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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第三章 スーパー闘技大会編
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ガラス棒デスマッチの巻

 私とキョーエンの一戦は、王様の陰謀によりデスマッチに決まった。反則と場外カウントがなく、武器も使い放題の危険な戦いだ。


「道具が散らばったり血がたくさん流れたりするだろうからな、この試合は休憩時間前になったぞ」


「えっ!?じゃあもうそろそろ……」


 のんびりしている場合ではなくなった。私も急いで使えそうな武器を用意しないと。


「えっと、この椅子と、花瓶と……」


「こんなふわふわな柔らかい椅子、武器にならないですよ!花瓶はまあ……いけるかもしれませんね」


 慌てているせいで正常な判断ができない。そもそも今からキョーエンと戦えるほどの武器を揃えるのは無理だ。



「……3カウントのルールはあるのですから、当初の作戦通り開始直後に勝負を決めたらよいのでは?」


「あ…ああっ!そうだよ、さすがマユ!」


 キョーエンは私がデスマッチをやりたがっていると勘違いしている。普通の試合よりも速攻が決まりやすいかもしれない。


「いざとなったら相手の武器を奪っちゃえばいいんだよ。許可なんかいらないよ」


 速攻での決着が失敗に終わっても、キョーエンが持参した武器を勝手に使えばいいとマキは言う。遠くに捨てるか壊してしまって、二人とも道具を使えないようにしてもよさそうだ。



「しかしゲンキのやつ……伝統のスーパー闘技大会で二日も続けてデスマッチをやるとは信じられん。そこまでしてジャッキーを、ビューティ家を破滅させたいのか」


「昨日のパーティーで派手にやりすぎちゃったかもしれないわ。あなたとマキがあいつを失神するまで痛めつけてしまった……しかし爽快だったわ!おほほほ!」


 お父さんとお母さんは大笑いしている。王様は舌を出して失神、大勢の参加者の前で醜態を晒した。ビューティ家への恨みは最高潮に達しているだろう。


「明日以降も要注意だな。何をしてくるかわからん」


「まずは今日だよ。生きて帰らないと明日はない」


 勝ち負けはともかく、まずは生きてリングを下りる。これを一番の目標にしよう。






『ここからはスーパー闘技大会の決勝トーナメント二回戦となります!まずは第1試合、ジャクリーン・ビューティ対キョーエン!デスマッチルールで行われます!』


 結局私は何も持たずに入場した。デスマッチでは防具の使用が禁止されていて、絶対防御の鎧は装備していない。あれがあればどんな刃物も怖くなかった。


「へへへ……楽しもうぜ!」


「そ、そうですね」


 キョーエンはやる気満々だ。一回戦に続き、酒瓶やガラスなどを大量に用意している。痛そうな道具の数々を使われる前に勝負を決めたい。


 

「ジャッキー様!どうかご無事で!」


「あの作戦を忘れずに!」


 リングのそばは危険だからラームたちも遠くからの観戦だ。そしてリング下が危なくなるような状況になる前に試合を決めるのが私の狙いだった。



「では……始め!」


『デスマッチが始まりました!この試合だけ審判はハーブに代わっています!』


 ついに始まってしまった。キョーエンはいきなり襲いかかることはなく、拳を前に突き出した。


「何でもありだからこそ……正々堂々やろうや!ワス!」


「よ、よろしくお願いします」


『リングの中央で両者拳を合わせる!好勝負が期待できそうです!』


 熱戦になりそうな空気、これを利用した。



「……うおっ!?」


 キョーエンの無防備な腕を取り、そのまま倒して3カウントを狙った。


「ワン!ツー!ス………」


『腕が上がった!ジャクリーンの奇襲失敗!』


 あと少しだった。押さえ込む力が弱かった。



「フフフ……愚直な戦い方が得意だと思ったが……こんな悪戯もしてくるんだな」


 私のせこい作戦に怒るかと思ったら、キョーエンは笑っていた。戦いを愛する者としていろんなやり方を尊重しているのか、それともただの冗談だと思っているのか。どちらにせよ、怒りの力でパワーアップという展開にならなくてよかった。


「あわや試合が始まって数秒で終わり……刺激をありがとうよ。その礼に俺っちからもプレゼントをやるよ!」


「いや、プレゼントなんて………えっ?」


 キョーエンは怒っていない。それでも狂人の中の狂人だ。てきぱきと準備を進め、あっという間にリングがガラスの棒で囲まれた。



『これはすごい光景だ!何十本も長いガラス棒がロープに固定されている!これではロープで跳ね返ることができません!』


「少しでも勢いがついた状態でぶつかったらパリンだ!背中にガラスの破片が突き刺さる!それがリングにも散らばるから、楽しいことになるぜ!」


「………た、楽しい……ですか?」


 キョーエンや昨日のアブコは何度もこれを使って戦っているに違いない。こんな戦いを続けていたら、治癒魔法でも完治しない傷だらけの身体になる。



「ロープはいいが角の柱が淋しいな。すまん、もうちょっとだけ待ってくれ!」


 キョーエンはリングを下りると、自分の荷物から四枚の木の板を取り出し、リング内に投げ入れた。


「ただの大きな薄い板……あっ!?」


 尖った石の刃がついていた。服ぐらいでは防げるわけもなく、肉が切り裂かれる。


『逃げ場なし!ロープも柱もこれでは近寄れません!リング中央で戦うことになるでしょう』


 傷つくのが怖くないキョーエンは大胆に攻めてくるだろう。私もどこかで勇気を振り絞って勝負に出ないと負ける。



「さあ始めようぜ!血湧き肉躍る……いや、血が吹き出し肉が抉れる戦いをな!」


「うわっ!あ、危なっ!」


 キョーエンに背中を押され、ロープに立てられたガラス棒一直線……ここは間一髪足が止まった。


「ふ―――っ………助かった」


「安心している暇はないぜ――――――っ!」


 ほっとしたのも束の間、背後から飛んできた。私に体当りしてガラス棒へ押し込む気だ。



「よっ!」


「うおおおっ!?」


 寸前で避けた。かなり勢いをつけていたようで、止まれなかったキョーエンは胸からガラス棒に突っ込んでいった。上半身は何も着ていない。


「ぐおっ!!」


 何本かガラスが割れて、マットに飛び散った。



『自爆!ガラス棒最初の犠牲者はキョーエンだ!』


「ハハハ……面白い!面白くなってきた!」


 胸から出血していた。刺さったままの破片もある。


「ここからまだまだ熱くなるぜ!」

 九回裏まで全く見せ場なし、最後は追いつかない程度に反撃して負け………昔の横浜を思い出すような負け方でした。まあ、こうなると思っていましたよ。

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