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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第三章 スーパー闘技大会編
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起死回生の奇策の巻

 若返ったガーバアはとても俊敏で、驚いている私の隙を見逃さなかった。


「テヤ――――――ッ!!」


 自らロープに走り、勢いをつけていく。跳ね返るごとに速くなって、目で追うのが難しくなっていった。


「えいっ!」


『ジャクリーン迎撃、しかし空振り!ガーバアの動きについていけない!』


 マキシーが予想していた通り、ガーバアはスピードとテクニックがすごい。でもお婆さんになって出てきたり若くなったりの衝撃が強くて、事前に考えていた戦術が全部頭から抜けていた。



「あぐっ!」


「まだまだ!ここからが本番だ!」


『体当たり炸裂!しかしガーバアは休まない!』



 促しても全く動かないさっきまでとは違い、素早く角の柱に上がった。当然ロープ渡りなんてふざけたことはせず、砲弾のように突っ込んできた。


「がっ………」


『ガーバアの頭が腹に突き刺さった!流れるような攻撃!』


 圧倒的なスピードが技に威力を与えている。速いし重い、弱点のない強敵だ。



「げほっ…げほっ!」


『息をするのも苦しそうなジャクリーン!そこにガーバアが被さってカウントが入る!』


 追い詰められたけどまだ動ける。ここを凌いで立て直そう。


「ワン!ツー!ス………」


『腕が上がった!カウントツー!』


 一度呼吸を整えるために、転がりながらリングの外に出た。ずっと外にいると審判がカウントを数え始め、20カウント以内に戻らないと負けになる。


 もちろんそこまでリングを離れるつもりはない。悪い流れを変えることができれば……。 



「トゥア――――――!!」


「……うわっ!!」


 その僅かな時間すら与えてくれなかった。リングの下でのんびりしていた私を狙ってガーバアが飛んできた。一番上のロープとその下のロープの間、とても狭いところをくぐり抜けて体当たりしてきた。



「ううっ………」


「……決まったな。リングから出ていれば安全だと思ったか?その甘い考えがあなたの敗因だ」


 いきなりの攻撃に防御が間に合わず、大ダメージを受けた。ガーバアはリングに戻り、私は倒れたままだ。場外カウントが数え始められた。



「ワン!ツー!スリー!」


「ううっ………このまま戻っても………」


 作戦が思いつかない。一方的にやられるだけだ。


「ジャッキー様!諦めないでください!」


「あいつがまた婆さんに戻れば……」


 ガーバアの魔法がどんな仕組みなのかわからない。私の隠された能力、全ての魔法を無効化する力は全く発動する気配がない。マキとの戦い以降、練習しても一度も出せなかった。


 

 私に選べるのは負け方だけなのか。無力さを噛みしめながら下を向くと、私が蹴り飛ばした杖が落ちていた。


(………もしかしたら……)


 


「まだ痛い目に遭いたいとは……」


「……………」


『カウント18でジャクリーンがリングに戻りました!とどめを刺そうとガーバア突進!』


 ここで攻め切れば勝ちだと思ったか、一直線に向かってきた。私に最後のチャンスが訪れた。



「ほいっ」


 隠し持っていた杖を投げた。ガーバアからしたら、突然目の前に障害物が飛び出してきた形だ。


「うっ!おっとっと………」


 無視できず、それを反射的に右手で掴んだ。ガーバアに愛用の杖が戻った。


(これで駄目ならお手上げだ。でも………)


 この閃きに賭けた。それが大正解だった。




「お……おおお………」


 一瞬でガーバアがお婆さんに戻った。背中は丸くなって、全身がしわしわになった。足腰が震えているのをどうにか杖で支えていた。


「老いてる!また老いてる――――――っ!!」


「あいつの身体はどうなってるんだ!?」


 ガーバアではなく杖の力だ。私も老ける可能性があったから、杖を素手では握らないようにした。服越しに掴んで、直に触ったのは投げる一瞬だけだった。


(1秒か2秒だけ……とんでもない倦怠感と寒気がした

。あれは呪いの杖だ!)



 ほんの少しでも自分で体験したことで謎は解けた。もう試合を長引かせる必要はない。


「そりゃ――――――っ!!」


『ジャクリーンが軽々とガーバアを持ち上げた!老化したせいで形勢逆転!』


 杖を捨てられないように、片手はガーバアの右手を強く握っている。もう片方でガーバアの背中を支え、その手を離して落下し始めたところで上から押す。勢いをつけてマットに叩きつけた。



「ぐへぇっ!!」


「………こ、これはいかん!試合終了っ!!」


 たった一発で勝負は決まった。強力な武器と思われた雷の杖が、実はガーバアの弱点だった。



『第1試合決着!審判が試合を止めた!老婆に戻ったガーバア、やはり耐えきれなかった―――っ!』


「勝者……ジャクリーン・ビューティ!」


 真っ向から若いガーバアに勝つのではなく、お婆さんに戻して勝つという手を使った私に観客席は冷ややかだった。


「やったあ!かっこよかったよ、お姉ちゃん!」


「ジャッキー様最強!優勝確実!」


 もちろんチーム・ジャッキーはそんな空気などお構いなし、リングになだれ込んで大騒ぎだ。




「しかしどうしてこいつはこんな杖を持っていたんでしょうね。百害あって一利ないような……」


「わからない。明らかに呪いの杖……壊してあげたほうがいいのかな?マキなら呪いの力だけ取り除くこともできるんじゃない?」


 布で手を覆いながらガーバアの杖を取ろうとした。ところがそれは倒れる彼女の左手に阻まれた。


「ガーバア!」


「や……やめとくれ。この杖を失ったら……あたしは死んでしまうよ」


 むしろこれのせいで寿命を縮めているのではと私たちは不思議に思った。ガーバアはその疑問の答えをすぐに明かしてくれた。



「あたしは……あんたたちとそんなに年齢は変わらない。ただしすぐに老人になってしまう……寿命の短い種族なんだよ」


「じゃあ……ほんとうのガーバアさんはお婆さん……」


「……ところがそうとも言い切れない。若返りの魔法に成功したおかげで………この姿でいられる」


 複雑な事情があるようだ。杖をマットに置くと、ガーバアは再び若くなった。戦いの傷もすでに癒えていた。



「そのぶん負担も大きいから時々元の姿に戻らないと身体が崩壊しちゃうからね。杖を持っているうちはおばあちゃんになって魔力の回復、面倒だけど生きていくためには仕方がない」


「……それでも年老いた姿でマットに上がる意味はなかったのでは?実力ならあなたのほうが……」


「う〜ん……それはこっちの作戦ミスだね。油断させて杖で攻撃、いきなり若くなってびっくりしている間に速攻で決着を狙ったんだけど……策に溺れたよ」


 あっはっはとガーバアは笑う。そんなに後悔していないようで、私とがっちり握手をしてから去っていった。

 最弱レスラー候補に名前が挙がることも多いがばいじいちゃんですが、杖を失うと強くなるので除外です。ばってん×ぶらぶら、ゴージャス松野、RG、このまま市川あたりが最弱候補でしょう。しかし日本にプロレスラーはたくさんいるので、真の最弱を決めるのは最強を決めるよりも難しいと思われます。

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