ジャッキー流作戦会議の巻
私とサキーは辛うじて決勝トーナメントへ進み、惜しくも散ったマキシーはチーム・ジャッキーに合流した。
「こうなったらジャッキーを応援するぞ。あいつが勝てば二大会続けて勝利を譲った私の評価も上がる」
「譲った?冗談でしょう」
マキシーのことはみんなに任せておいて、私は勝ち進むことだけを考えよう。少しでもいい成績を残して、ビューティ家を救うんだ。
『選ばれし12人よ、よくぞ厳しい予選を突破した!だがここからが真のスタートだ。早速一回戦を始める……まずは抽選だ!』
組み合わせを決める抽選は毎日行われる。誰と戦うか当日にならないとわからないから、対策を練ることができる時間はとても短い。ラームたちに協力してもらうことも多くなりそうだ。
『同じ番号の者同士が戦い、何も書かれていない紙を引いた者はシードとなる!』
私が狙っているのは当然シードだ。戦わずに二回戦へ進めるのだから、皆がそこに入りたいと願っているはず。くじ運が試されていた。
『それでは本日の試合を発表する!まずは第1試合!ジャクリーン・ビューティ対ガーバア!』
「……………」
実力もなければ運もない。シードが取れないどころか開幕試合になってしまった。
「よろしくお願いします。いい試合をしましょう」
「は…はい」
ガーバアはやる気たっぷりだ。今日試合をする他の選手たちも熱く燃えていて、私に一番足りないものはやる気ではないかと考えさせられた。
第2試合はユミさん対オカ・チカ、第3試合はキョーエン対『アブコ』、第4試合はシューター王子対マーキュリーと決まった。
サキー、フランシーヌさん、エーベルさん、リョウオンがシードとなって、勝ち抜けとなった。
「戦わずに一回戦の勝者と同じ賞金だなんて羨ましいな……」
「私は一度戦っておきたかったけどな。それにベスト8で終わる気はない。賞金だってもっと稼いでやる」
サキーだけでなく、それ以外のシード選手たちもあまり喜んでいない。これが世界一を決める大会か。場違いすぎて帰りたくなってきた。
『ではリングの用意をする!選手たちはそれぞれの控室で待機するように!』
シードの四人を除き、私たちは用意された部屋に向かう。私の部屋には当然みんなもついてきた。
「ジャッキー!いよいよお前の伝説が始まるぞ!」
「ジャクリーン様の偉大さが世界に広まる……素晴らしい大会になることでしょう!」
とても広い豪華な部屋を与えられているから、これだけの大人数でも狭くなかった。賑やかで緊張がほぐれてきた。
「ところでガーバアというのはどんな選手なんだ?マキシー、君は何か知らないか?我々はジャッキーに夢中で、それ以外の選手は真剣に見ていなかったんだ」
「うーん……一次予選の大乱闘で戦っているのをちらっと見たけど、魔法は使っていなかった。パワーよりもスピードとテクニックが怖いと思うよ」
リング上では魔法の威力が大幅にダウンする。純粋な身体能力で勝負するタイプが一番手強い。魔力をほぼ完璧に防ぐローブや厚手の鎧といった家宝が役に立たない。
「そろそろ防具の力に頼らなくても勝てるようにならないと。文句なしの世界一になるためには」
「ジャッキー様……かっこいいです!そうです、ジャッキー様の最大の武器は勇気、努力、そして愛!」
愛と言った瞬間にラームはわたしに飛びつき、愛を表現する。素早い動きでマキたちを出し抜いた。
「へへへ……油断禁物ですよ、皆さん!ジャッキー様、ぼくの気持ちをたっぷり受け取ってください!」
「………」 「ぐ、ぐむ〜〜〜っ」
ラームを抱いたまま作戦会議続行、といきたかったけれどそれは許されなかった。
「こうなったらわたくしも!」 「えいっ!」
「うわあっ!」
結局全員で飛びついてくる。そのまま倒されてもみくちゃにされて、会議どころではなくなった。
「これも勝利のため!私たちの力をジャッキーさんに!」
「わたしからも愛をあげるっ!」
逆にいろいろ吸い取られているような………。
「………噂には聞いていたけど………すごいな。試合の直前なのにやりたい放題楽しんでいる」
マキシーは呆れ顔だ。しかもみんなではなく私に対して。どう見ても私が押し倒された側で、欲望のままに行動しているのはラームたちだ。
「ま……気をつけたほうがいい。ガーバアはまだ手の内を見せていない。予選では魔法を使う必要がなかっただけで、実は私と同じ魔女ということもありえる」
「怪力とは思えないのに魔玉をちゃんと投げたんですから、かなりの魔力があると考えることもできますね」
外見や雰囲気でどんな相手か決めつけず、慎重に試合を進めよう。ガーバアが何をしてきても冷静に対処して、心を乱されないことが大切だ。
「え………え?」
『いや………これはどうなっている!?』
冷静さを保つと決意したのに、試合が始まる前から動揺させられていた。とてもびっくりしている。
でもこれは仕方ないと思う。小心者の私だけではない。大闘技場にいる皆が驚き、戸惑っていた。リングにガーバアが現れず、謎のお婆さんが杖をつきながらやってきたからだ。
「あな……あなたは?」
「……あたし?あたしはガーバアじゃ」
「いやいやいや、あの人は若かったですけどあなたは違うでしょう!早く本人を連れてきてください!」
審判がお婆さんをリングから下ろそうとする。ところがそれを杖で制し、私の目の前に立った。
「あれはあたしの魔法じゃ。若返りの術でどうにかここまでこれたが魔力が切れてしまってのう………」
「え?ってことは………」
「これがあたしのほんとうの姿。この老いぼれがガーバアじゃよ」
おそらく80歳は超えている。他の種族の血が流れていない純粋な人間としては、史上最年長の決勝トーナメント進出者だろう。大記録の誕生だ。
ガーバア……元ネタは『がばいじいちゃん』。各団体のYouTubeチャンネルに試合動画があるので、ぜひご覧ください。素晴らしいプロレスラーです。




