないように思えますが、奇跡の逆転ファイトを見せてもらいたいものです。

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