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大聖女の姉  作者: 房一鳳凰
第三章 スーパー闘技大会編
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潰し合いの巻

『おっと、言っておくがジャクリーン・ビューティ。お前はちゃんと他のやつの札も集めるんだ。1000番の札一枚でいいのはそれ以外の選手の話だ』


 真っ先に殺されるのにその後の説明なんて無意味だ。それをわかっていて王様は得意気に話している。


「お、おいっ!ふざけるな!そんなふざけたルール、認められるかっ!!」


『嫌なら棄権させてもいいんだぞ、バーバ。大事な娘なのだろう?しかし今から大聖女様が飛び入りで参加する、それは認められないがね』


 お父さんたちの抗議も全く通じない。ビューティ家のお金が底をつく寸前の今、大会の賞金がなければ破滅だ。どんな厳しい条件の戦いでも棄権するわけにはいかなかった。



「い……妹様!このままでは……」


「お姉ちゃんなら勝てるよ。ゴミが束になって襲ってきたとしても傷一つつけられない」


 その中でマキだけが平然としていた。お菓子を食べる余裕まであるようだ。





『では……始めっ!!』


『いよいよ始まりました!四年に一度のスーパー闘技大会!まずは誰がジャクリーン・ビューティを殺して札を奪うかに注目が集まります!』


 私たちは列の一番前、一番左にいた。偶然その場所にいたのが幸運だった。



「ジャッキー、これは無理だ!」


「相手が多すぎるよ!逃げよう!」


 私とサキーは開始の合図と同時に逃げた。誰もいない場所に走れる位置に立っていたからできたことだ。



「待てっ!あっ、くそ、邪魔すんな!」


「それはお前だろ、俺の足を踏みやがって!痛えな!」


 私に向かって大勢が殺到したせいで転倒や激突が相次ぎ、小競り合いが起こった。


「あいつをやる前にお前からぶっ倒してやる!」


「やってみろバカヤロー!」


 そのまま喧嘩は大きくなり、潰し合いが始まった。その隙を突いて誰かが私に迫ろうとしても、別の誰かがそれを許さずカットする。そしてそこでも激しい戦いになる。



『ジャクリーンを巡る戦いは意外な展開に……いや、こうなるのは明らかでした!ジャクリーンの札は一枚しかないのですから、仮に札を取ったとしてもそこから奪い合いになるのは確実!』


 リングは決勝トーナメントから使用される。今はフィールドで戦っていて、魔法の威力ダウンも殺傷力の高い武器の没収もない。相手の攻撃を受けたら一発で脱落もありえた。


『おっ!?札を五枚持った選手たちが次々とエリアへ!ジャクリーンの親や仲間が不法占拠する場所に入っていきました!』


 私たちのそばにいなかった選手は普通のルール通り札を集めた。結果的にはそれが正解だった。


『シューター・アントニオ王子、フランシーヌ、『アブドゥラ』が入り……これで15人!』


 

 二次予選進出者が増えていくと、大乱闘はますます激しくなった。人数制限があるから焦り、大技の連発になる。


「くそっ、まだまだ……ぐえっ!?」


「なんだ!?うわっ、火が降ってきた!」


 よその戦いの巻き添えで倒れる選手が続出し、私を狙っていた集団も大混乱に陥った。私を追うどころではなくなっていた。



「そろそろこっちから攻めていくぞ!時間がない!」


「………ん?あれは………」


 倒れている選手たちのそばで札が散乱していた。何枚か持っていた人が倒され、その相手も力尽きてその場から動けなくなっているようだ。


「………」 「………」


 周りには誰もいない。札の集め方に指定はなかったから、私とサキーは落ちていた札を急いで拾った。



『あ、あいつら!戦わずに札を!誰かなんとかしろ!』


 王様の叫びも虚しく、私たちを止める人間はいなかった。全員自分のことでいっぱいだ。


『ジャクリーンとサキー、安全エリアに到達!一次予選通過です!』


「よし!」 「やったあ!」


 反則や卑怯な手は全く使っていない。堂々の勝利だ。



「ジャクリーン様!頭脳も超一流なのですね!」


「わたしが言った通りになったでしょ。お姉ちゃんならこれくらい無傷で突破するって!」


 みんなが私のもとに集まり、胴上げが始まった。まだ一次予選だよと言う間も与えられなかった。


「そーれい!そーれい!」


 またしても悪目立ちして、周りからの視線が痛い。ライバルであるはずのサキーやフランシーヌさんまでこの輪に加わっているから、何も知らない選手たちは不思議そうに見ていた。




「実力はわからんが……愛されているようだ、あの女は。だから勝てるというわけでもないがな」


「………愛されている………」




『一次予選終了!1000人の強豪たちが早くも100人に絞られ、次の二次予選では50人になります!』


『次の競技は『魔玉の的当て』だ!持ってこい!』


 王様が合図を出すと、魔玉と呼ばれる黒い玉と的が運ばれてきた。片手で持てる大きさの魔玉は一人につき一つ、丸い的はいくつも置いてある。


『魔玉の重さは私の体重の二倍だ。しかし魔力があればあるほど軽く感じるように作られている。そいつをあの的目がけて投げるというゲームだ!』


 大柄なゲンキ王二人分の玉を軽々と投げるパワー、もしくは膨大な魔力が必要だ。しかも投げた距離を競うのではなく正確さが求められるから、要求されるものの種類は多い。



「そばに置いてある的は当てやすいが得点が低い。遠くの的は当てにくいが高得点……ここが明暗を分けるかもな」


 誰でも当てられそうな目の前の的は1点、一番遠い的は10点と書かれていた。失敗すれば0点だからそれよりは無難に近くの的を狙うべき、しかしあまり消極的だと50位以内に入れないかもしれない……頭を使う必要もあった。


『純粋な肉体の力、もしくは魔力を試したい。よって魔法の使用は禁止する!魔法を唱えなくても魔力を持っていれば勝手に投げやすくなるのだから問題はないはずだ!』


「ううっ………」


 数秒だけ肉体を強化できる魔法が使えなければ私は厳しい。投げるどころか持つことすらできずに失格だ。



(フフ……ジャクリーン・ビューティ。今度こそ終わりだ!我らへの不敬、償ってもらうぞ!)

 処刑完了!横浜DeNAベイスターズ、まずは雑魚を処してファイナルへ!しかし怪我人たちが気になる……。

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