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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第三章 スーパー闘技大会編
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薄っぺらな愛の崩壊の巻

『デスマッチのせいで散らかったリングの片づけと清掃が終わり、いよいよ大会初日の最終戦となりました!』


 長い一日が終わろうとしている。これで二回戦に進む八人が決まる。



『おおっ、出てきました!シューター・アントニオ王子です!ものすごい歓声、特に若い女性たちからの人気は断然ナンバーワン!』


「シューター!シューター!」


「この声援がボクを強くする……これからジェイピー王国の中心に立つのは勇者でもなければあのダメ人間でもない……ボクについてきてくれ、みんな!」


 第三王子でありながら、次期国王の座が一番近いと噂されるシューター王子だ。この大会で好成績を残し、もっと支持を集めたいところだろう。優勝なんかしたら一気に後継者争いは決着する。



「あの男……私たちとのチーム戦で負けてから今日まで厳しい修行を続けてきたようだ。成長スピードは勇者と同じくらい速い!」


「そういえばサキーさん、王子に迫られていましたね。もしかしたら王妃になるチャンスかもしれませんよ……心変わりしましたか?」


「ライバルを減らしたいのだろうが残念だったな。私が他の誰かに気移りすることは絶対にない」


 サキーは私から離れるどころかしっかりと手を握る。そしてみんなに聞こえるように宣言した。



「優勝したら、その場でジャッキーとの結婚を発表するぞ!超満員の観客席が総立ちで私たちを祝福するんだ!」


「え………えっ?」


 サキーの野望が明らかになった。マキたちを出し抜くには確かにこれ以上ない舞台だ。大勢が証人となり、私に逃げ場はなくなる。


「優勝賞金は全額ビューティ家に渡す。それなら誰も文句は言えないだろう!」


 すでに和解したとはいえ、サキーは自分の家に戻る気はない。それならビューティ家に入るのもわかる。



「……ありがたい!ジャッキー、もし誰か一人に絞ろうと思っていてもなかなか決まらないのならサキー君……いや、サキーさんにするんだ!」


「ええ!これで我が家のピンチも……おっと、なんでもないわ、オホホホホ!」


 なんとわかりやすい両親だ。ベスト8に入った賞金で、どうにか家を手放す事態は避けられそうだ。しかしそれではその場凌ぎに過ぎず、ビューティ家を再び安定させるためにはもっと必要だ。私が厳しそうだからサキーに期待したということか。


(……こうなったら意地でもサキーより上に………)


 ビューティ家を救うのは長女の私だ。次の相手がキョーエンだろうがユミさんだろうが、絶対に勝つぞ。




『遅れてマーキュリーも入場!シューター王子とは正反対に、全く愛想を振りまくことなく一直線にリングへ向かいます!』


「……………」


 このマーキュリーという女の人については、名前以外の全てが不明だ。目まで隠れるような長髪で、最終予選のレースでは先頭でゴールを駆け抜けている。


「予選を突破してしかも最後は1着、実力があるのは疑いようがないね」


「しかしシューター王子に勝てるかどうか……」


 シューター王子の得意技や試合の進め方についてもよくわかっていない。前回は試合開始直後の決着だった。この戦いは要チェックだ。




『今日最後の試合、まずは互いに歩み寄って握手……おや、シューター王子がマーキュリーを手で制した!そこから動くなということでしょうが、これは……』


 マーキュリーが止まると、シューター王子は何かを拾った。掃除は完璧ではなく、小さなガラスの破片が一つだけ残っていた。


「危ないところだった。こんなものが転がっていたらキミの綺麗な肌が傷つくかもしれない。スタッフたちを叱っておかなくては」


「……………」


「キミは肌だけでなく全てが美しい。ボクはすっかり夢中になってしまったよ!キミを攻撃するのは苦しい……せめて短い時間でなるべく痛くしないように頑張るよ」


 シューター王子は誰に対してもこのスタイルだ。愛情を安売りしているようにも見えるけど、彼の支持率を考えたら私の感覚は古いのかもしれない。


(何人も結婚相手の候補がいる私が言えたことでもないしな………一番だめなのは私だよ)

 



 マーキュリーはほとんど表情を変えず、声も小さい。感情を表に出さないのか、そもそも何も感じていないのか。


「………あなたのそれは………愛?」


 だからこの言葉もどんな気持ちで発したものなのか、読み取るのはとても難しい。シューター王子も即答できずにいた。

 

「確かめさせてもらう……あなたの愛が本物か」


「あ……ああ。ボクの愛を味わってほしい」


 謎だらけのマーキュリーに不気味さを覚えながらも、シューター王子は前を向いた。戦いが終わってからじっくりと真意を尋ね、親しくなればいいと思っていたのだろう。




「試合開始っ!!」


「速攻で終わらせる……ふんっ!」 


 シューター王子が飛び蹴りを放つ。それをマーキュリーはじっと見つめ、ぽつりと呟いた。


「……あなたの愛は………この程度か」


「な、なにっ!?」


 そのままあっさりと受け止めてしまった。腕と脇で足を固定し、シューター王子の動きを封じる。見た目からは予想できなかったマーキュリーのパワーに場内は騒然とした。



「薄い、脆い、弱い………失望した」


「うっ………ぐああっ!!」

 

 マーキュリーは躊躇なくシューター王子の右足をへし折った。そして乱暴に地面に倒す。


「もうあなたに用はない。不要」


「……………!!」


 ずっと無表情のまま、冷たく言い放った。






「うわ――――――っ!!」 「きゃあああ」


『やめろっ!早く試合を止めろっ!』


 観客たちだけでなく、王様も悲鳴に近い叫び声を上げる。それも当然のことで、シューター王子が完全に破壊されていた。腕と足は全て折られ、顔面も酷いことになっている。


「……信じられないほど無慈悲、どこまでも残虐!」


「あのままじゃ死んじゃうよ!」


 淡々と攻撃を続けているマーキュリー。魔力を纏ったパンチや踏みつけで骨を折り、折ったところをさらに攻撃することで砕いていった。デスマッチよりも恐ろしい光景だ。



「待て!これ以上攻撃すると反則負けにするぞ!」


「………それはよくない」


 審判が決死の覚悟で割って入り、ようやく試合が終わった。マーキュリーの勝利を称える拍手や歓声はなく、大闘技場は凍りついていた。



「ぐがっ………」


(……彼は本物ではなかった。やはり………)


「………?」


 マーキュリーが私を見ていると思ったけど、きっと気のせいだ。目の前の対戦相手への興味すらなさそうなのに、遠くに座っている私を意識するはずがない。偶然目が合っただけだ。

 プロレス界でのベビーに対するブーイングは大物の証か、それともただの嫌われ者なのか。ブーイングされているうちが華という意見もあるが、なぜその場面でブーイングが飛んだのか、意味をしっかり考えるべき。

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